中編4
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サウナ

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ある日曜日、久々に早く起きた私は朝風呂を嗜もうと銭湯に出かけました。

私はサウナが好きで、時間があればよく近くのスーパー銭湯で汗を流しに行っています。

その日は開店時間ちょうどに入店したので、客は私を含めて2、3人しか居らず、サウナ室は貸切状態になっていました。

その日はストーブが直に当たる壁側の椅子に腰掛けることにしました。

12分計をしかと見つめじっとしていると、次第に額から頬にかけて汗が伝ってきました。

サウナの醍醐味といえばやはり水風呂だと私は思います。

極限まで我慢し、部屋から出た後に浸かる水風呂は火照り上がった肉体を瞬時に締め上げ恍惚な気持ちにさせてくれます。

あの一瞬の快感を味わうために、私はとことんそこに鎮座しました。

段々と頭を上げているのも辛くなり、顔を伏せながらふと壁の方に目をやりました。

(……まだ、貼ってある)

私が知る限り1年以上は貼ってあると思いました。

特に意識して見てる訳ではなく、それが注意を引くほど存在感がある訳でもないが、この席に座るとつい目に入ってくる壁板に貼られた小さな絆創膏。

おそらく過去に誰かここで座っていた人の絆創膏が何かの拍子で剥がれ、そのまま壁に貼り付けていったのでしょう。

別に貼ってあろうが無かろうがどうでもいいのですが、その時は何故かその絆創膏が少し気になってしまいました。

まず、この湿度の高いサウナ室でよく剥がれ落ちずに持ち堪えてるものだと思いました。

糊の部分が熱で粘着力が高くなったのかは分かりませんが、なかなかしっかりしたメーカーなのだろうと思いました。

また、店員が清掃をしに来たときに剥がしていかないものなのだろうか?

見た目が絆創膏なので、やはり誰かの傷口に貼ってあったものを真っ先にイメージしてしまいます。

微々たることではありますが、あまり衛生的ではないと思いました。

もしかしたら絆創膏の肌色が壁板の木色と丁度マッチしていて、パッと見たときに店員に気づかれなかったのかもしれません。

そうやって1年以上、誰にも気に留められず剥がされないまま、その絆創膏はそこに居座り続けてきたのでしょう。

私は何となく絆創膏に手を伸ばしハジから爪でカリカリと剥がし始めました。

予想してた通り絆創膏の糊が熱で溶けて壁の溝に入り込み、だいぶ剥ぎづらくなっていましたがどうにかガーゼの部分まで到達しました。

後は一気に引き剥がしてやろうと指に力を加え、めくろうとしたその時でした。

ガーゼの部分から、スッと何やら液体が流れ落ちました。

水よりも粘度があり、赤黒いその液体は血液にとても似ていました。

私は慌てて絆創膏を戻しましたが、液体は既に床まで伝ってしまいました。

そして次の瞬間

「お客様、失礼します」

後ろから店員さんに声を掛けられました。

「すみませんがサウナ室のマットをまだ敷いおりませんので、お手数ですが一度部屋の外でお待ちになられて下さい」

そう店員さんに言われハッとしました。

従業員さんは運んで来たワゴンからおもむろにマットを抱え込むと、手際良く端から丁寧に並べ始めました。

私はそそくさと部屋から出て水風呂に浸かり

対面の壁に付いていた時計をぼんやりと眺めました。

(今日はあと一回にしとくか…)

私が銭湯に来たときはいつも、2、3回サウナに入ってから身体を洗い、そこから露天風呂で少しゆっくりしてから最後の締めとして水風呂に浸かる。

これが大体の流れなのですが、その日は午前中に買い物に行こうと思っていたので、少し早めに切り上げることにしました。

腕に寒いぼが浮かび上がるくらいに身体が冷え切ったので、2回目のサウナに入ることにしました。

従業員さんは既に居なくなっており、代わりにまっさらなマットがそこには敷かれていました。

先程の謎の液体も綺麗に拭き取ってくれたのでしょうか、すっかり壁も綺麗になっていました。

しかし絆創膏は相変わらずそのまま貼り付いていました。

開店早々から従業員さんに手間をかけてしまって悪いことをしてしまったなと、少し気まずい気持ちになりました。

それにしても新しいマットは気持ちいいもので、私はつい誰もいないのをいい事にサウナ室の真ん中で大の字に寝転びました。

家にサウナがあったら毎日、貸切でくつろげるのにな…なんて思いながら天井を眺めていると私はある事に気付きました。

私の目線上に絆創膏が貼ってあるのです。

床から天井までおおよそで2.5mはあると思うのですが、なぜこんな高いところに貼ってあるのだろうか?

しかもよく目を凝らして見てみると、絆創膏のお馴染みのあの色が天井の茶褐色と丁度合っていて、最初は分からなかったのですが、実は天井の端から端まで無数の絆創膏が貼ってある事に私は気付かされました。

中には赤黒く変色した絆創膏がチラホラあったりと見れば見るほど異様な光景でした。

私はしばらく天井を眺めてると急に頭がクラッとして胸が締め付けられる感覚に陥りました。

暑さでのぼせたのか分からないのですが、私はサウナ室から出て脱衣所で涼む事にしました。

そして水分を補給したのち、もうその日は風呂に入る気分ではなくなったのでそのまま銭湯を後にしました。

あれから新型コロナウィルスの煽りで、その銭湯のサウナ室は一時、休止状態になっていましたが最近になって利用が再開されたので久々に行ってみる事にしました。

サウナ室に入り、辺りを隈なく見渡しましたのですが、あの時の絆創膏は綺麗さっぱり無くなっていました。

長い休み期間に清掃してしまったのでしょうか?結局、私の気持ちは消化不良のまま、いつものルーティンを終えて帰路に着きました。

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