中編3
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双子

多分誰かのお話。

どう読み取るかはあなた次第です。

「うぃー、あっちー」

誰かの声が聞こえる。

四時間目が終わり、弁当の時間になった。

この学校は土地の関係上、夏になると地獄みたいな暑さになる。

無論、私も暑い。

ここは女子高でかなり有名であるが、全くクーラーが効かない。

「一緒に食べよ?」

そう言いながら近寄ってくるのはA子だ。

少しふくよかだからすぐわかる。

「分かった。ちょっと待ってて」

机の横にかけてある弁当袋を机の上に置く。

「弁当袋⋯可愛いね!」

「ありがと。自分で作ったの」

私の母はいない。

父と妹と暮らしているので弁当は大体私が作ってるし、裁縫もやたら得意だ。

「女子力高いなぁ。私なんか弁当の中身茶色ばっかよ」

A子の弁当の中身を覗く。

唐揚げとハンバーグと⋯多分冷凍食品のスパゲティだ。

「まるで男子高校生の弁当ね。野菜という野菜が入ってないわね」

「米って野菜よね?」

そう言ってでかくて丸っこいおにぎりを出してくる。

「米は穀物よ」

そう言いながらおかずに手をつける。

今日のは渾身の出来だ。

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「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま~」

こいつ、ちゃんと咀嚼してんのか?

「そういえばKちゃんって兄弟姉妹いたっけ?」

「あー、妹がいる。一卵双生児だからそっくりだよ」

とは言ってもあまり仲がいいわけじゃないけど、と付け足しておく。

「双子ってなんか憧れる!なんかかっこいいし。私は弟一人に妹二人だわ。弟は生意気だから妹三人ほうがよかったわ」

「僕もその話混ぜてもらっていい?」

僕の一人称を使うのはあの子しかいない。

「Y子?いいけど、一人っ子じゃなかった?」

「いいや、双子だったよ」

だったってことは⋯。

「僕は妹だったんだけど、お姉ちゃんのほうがすぐに死んじゃったんだ」

矢継ぎ早に喋り続ける。

「母さんがよく言うんだ。僕の代わりにお姉ちゃんが身代わりになったんじゃないかって」

「でも何かあってお姉ちゃんを忘れたくないし、お姉ちゃんに体がないのはかわいそうなの」

「だからね、あんま親しくないけど見せるね!」

そう言っていきなりカッターを脱いだ。

「ヒエッ⋯」

Y子のお腹には痣があった。

刃物でえぐったような跡が三つ、まるで泣いてるかのような顔に見える。

「どう?これで何があっても忘れないでしょ?」

ああ、こいつやべぇ。

頭のねじが5本は軽く外れてやがる。

とりあえずA子にアイサインを送ると、うなずきが返ってきた。

「み、見せてくれてありがと」

少し上ずった声になってしまった。

Y子は満足そうに自分の席に帰ってった。

あの気持ち悪さは多分忘れられないだろう。

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次の日になったが、あの痣を忘れられない。

それどころか夢の中にすら出てきた。

「はぁ、朝なのに気分が上がらん」

一時限目は体育だし、マジで動きたくない。

「おはよ!Kちゃん!」

「おはよ、A子」

校門でとりあえず挨拶する。

昨日のことは蒸し返さないほうがいいだろう。

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ホームルームが終わり、さっさと着替え始める。

Y子はいっつもトイレで着替えているが、今日は教室で着替えるようだ。

目をそらそうとするが、ついつい見てしまう。

怖いもの見たさがあるのだろう。

ちらりと見た。

きれいなお腹だ、あの痣なんてない。

「え、なんで?」

大きな声をあげてしまった。

あの醜い顔のような痣がない。

あの脳にこびりついて離れない痣がない。

あの気持ち悪い痣がない。

「どうしたの?」

A子が話しかけてくる。

「Y、Y子の痣が⋯」

「痣?そんなのないよ」

「え!?でも、昨日⋯」

何回見直してもあの痣は見えない。

あの痣はなんだったんだ!?

「Kちゃん昨日学校来てないよ?というかその痣なに?」

言われて自分の腹部に視線を向ける。

自分のお腹にまるで顔みたいな痣がある。

あの痣が。

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