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閉鎖された西校舎(前編)

長編12
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閉鎖された西校舎(前編)

随分と昔の話です。しかし今も鮮明に、ついさっきのことのように覚えています。

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これは俺が小学生の頃の話。当時俺の住む地域では急速な過疎化が進んでいて、同年代の友達なんて数人しかいなかった。そして、その地域に住まう同年代の子どもがみんな友達でした。中でも仲が良かったのは同い年のTとM、そして俺と同じ余所者のSでした。俺は余所者でS含めみんなと出会ったのは、小学生4年生の頃です。

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俺は前の地域で、ある問題を起こして引っ越すことになったのだ。それについてはここで後々語る。そんな俺でもすぐにみんなと打ち解け、毎日のように山を探索したり川で泳いだり、田舎の生活を満喫していた。都会暮らしなんかより余っ程良い毎日だ。そんな風にわざと過去の生活を悪く思うようにしていた。

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そんな田舎暮らしにもひとつ欠点があった。それは学校。別に勉強することや早起きや宿題が嫌なわけじゃない。友達もたくさんいたし、先生とも良好な関係を築き上げてると思えるほどには上手く行ってた。では、どこに欠点があったのかというと、校舎です。

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俺や友達は普段は東校舎とよばれる校舎で授業を受けていました。東校舎と西校舎は、各階ごとに突起物のように飛び出た通路で繋がれていましたが、俺たちが西校舎に足を踏み入れることは許されませんでした。なぜかその通路には頑丈過ぎるほどの南京錠と錆の入った鎖で閉鎖されていたのです。

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西校舎は別に古いわけでもなく損傷もみられませんでした。しかし別にそれだけなら、さして気にも留めるほどのものでもないし、気にするに値しません。問題は西校舎への人々の異常なまでの反応でした。

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先生は俺が引っ越してすぐの時、わざわざ生徒指導室にまで呼び出して厳重に「西校舎へは絶対行くな」と警告した。俺はまだ環境に慣れていなかったので当たり前のように「はい」と良い返事をした。そして俺は教室に案内され、自己紹介をし、みんなと出会ったのだ。

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ホームルームの時にはもうすっかりみんなと仲良くなっており、下校の際は家の近いTとMとSと帰ることになっていた。4人で談笑しながら玄関を出ると、俺の目にはある光景が写った。

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なにか不都合なものを隠すかのように新聞紙で覆われている西校舎の窓。その窓の向こう側、旧校舎の中の存在を人影が示す。その人影は人影なのにせわしくせわしく明滅しながらこっちを...、というか俺を見ていた。正確には見ているように感じた。

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俺が呆気に取られてその人影をみていると人影は両手をあげた。その瞬間身体を海老反りにしたかのように影が縮みこみ、その勢いを糧におそらく窓を叩いた。窓は音を立てて揺れた。人影は笑うかのように両手をあげて震えている。俺は恐怖でいっぱいだった。「ちょ、S、T、M...なにあれ」。俺がそう呟いてみんなの方を向くと更に驚愕することになった。TとMは死んだ魚のような冷たい目で俺を見つめている。真顔で。

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Sは下を向いていた。しかしSが少し物悲しいような表情でいることは見て取れた。しかしそんなことを気にとめてる余裕なんてなかった。なんと真顔で俺を見つめているのは、TやMだけじゃない。下校のため校庭を歩いてた生徒が、みんな俺をみつめていた。

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俺は狂いそうだった、人影を見てから今に至るまでの数秒で世界が変わったかのように思えた。しかし俺が戸惑って数秒経つ頃には、みんな何事もなかったかのように下校してた。TとMも普通に戻ってた。しかしSだけは少し元気がないように思えた。俺はあの人影について思うことはあったが、敢えて触れないようにしながらその日は4人で下校した。

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その日、俺は両親にこの事を話した。すると父は疲れ果てたように俺に冷たく言った。「そんなことあるわけないだろ...そもそもお前は反省しているのか?家族全員を巻き込んだことに」と。すかさず俺は返した「だからあれは違うんだよ!なんで信じてくれないの?俺がやったわけじゃない!俺がするわけないじゃないか!!」。

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しかしこの問答が、この議論が不毛なことは俺も父親も母親もみんな分かりきっていた。しかし母親の様子がおかしかった。父親にそっと耳打ちをして、俺を早く寝かせようと促すのだ。

