高校を卒業してまだ車の免許取り立ての頃
友人とよくドライブしていた時の話。
ある日いつものように夜中 友人2人を乗せてドライブに出掛けた。その日は小学生の頃一度遠足で行ったことのある山岳へと向かった。
車道のある中腹まで車を走せ、駐車場に車を停めて怖い話をしながら盛り上がっていた。
そろそろ引き返そうかと考えていると、ふと駐車場の奥側に細い車道が続いていることに気づいた。
その車道は緩やかに下っていることから、どうせなら違う道から帰ろう、下っているならいつか開いた場所に出てくるだろうという安易な考えで、その細道から帰ることにした。
下り始めて束の間、早速この道を選んだことを後悔した。車1台がやっとな道幅の上に崖側にはガードレールもなく、光を一切通さないかのような覆い被さる木々のトンネル、外灯の1つもない真っ暗な道は、徐々に自分達の口数と精神をすり減らしていった。
そしてふと、現実問題としての恐怖が浮上してきた。大抵の山道は車避けのスペースが所々あるのだが、この道にはこれまでそういった箇所が1つもない。
もし対向車が来たらあの駐車場までバックで戻らないといけないのである。ただでさえ細く、ガードレールのない蛇行している暗い道を、免許取り立ての自分にバックで走行するなど到底無茶な注文であった。
そう考えていると早くこの道を抜けねばと自然にスピードを上げていた。
運転も荒くなり急アクセルと急ブレーキでただ黙々と車を走らせた。同乗している友人も気持ちは同じなのか、ただ前のめりで前方を見つめていた。
10分ほど下った頃、後部座席の友人があっ!と声をあげ「崖の向こうに灯りが見える!」と叫んだ。確かに崖側の木々の隙間からポツンポツンと外灯のような灯りが見え始めた。
そこからようやく平常心を取り戻し皆口々に怖かった~だの対向車来たら終わりだったね!などと安堵の表情を浮かべた。
しばらくすると道が開けてある集落にたどり着いた。暗がりで完全には把握できなかったがおそらく30件もないだろう家屋が集まっていた。
こういった山間の集落なら何もなくても恐怖を感じるものだが、そこそこ新しい住宅がちらほらあったことと外灯や自販機の灯りもあってそこまで閉鎖的なイメージがわかなかった。
自販機でジュースを買い車の中で暫し休憩をしているとふとこの集落について疑問が出てきた。
ここまでの道のりを考えればおそらく地元から隣町ほどの場所に位置するはず、にも関わらず生まれて今までこの集落の存在を何一つ知らなかったことである。
一緒にいた友人も同じく知らなかったようで、さきほどの安心感はまた薄れていた。
しかしそんな不安とは裏腹に、ある程度整備された道路と普通としか言い様のない家々は恐怖といった感情からは程遠い景色だった。
一休憩して車にも乗り込みゆっくりと集落を見て回ると県道の標識が目に留まり県道番号の下に□□市◯◯町△△と表記されていた。
◯◯町とは地元ではあるが、ここの地名である△△にはやはり聞き覚えがなかった。
ここにいても何が解決するはずもなく、しばらくしてまたあの山道を通って帰らなければならないと憂鬱になりながらも帰路にたった。
あっという間‥ではなかったが、特に問題もなく山道を登り最初の駐車場まで辿り着くと、急に前方から車の光に照らされた。眩しくて進行することも出来ず停車していると
前方の車から2人の人物が降りてきてこちらに向かってゆっくりと歩みを進めてきた。
運転席の隣まで歩いてきたと同時に、それが誰かなのかがわかった。警察だ。
「夜中にこんなところでなにしてるの?」年配の警察官が問いかけてきた。気づけば時間は午前2時を過ぎていた。
「いえ、ただのドライブで…」
「そこの道から出てきたけど通行禁止だぞ!看板とロープはどうした!?」もう一人の中年の警察官が怒鳴りつけてきた。
「え!?いや、なかったですけど…」
「ちょっときなさい!」
それから自分はその中年警官に山道の入り口付近に連れていかれ、もう1人の年配警官は車内の点検と友人の持ち物検査を始めていた。
「ほら、ここにロープを張ってたはずだぞ。」
確かに道の両端には1㍍ほど杭が刺さっていて、上部にはロープを巻いていたであろう痕跡が残っていた。
そしてしばらく警官から
看板とロープをどこへやった!!
