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これは私がまだ高校生だった頃の話です。
当時私は家から20キロ離れた場所にある高校に通っていたため、通学は毎日電車でした
その日も、いつもと変わらず学校へ向かうため
駅のホームに立っていました。
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電車が来るというアナウンスを耳に、スマホをいじりながらベンチから立ち上がった瞬間
凄まじい頭痛と寒気が一気に襲ってきて
熱でもあるんだろうか、と思いながらふと電車の方を見ると
電車の上に何かが乗っていることに気が付きました。
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それは逆光でよく見えず、ぐっと目を凝らしてようやくそれがなんなのか理解できました。
ボロボロの服にちぎれた腕
血まみれの男性が電車にしがみついていたのです。
実は私の母方の家系がそういったものを見たり聞いたりするちょっと変わった力があるらしく
私の祖母や母も不思議な経験をしたことがあり
遺伝するものなのかは分かりませんが、私も時たま見てはいけないものを見てしまうことがありました。
その時も、「ああ、生きてないな。」とすぐにわかり
そういったものを見てしまった時は気付かないフリをするのが一番だとわかっていたので
気付かないフリをしながらも電車に乗る勇気は出ず
そのままUターンで家へ帰りました
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その日の夜、私は原因不明の高熱が出て
夜間救急へ行っても理由は分からず
次の日には腕がとてつもなく痛くなっていた為、「ああまずいな、ついてきちゃったかな」と思いつつも
もし単なる偶然だったら、もし近くで聞いてたら、と思うと怖くて言い出せず
そのまま3日間体調不良に悩まされ、学校を休んでいました
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4日目の朝、それまでの苦しみが嘘かのようにスッキリしていました
ああよかった、単なる風邪だったのかな!と思いながら学校へ行く準備をし、駅のホームで恐る恐る電車を待っていると
以前と変わらず何もおかしなところのない普通の電車。
安心して久しぶりの学校へ向かいました。
それからはしばらく何事もなく、いつも通りの生活をして
いると思っていました。
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その頃、なんだか母の様子がおかしかったのです
私を見ると一瞬険しい顔をしたり、私が買い物に行く、と言うと普段は知らん顔なのに必ず着いてきたり、学校に行くのは友達と一緒に行け、と言ってみたり
とにかく私が1人になるのを避けたいようでした。
しかし丁度その頃、近所で不審者騒ぎがあったため
私はてっきりそれが理由だとばかり思っていました。
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ある土曜日、目が覚めてリビングへ行くと
両親が話をしていたので
「おはよー」と声を掛けると、二人ともこっちへ勢いよく振り返り
「ちょっとこっち来て。」と何か怒ってるのかな?と思うような声音で言われ
私は不思議に思いながらも言うことに従い母の隣に座りました。
すると母が険しい表情で私の肩を掴み
「明日、お寺行くよ。ちょっと遠いけど、大雄山っていう山にお寺があってね。天狗さんを祀ってるお寺なの。そこに行こう。」と言い出しました
お寺?なんで?と聞くと、母はいいから!とだけ言って理由は教えてくれませんでした
その日は早めに寝ろと言われ、20時には就寝したと思います。
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次の日、朝から車で2時間程走って
母の言っていた「大雄山」へ到着。午前11時頃です。
山全体がお寺の敷地のようで
麓から階段で少し上がった場所に靴を脱いで上がれる観音様を拝める場所があり
そこは観光客が結構いました。
母はまずここに入ろう、と私の手を引いて建物に入って、私を座らせてから観音様を拝んでいました。
しかし
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私の記憶は、母の背中を最後にプツリと途切れ
気付いた時には建物の外に立っていました。
その建物内で何があったのか、どうしても思い出せないのです。
それから山の頂上にあるというお寺へ向かうため、階段を登り始めました。
登り始めてすぐに、大きな門があり
その門の両脇に、天狗の石像がありました
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その天狗の像は大きな葉っぱを持っており、その葉っぱで風をおこして邪気を払う
という意味があるらしく
その石像に触れれば悪いものが払える、と
観光客や参拝客は皆その石像に触れていました。
母が「ほら、あんたも触ってみな」と促してきて
私自身すごいなぁ、と思いながらその像を見ていたため、躊躇いはありませんでした
周りの人がやっているように、天狗の石像の足に触れた
その瞬間
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shake
バチッ!!!