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俺はその日、布団の中で泣いた。凄く悲しかった。この気持ちを共有できる人がいない事、身の潔白をできない事。そして翌朝から普通に学校へ行き、西校舎の人影はしばらく見なかった。というより見ないようにしてた。もうあんな経験したくなかったから。それが幸をなして俺は、満喫した生活をおくれていた。

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そしてSとは"余所者"という共通点からよく話が合った。なんせかなりの田舎だから元都会民の俺とSにはこの暮らしは異世界での生活だったのだ。故に分かり合えたということである。

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そして家族とは相変わらず上手くいってなかった。それでも愛されてることは何となく分かっていた。

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しかしそんな平凡な日常も小学6年生の夏、突如として崩れ去ることになる。始まりはSとの会話だった。俺はSを信頼していた。なぜならあの日、あの人影を見た日、Sだけは周りの人とは違う反応を示したし、何よりも今まで語り合った田舎の不便さや都会にはない楽しさのこと。

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SだけはMやTとも違う、固い絆で結ばれていた。そして俺は今まで心の奥底に閉鎖していたあの人影、西校舎の話を切り出した。

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MやTとクラスの他の数人とK川に来た時の話である。俺はSをみんなとは離れた木陰に連れて行って尋ねた。

俺「Sはあの西校舎について知ってるの?」

Sの顔色が変わる。

S「知らないけど俺が来る前から立ち入り禁止」

俺「俺が初めてこの学校に来た時のこと覚えてる?」

S「うん、覚えてるよ」

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俺「あの時のみんなの反応は?」

S「覚えてる...、俺だって体験したことあるんだ。毎回そうだった。俺が西校舎やそれに関する話をすると、TやMも先生もほかのみんなも。もう意味がわからない」

俺「Sにもやっぱりあったんだね」

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2人は少しの間黙り込み、川の方からみんなの声が聞こえてきた。

T「おいM〜!知ってるか?隣のクラスのYちゃん、西校舎に行って行方不明なんだと〜」

M「えー!そうなのぉ?西校舎に行くからだよ〜」

T「だよね〜西校舎はダメなのに〜」

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俺とSは戦慄した。今まで絶対に西校舎の話題を出すことがなかった彼らが急に、この期に及んで...。そしてさっきまでこんな大声で話していなかったし、こんなわざとっぽい口調で話すのは明らかにおかしい。

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まるで俺たち2人にこれ以上話すなと警告してるかのようだった。しかし俺とSは川からだいぶ離れているし、聞こえるわけがなかった。きっと思い込みだと自分に言い聞かせ続けていた。

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すると急に辺りが暗くなった。黒い雲が空を覆い尽くし、ポツリポツリと水が空から滴り落ちた。やがてその勢いはどんどん上がり川にいたみんな、すぐに家へ帰った。しかしこの雨はこの不穏な雰囲気から俺とSを救ってくれた天からの恩恵だった。しかしこれは次第に大騒ぎに発展する。

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この豪雨はとどまることを知らずに、川は瞬く間に氾濫しそうな程に大量の水で溢れかえったらしい。既に帰宅してた友達もこの地域周辺に暮らす住民も、みな俺の通う小学校の体育館に避難する羽目になった。

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それを知った母の顔は急変し、父も目配せした。そして父が言った。「おい、〇〇(俺の名前)今から車に乗れ!今すぐに」。父の剣幕に驚き、俺は直ぐに母と車に乗り込み家を出た。

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しかし父親は学校へは行かなかった。大雨の中、ワイパーを忙しく動かして、ある場所へ向かっていた。「父さん、なんで学校に避難しないの?」すると父は分が悪そうな顔をした。母は俺の手を握りしめてるだけだった。車内は無言に包まれたまま、しばらくの時間が過ぎある神社についた。「ここであってるか?」父が母にそう確認し、母が頷く。すぐに俺と両親は車を降りて神社の中へ向かった。

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そしてそこにいる神主に母が久闊を叙するのであった。母と神主さんはどうやら知り合いのようである。「おやおや、随分と大きく成長しましたな。にしても凄い大雨じゃ。例の学校への避難が呼びかけられている様だが、御一行は大丈夫なのですか?」と神主さんは尋ねた。

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母が「避難するような場所じゃないことはよくご存知のはずでしょう」と苦笑いし、それもそうじゃと神主さんも笑顔で答えた。俺はこの大雨の中、何を呑気なことをしてるんだろう...と内心思ってたが特に気にはしなかった。

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父が「すみませんが、この神社に私たちを置いてはくださいませんか?もしも無理ならせめて〇〇だけでも...」と頭を下げたのだ。俺は唖然とした。

