大学1年になり中学・高校とテニス部だった事もあり、僕はテニスサークルに入部した。
大学という新しい環境に戸惑いながらも友達もすぐ出来て楽しい大学生活を送っていた。
入部したテニスサークルは、テニスメインというよりは、サークル室でゲームしたり定期的に飲み会を開いたりと、
交流がメインのサークルだった。
中学・高校は厳しい練習、上下関係で辟易していて気楽にテニスがやりたかった僕には丁度良い環境だった。
夏になると夏合宿と銘打って1週間長野県の山奥にある合宿所へと向かうことになった。
夏合宿では9:00から17:00まで昼食や休憩を挟んだりしながら練習をして
その後夕飯兼飲み会というスケジュールで和気あいあいと進んでいった。
最終日前日の夜、先輩達主導で合宿所近くにある廃墟を使って肝試しが行われることになった。
廃墟の各所に先輩達が待ち伏せしていて入ってきた1年生達をあの手この手で驚かせるというものだった。
廃墟は昔誰かが住んでいた一軒家風の作りで、見た目にもかなり老朽化が進んでいた。
1年生が1人ずつ廃墟の中に入っていく、廃墟の玄関から入り廃墟を一周して玄関まで戻ってきて終わりというルートだ。
先輩たちの色々な手によって驚かされながらも廃墟の中を進んでいく。
もうそろそろ周り終わるという場所にトイレのある部屋があり、
扉を開けてみると壁に海から無数の白い木の枝が生えている絵が書かれていた。
何だか不気味だなと思いながらもトイレには先輩は待ち受けておらずそのまま入り口まで戻り僕の順番は終わり、
その後も特に何もなく肝試しは終了となった。
夏合宿の帰りのバスで隣に座った同級生のキミノリが話しかけてきた。
キミノリは長髪で肌が白くて、いわゆるイケメンという奴だ。
「夏合宿楽しかったな!今まであんまり喋ったことないやつらとも仲良くなれたりしたし」
「そうだなあ、今まで仲良しグループ毎に固まってたけど輪が広がった感じがするな」
「そういえば肝試しの時、お前トイレのある部屋見た?」
「あぁ見たよ、壁に海から白い木の枝が生えてる気味の悪い絵が描いてあったよな」
「そうそう、先輩たちが驚かしてくるよりあれが一番怖かったな」
バスは大学に夕方頃に到着し、遊び足りなかった僕たちはそのままサークル室に向かい合宿の思い出話なんかをしながら酒を飲み始めた。
その翌日、1週間山にずっといたから海に行こうとその場のノリでなり近くの海水浴場に向かった。
海水浴場に到着してしばらくして砂場でのんびりしていると、遠くの方から叫ぶような声が聞こえてきた
「た、助けてくれ!!」
声のする方を見ると海の遠くの方で誰かが叫んでいた。
「助けてくれ!引っ張られてる!」
目をこらしてみるとキミノリだった、キミノリが溺れそうになり助けを求めていた。
泳ぎが得意だった僕は急いで海に飛び込み、キミノリの元に向かった。
キミノリまでの距離が半分の所でキミノリの声が聞こえなくなり、たどり着いた時にはキミノリは息絶えてしまっていた。
キミノリは中学までは水泳部で泳ぎは得意だったし、波の荒い海では無く今までそういった事故も起こった事がないとのことで原因不明の
事故死だった。
それから1年がたち僕は2年生になった、当然のことだが僕らは上級生となりテニスサークルには新入生が何人も入ってきた。
キミノリの事も少し忘れかけて大学生活にも慣れてしまっていた僕らにとっては新入生は新たな刺激だった。
キミノリの事は不慮の事故死でもあったし新入生には伝えないでいた。
夏になり夏合宿の時期となった、上級生になった僕らはスケジュール調整や場所決めやレクリエーション決めなどの計画も任される事となった。
と言っても場所やレクリエーションは毎年同じらしく、今年も例にならって去年と同じ場所でレクリエーションも同じ肝試しとした。
9:00から17:00まで練習その後夕飯兼飲み会というスケジュールも去年と一緒ではあったが上級生という立場だとまた新鮮な気持ちで合宿を楽しめた。
そして最終日前日あの廃墟で肝試しを行う事となった、今年は驚かせる側でだ。
どこで待ち伏せしようかと思って、去年のあの気味の悪いトイレが思い浮かんだが何となく嫌だったので違う場所で待ち伏せた。
あのトイレで待ち伏せる人は誰もいなかった。
僕は死角に立ち、通り過ぎる1年生の後ろから肩を叩き驚かせるという方法で驚かせていった。
肝試しも無事終わり、今年の夏合宿も大きな問題も起こることなく帰り道となった。
帰りのバスで隣に座った1年生のジュンが話しかけてきた。
「夏合宿楽しかったです!先輩との仲も深まった感じがしてこれからまたサークルが楽しみになりました!」
「それは良かった、来年からは君たちが合宿の仕切りもやっていくからよろしくね。」
「はい!それはそうと先輩、肝試しした廃墟のトイレの壁見ましたか?」
「あぁ、去年見たよ。あの気味の悪い絵が描いてあるトイレだろ。」
「はい、とても気味が悪かったです。海から無数の真っ白な手が伸びてて長髪の白い肌の人に絡みついてる絵」
作者マリ夫