と凄い音がして、指先に激痛が走り
眩い光が走ったのです
母も周りの人も、もちろん私も
驚いて固まり、一瞬で辺りは静まり返りました
時期は夏、なにより相手は石像です
静電気など発生するわけがありません
しかし私の指先はジンジン痛み、赤くなっていたため
それは紛れもなく事実でした。
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さすがに気味が悪かったものの
そのまま山を登り、頂上のお寺へ到着しました。
頂上の端っこから、何やらお経のようなものが聞こえてきます。
そこは色々な祈願やお祓いをする建物で
実際に中には依頼をして祈願のお経?をしてもらっている方々がいました。
私達は予約は入れていなかったため、母が空いている時間がないか後で聞いてみる、終わるまでここにいて聞いてよう、と一番後ろの椅子に座り
手を合わせていたため
私もよく分からないなりに母の見よう見まねで同じように手を合わせました
そして、そこからの記憶はまた途絶えます。
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気付くと私は車に乗っていて、それは家に向かっているのだと分かりました。
どうやら私は眠っていたようです
ふと右手首に違和感を感じて見てみると、そこにはお数珠のブレスレットがつけてありました
私が目を覚ましたことに気付いた母が「おはよう、もう大丈夫だよ」と言ってきたので、何があったのかを聞いてみました。
以下は母の話を要約したものです
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違和感に気付いたのは私が熱を出した日。
私の右肩に黒いモヤが見えたそうです
しかしその時はただの気のせいだと思おうとしていたらしく
何も触れないでいて数日たって私が落ち着き、安心した矢先
夜中の3時くらいにトイレに起きると、私の部屋から声がして
まだ起きているのかと叱ろうとドアを開けると中は電気は消えていて
しかし声はする。
私が誰かと会話をしているかのように「うんうん、だよね。あははは、そうなんだ」と喋っているので
寝言…?と思いながら私の顔を覗き込んだそうです。
私の家はマンションで、私の部屋は共有通路側にあるので
通路の蛍光灯の明かりで真っ暗にはならず薄暗いくらいになります。
なので表情やなんかは見えるのですが
私は目を開けたまま、ただひたすらに言葉を発していたそうです
瞬きもせず、しかし明らかに意識はない様子
そして母が私の名を呼ぶと、突然目を瞑り、寝息をたてはじめたそうで
ああ、この子何かに取り憑かれてるんだ、と確信したそうです
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それから大雄山のことを友人に聞き、私を連れて行ったということらしいのですが
正直母が焦ったと言っていたのは
観音様の建物と、頂上のお経?を読み上げていた建物でのことだったそうです
まず、私は観音様の前に座って少しした頃
突然体を大きく揺らし始めたそうです
母がそれに気付いて私に声をかけると、私は「早く出ようよ、ここやだ。嫌い。早く出たい。」とワガママを言い出し
もう少しだけだから、と止めると
突然目付きが険しくなり「いやだ!!出るから!私出るから!!」と叫んで外に出ていったとのこと
もちろん私は一切覚えがありません
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それから石像を抜け、頂上の建物に入ってから少ししてからの出来事は
一生忘れないだろうと言っていました
どうやら、私の記憶が途切れた辺りで
お坊さんが私を見て、手招きをしたそうです
「もっと前に来なさい。」と言われ、私を連れて移動すると
お坊さんが「うん、良くないね。大丈夫、もう怖くないからね。」と言って
よくお祓いの場を撮影したテレビ番組なんかで見る、棒の先にひし形の紙がついたやつ(なんて名前かは知らない)で
私の肩や頭をバサバサ払い出したんだそう。
予約もしてないのに?と思いながらその光景を見ていると
私が突然唸り出し、「触るな、触るな!やめろ!」と怒り出したそうです
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体は激しく揺れ、お坊さんを嫌がるように手を振り回して抵抗していたらしく
母はその私を見て「今は私の娘じゃない」と思ったそうです。
しばらくそのまま時間が過ぎ、少ししてから私が泣き出したらしいです
そして泣き出した私の肩を優しく撫でながら
お坊さんが「辛かったね、よく頑張った。でも乗ってちゃだめだ、分かるね?」と語りかけるように呟いて
それから少ししたら私が「ありがとうございます」と言って
お坊さんが母を見て「もう大丈夫。
生きることをやめてしまった方がお嬢さんを頼りにしてしまったんですね。
外のお店でお数珠を買っていきなさい。白檀のお数珠です。必ず右手に持たせるように」と言ったらしく
母はお坊さんにお礼を言い、言われた通りに白檀のお数珠のブレスレットを買い
私につけさせて手を引いて山を降り
車に乗った途端、私は電池が切れたように眠りだし
しばらくしてから目を覚ました
ということらしいです。
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大雄山から帰宅してからは、何事もなかったかのように平和な日々が戻ってきました。
それからしばらくして、私の見たあの男性がなんだったのか判明しました
3つ隣の駅で、私があの男性を見た日の早朝に人身事故があったことを知りました
私が学校に行く頃には復旧していたので、友達から聞かされるまで知りませんでした
37歳の男性が、線路に落ち、そこに電車がきて轢かれて死亡。
電車と接触した際に右腕が飛んでしまったらしいです。
直感で「あ、その人だ。」と確信しました
お坊さんが「生きることをやめてしまった方」と言っていたのを考えると
おそらく自殺だったのでしょう。
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私は覚えていないことの方が多いし、なぜ私が選ばれたのかも分かりません。
ただ、生きることに疲れてしまった方が助けを求めてきていたのだと思うと
気付いてあげられなかったことを非常に申し訳なく思います
あれから数年、今でも白檀のブレスレットは大事にしています。
あの時に行動してくれた母には感謝しています
もしあの時母が気付いてくれなかったら、私は今頃きっと…。
作者シラカバ