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しかし神主さんは冷静にこう返した。「それはならぬ。〇〇はあれに通っているのだろう?それに余所者と来てはな...、そうなるとここの者から怪しまれてしまう。そしたら〇〇君も△△(母)ちゃんも旦那様もなにをされるか分かったもんじゃない。

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私が体育館までついて行くから、御一行は名目上は、交通手段のない老人を気遣って連れてきたということにするのはどうじゃ?それなら安心であろう」そう言い終えると神主さんは、優しい笑顔で俺を見つめ、頭を撫でてくれた。

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両親は神主さんに頭を下げ、その提案を飲み、神主さんと共に車に乗り込んだ。雨は勢いを増すばかりだった。

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そして車内で母と神主さんは昔の思い出話に花を咲かせていた。神主さんの喋り方は優しくて聞いてると安心した。父さんも安心したのか、先程のピリついたオーラを発していなかった。そして余裕の出てきた俺は今までの会話を踏まえて状況を整理していた。しかし俺の通う小学校がなにか良くない場所であることと、ここに住む人々は何をしでかすか分からない危険な奴らだということ以外の結論は何も出なかった。

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学校に着くと既にみんな集まっていて、教員が避難状況や人数を確認するための受付をすぐに終わらせて、俺はすぐにみんなの所へ向かった。その時に神主さんから忠告された。「くれぐれも口を滑らせたりして、怪しまれることの無いように」と。俺はその忠告を守る旨を伝えみんなと合流し、いつものように談笑した。

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Sもいてみんな川の話でもちきりだった。「K川氾濫したらしいぞ!」「早く帰って良かったねぇ」「お家無事かな?」と首尾一貫してこの話だった。しかしあまりにも盛り上がってるものだから先生が他の避難者に迷惑がかかると、俺らに教室に行く許可をくれた。

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活動範囲の広がった俺たちは避難を満喫していた。例えば廊下でだるまさんがころんだ、をしたり黒板に落書きしたり、普段は自由にできない学校を自由に出来たのだ。あまりに自由にできるものだから俺はひとつの考えが脳裏に浮かんだ。

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Sと2人で西校舎を探検。ワクワクドキドキのひと夏の経験。校舎を自由に使い、テンションの上がってた俺に正論は通用しなかった。家族でさえ恐れるこの学校を制することが出来れば俺は家族よりも上である。そう思った瞬間今までの家族とぶつかってた記憶がフラッシュバックした。そして憤りを覚えた。

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そしてもし仮に西校舎へ行けば今までの、この2年間の謎が全て解けるかもしれない。俺とS、2人の親友の共通の謎。好奇心、友情、歪んだライバル心それらの要素が1人の小学生の心をくすぐる。

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その後の俺の行動は早かった。まずSと二人きりでトイレに行き、西校舎に行く計画を伝える。Sは躊躇ったが俺の勢いに飲まれ、乗り気になった。2人は体育館に戻ると嘘をつき、別の階にある西校舎へと続く通路を目指した。

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しかし2人はあの頑丈な門番の存在を忘れていた。頑丈な南京錠と錆びた鎖...、しかしそれを破る方法が一つだけあった。これが難関で、職員室にある鍵を取りに行くことである。しかし職員室にいる先生方のほとんどは体育館の受付にいるはずだし、今なら盗めるかもしれない。2人は職員室に向かい、中の様子を伺った。すると驚くことに中には誰もいなかった。

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俺はSに見張りをさせ、中に忍びこんだ。そして鍵を探したのだが、なかなか見つからない。四苦八苦して校長先生の机の引き出しを物色していると、それらしい見るからに古そうな鍵が出てきた。俺はすぐさまSの元へ駆け出し、そのままSを引っ張って例の通路に向かった。楽しくて仕方がなかった。いけないことをしているという高揚感がたまらなかった。

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そして南京錠を外し、鎖と悪戦苦闘した挙句にようやくフロンティアへの活路を切り開いた。しかし西校舎から吹いてくる不気味な風により、俺の戦意は幾分か奪われた。日が沈もうとしている夏の夕方。灯りのない西校舎は、窓も新聞で覆われているために、かなり暗かったが、そんな時のために職員室から盗んできた懐中電灯がより一層の輝きを放つ。Sと〇〇、西校舎探検隊はついに、学校の禁忌の一歩目をそして、二歩目を踏みしめた。

