短編2
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来者【三題怪談より】

いつからだろう。

夫と言葉を交わす事が少なくなった。

互いの仕事の時間が合わない事から、寝室も別々になった。

食事の用意はしているが、共に食卓を囲む事も久しくしていない。

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(このままの関係で良いの?)

そう思いながらも口に出せない不満を抱えたままの日々を過ごしていた。

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その日も、自分の分の朝食の後片付けをし、夜勤から帰る夫の為に用意した食事にラップをかけてテーブルに置き、菊子は家を出た。

勤務先の図書館では、週に一度、幼児を対象にした読み聞かせを行っている。

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普段は図書館司書としてカウンター業務や裏方仕事が多く、好きで選んだ仕事ではあるが、やはり子供達の笑顔を目の当たりに出来るこの時間は格別だった。

本を手に読んでいると、隅に座る男の子が目に入った。

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幼児を対象にしている事から、親が付き添っている中その子は1人で床に座り、親らしき姿は見当たらない。

気にはなったが、少し席を外しているだけなのかもしれないと思い、この日の読み聞かせは終わった。

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本の整理を済ませ、外に出ると既にとっぷり日が暮れている。

駐輪場に足早に行くと、そこには先程、読み聞かせの時に1人でいた男の子がしゃがんでコンクリートの地面に何かを描いていた。

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「ボク?1人なの?お母さんは?」

そう聞いたら、男の子ははにかむ様に今描いていた絵を指差す。

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夜に子供を1人で置いて帰る訳にも行かず、どうしたものかと思い倦ねていると、男の子は空にポッカリ浮かぶ満月を見上げ

「いつか…見せてね…」と呟き、菊子の手に小さな指を絡め

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「ママ、またね」そう言い、その姿は夜の闇に溶ける様に薄れて消え去った。

胸が愛おしさで溢れ、涙が止めどなく流れる。

(夫ともっと話をしよう。あの子を産んであげる為にも…)

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駐輪場の地面には…菊子と夫らしき人物。

そして真ん中にあの男の子が3人で仲良く手を繋いでいる絵が描かれていた。

【792文字】

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これは怖いと言うより、微笑みが出る話ですね。
天使ですよ。
映像が浮かんできました。

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