夏祭りと言えば、何を思い出しますか?
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たとえば、気になっているあの人から夏祭りに誘われた、
とか。
夏祭りの夜、花火が上がったタイミングで夜告白された、
とか。
そういうロマンスが生まれやすいのが夏祭りですよね。
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かくいう私はそういったロマンスはあまりなく、
夏祭りと言えば、香ばしい焼きそばやたこ焼きなど
屋台巡りに目が行ってしまう質でして。
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中でも私の記憶の中に確り刻まれているのが、綿あめの味です。
そう、「ふわふわのお菓子」の味なのです。
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皆さんは夏祭りの「味」といえば何を思い浮かべますか?
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今回は私の記憶にある、
「綿あめ」と「夏祭り」
に関するお話をひとつ。
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願わくは、皆さんの夏の思い出のおともになれれば幸いです。
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私は親の仕事の都合で、中学卒業まで3年程度の周期で、
離れた土地に移り住むような環境で育ちました。
そんな私の、小学校低学年のころの思い出話です。
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その町は都会からは離れていましたが、どこにでもある住宅街で、大型団地があったり、学校や公園、図書館などもある普通の町でした。
町の中心には100メートル四方ほどの大きさの、ベンチだけがポツンとおいてある更地--近所では広場と呼ばれていた場所--がありました。
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夏の終わりには、そこにやぐらを立て、住民が集まるお祭りが毎年催されていました。
その広場だけを使った規模の小さなお祭りでしたが、焼きそばやたこ焼き、フランクフルト、イカ焼きなどいろいろな香ばしい匂いが広場中を包み込んでいました。
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祭りの運営所では大きなコンポから盆踊りの音頭を流し、
みんなが一緒になって、ゆらりゆらりと踊ったりする、
とても楽しいお祭りでした。
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私は幼いながらに社交性の高い子どもだったようで、
住んで半年のその土地でも学校での友達をすぐに作っていて、
お祭りでもその友人と一緒にたこ焼きを頬張ったり、
かき氷の早食い競争をして頭がキーンとなったりと、
とても楽しい時間を過ごしたのを覚えています。
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綿菓子を購入し、それを口に含みながら
射的の列に並んでいるときでした。
突然、盆踊りの音楽が消えました。
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再生機器のトラブル
ではないようでした。
踊っていた人たちの足音が一切聞こえなくなり
会話している人たちの声までもがなくなったのです。
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「なんだろう?」
ついさっきまで一緒に話していた友人2人に声をかけます。
返事がありません。
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顔を覗き込むと、
どちらも目がうつろになっていて、
口もだらしなくあけられていました。
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屋台のおじさんも、
列に並んでいる大人も、
踊っていた人たちも、
みんながみんな
同じような生気のない顔をしていました。
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唯一聞こえてくるのは、
ジュージューという、
熱された鉄板から聞こえる、
焼きそばやたこ焼きが焼ける音だけでした。
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訳が分からずこわくなった私は、列から飛び出そうとしましたが、
足が震えてなかなか動けませんでした。
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そのときでした。
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更地の横をとおる歩道を、
ゆっくりと動く、
人の形とも取れない黒い影が、
目に写りました。
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のそ…
…のそ。
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ゆら…
…ゆら。
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ずる…
…ずる。
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鉄板の焼ける音だけが聞こえる中、
その黒い影の引きずるような音が、
耳に入ってきます。
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口の端についた綿あめが、
いやに甘く、不気味にすら感じました。
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ずる…
…ずる…ずる…
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動けば気づかれる。
声を出せば気づかれる。
目を背けたら気づかれる。
私はじっとして、ソレが通り過ぎるのを待ちました。
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ずる…ボソ…
…ずる…ボソボソ……ずる…
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黒い影はボソボソ何かを言いながら移動していました。
何を言っているのかまでは聞き取れませんでした。
ただ、言い知れない強い怨念のようなものを感じたのだけは、
今でもハッキリ覚えています。
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ソレが離れていき、
目の端から消え、
重苦しい気配がスッと消えたと同時に、
盆踊りの音楽が流れ始め、
まるで何事もなかったかのように周りの活気が戻りました。
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友人の顔はさっきまでとは違い、
いつも通りの元気いっぱいの笑顔であふれています。
先ほどまでしていたであろう、他愛もない話を
楽しそうに口にしていました。
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私はどうしようもなく恐ろしくなって、
友達に気分が悪くなったと伝え、
親の元に戻り、
すぐに家に戻ることにしました。
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翌日、友人に昨日あったことを話してみましたが
ふざけているのだと笑われてしまいました。
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黒い影のような異物にでくわしたのは
それが最後でした。
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翌年もそのお祭りは開かれ、友人に誘われてもいましたが、
当然私は行く気にはなれませんでした。
遠くで盆踊りの音頭や祭囃子が聞こえる中、
家でテレビを見て過ごし、
親がお祭りで買ってくる焼きそばとたこ焼きを断ることもできず、仕方なく口に運ぶのでした。
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少しだけ、考えすぎかもしれませんが、
焼きそばが焦げているような部分があったような気がしました。
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私は確信していました。
今年もあの黒い影が出て、
そのときみんなはうつろな顔をしていて、
鉄板だけが熱されたままだから、
焼きそばに焦げている部分ができてしまっているのだと。
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あの黒い影は一体何だったのか。
あの日の夜に近くで事件があったとか、
その場所が呪われているとか、
よく物語でみるようなわかりやすい展開は
一切ありませんでした。
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ただ、少し前に某匿名掲示板でその町のことを検索すると、私と同じような体験をしたという書き込みを見て、
「あぁ、あれはやっぱり勘違いではなかったのだな」と、
胸のつかえがとれたように感じました。
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これが私の体験した、夏祭りの思い出です。
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ちなみにそのお祭りは
今年も開催されているようです。
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おわり
作者ふわふわのお菓子
作者の名前の由来ともなる作品。
実話。意味が分からない。
いまでも大好きな綿あめだけど、
夏祭りではもうきっと買わないと思う。