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西校舎は東校舎と対称的に造られているようで、まるで鏡の世界を移動してるようだった。Sは辺りを警戒しつつもやはり好奇心に満ちていると言わんばかりの表情を浮かべていた。東校舎も西校舎も三階建てで、俺達は今一階にいた。ほかの友達、TやMは三階建にいる。まず俺とSは一階の教室を全てみて回った。特筆すべきことは無かったが、やはり東校舎と違い妙な寒気がした。そしてトイレを覗こうという話になったが、それはさすがに怖いのでやめておいた。

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そして一階の探索が済み、二階に続く階段へ向かう時に違和感にきづいた。例の東西を繋ぐ校舎の通路の壁に御札が尋常ではない程貼り付けられていた。ちょうど俺たちが来る時には死角になってたのだ。Sは「やっぱりここは何かおかしいよ」と既にわかりきっていることを言った。俺は「だね、でもSも男だろ?ここで辞めたりはしないよな?」と釘を刺した。Sはもちろん!と意気込み、2人は二階へ行く。

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二階に着いて最初に俺たちが耳にしたのは、扉を横に開け閉めする音だった。ギィィ.......、ドンッ!!どうやら上で何かが起きている。そして微かに聞こえる足音。俺は凍りついた。全身の毛が逆立つのを感じた。すると下からもギィィ.....ドンッ!!と扉を開け閉めする音が聞こえた。さっきまでは誰もいなかったのに、独りでにドアが開くわけが無い。誰か来たのか?そして今度はかなり近くから足音が聞こえた。最初はゆっくり歩いてるようだった。

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しかも階段を一段一段、淡々と登っているらしい。俺とSは動けずにいた。すると急に足音が止んだ。俺が一瞬気を抜くと、タタタタタっ!!と凄い勢いで階段を走り上がって来る音がしたので俺はSの手を引っ張ってそのまま三階へ走り、逃げた。

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Sはもう完全に心ここに在らずといった様子で、涙を浮かべ、目を虚ろにしていた。俺はこのままでは奴に追いつかれると思い、三階の教室に身を潜めた。

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しかしそこで俺は身の毛もよだつ経験をする。教室には、マネキンのような人形のような人型の置物が置いてあった。それは2m程の大きさで、肌色、しかし身体は人間らしい歪さがなく、まさに作り物のソレだった。胸の膨らみもお腹の凹みも全て無く、気色が悪かった。しかし埃だらけの教室とは対照的にその人型の何かは綺麗だった。俺は完全に平常心を失い、固く握っていたSの手を離してしまった。

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するとその人型の何かは、震え出した。ガタガタガタガタガタガタと、そしてバタンッ!と地面に仰向けに倒れ込んだ。俺は気を喪いそうだった。そして仰向けになった奴の顔は今でも忘れられない。目の所と口の所に粘土に穴をあけたこのような凹みがあり、その口がゆっくりと次第に大きくなっていくのだ。その瞬間凄い速さで奴の顔が俺たちの方をむいた。

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そしてその人型の何かは自分の四肢を不器用に動かし、蜘蛛のように這って俺らの方へ向かってきた。その瞬間、教室の扉をドンッ!と凄い勢いでこじ開けて神主さんが飛び込んできた。俺は心臓が止まるかと思った。

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神主さんは、両親を連れており俺とSを見るやいなや「バカ者め!」と俺達に怒鳴りつけ、その人型の何かを凄い勢いで叩いた。するとその人型の何かは元の姿勢に戻って倒れていた。両親は俺とSを抱きかかえて、神主さんとその場を後にした。両親に抱きかかえられている道中、ずっと教室から笑い声や足音、椅子が地面に擦れる音がしていた。俺はもう何も考えられずにただただ唖然としているだけだった。

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通路に戻ると、俺は母から平手を食らった。父はSを抱きかかえながら「とりあえずS君の両親の元に急ごう」と足早にそこを後にした。俺は母と手を繋いで体育館へ向かった。神主さんは俺から取り上げた鍵を南京錠に再びかけて、なにか呪文のようなお祈りのような言葉を呟いていた。そして直ぐに俺たちの方に向かった。

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体育館に着く頃にはみんなに悟られないためにも平常を装う必要があり、俺は焦りを隠せないながらも出来るだけ自然に振る舞うようにした。Sもこの頃にはだいぶマシになっていて、一人で歩き、両親の元へ向かった。神主さんは両親に何かを伝え、俺は両親に釣られ車に向かった。Sの家もそうすると母から聞かされ、流れに身を任せることにした。

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