だから知りません!
という攻防が続いたが、警官が懐中電灯で付近の土手を照らしていた一瞬、看板らしきものが光を反射した。
再度そちらを照らすと乱雑に置かれたロープとそれに付随した看板が投げ捨てられていた。
それらはついさっき捨てられたと言われてもおかしくないほど新しい状態で、
またもや警官との捨てた!捨ててない!の攻防があったものの警官も埒があかないと思ったのか、このロープと看板を元の状態に戻すことで手打ちとなった。
しぶしぶながら警官と二人でロープを結ぶことになり、その際警官には簡単にほどけて、かつ丈夫な結び方を教えてもらった。ふと思い警官に尋ねた。
「なんでほどきやすい結び方にするんですか?」
「この道を少し下ったら上りの脇道があるんだけど、そこを上がった所に電波塔の制御盤があって年に何回か点検の為に業者がくるんだよ、そこまでは車で行けるから一旦ここでロープをほどいて、また帰る時に結んでもらうんだよ。」
…正直行きも帰りもその上り道があったかどうかの記憶はないが、警官がそう言うのだからあったのだろう。
結び終わり警官はパンパンと手を叩くと、もうするんじゃないぞ!と言って車の方に戻っていこうとしたが、足を止め、降りい向いてこう言った。
「…昔から頻繁に外れてはいるんだよ、このロープ。君らは免許取ったばかりだし常習ではないと思うが、、不審に思われるから二度と来ないように!」
わかりました…そういって少し落ち込んだ様子を見せると、警官は元気づけようと?冗談めかしたように
「○○さんは(恐らく一緒にいた年配の警官)ここには子供の幽霊が出てそいつがロープを外すとか言ってたけどな!」
「‥ハハ‥そんなまさか、、」
そんな話をしながら車に戻ると、もう一人の年配の警官と友人達がなにやら盛り上がって話していた。
ほどなくして車に乗り込みパトカーの前方を走らされ町まで下っていった。
走行中、友人と警官とのやりとりをお互いに報告していたが、友人側の年配警官から驚きの情報と気になる情報との2つがあったようだ。
1つは実はあの集落から外界に出ることのできる別の道があり、そちらはそこそこ広い山道で、出るのは隣町にはなるのだが比較的道も新しく、集落の住民は基本的にその道を使用しているらしい。
そしてもう1つの話はその別の道の話の流れからの会話で出てきたようだ。
以降友人の回想だが、
「マジっすか!全然そんな道があること気づかなかった!」
「わざわざこの山道から登ってきたからそっちの道からきたのかと思ったよ。」
「いや~見つけてたらそっちの道から帰ってたかもですね~」
「ここはガードレールもないし細いし崖もあるから、特に夜は危険なんだよ!今回はなにもなくて良かったけど」
「確かにですよね、対向車とかきたら終わりですもんね!」
「いや、こっちは通行禁止だから車はこないでしょ」
「あぁ、ですよね!」
「でもなんであの集落側のほうは通行止めとかしてなかったんですか?」
「集落側の山道には畑とかに行く畦道があったり山菜取りに行ったりで途中まで道を使うからね。あっち側はしてないんだよ。それに…」
「‥まだなんかあるんすか?」
「…まぁ、簡単に言うと、あの集落の『やつら』はこの道を通り抜けたらいけないんだよ。」
「え、、」
そこへ自分達が戻り会話は終わったらしく詳しくは聞けなかったらしいが、なにか年配の警官は憎しみめいた、それでいて笑みを浮かべたようなおぞましい表情をしていたらしい。
疑問は残ったがその理由がなんなのかわかるはずもなく、ただただそれぞれの自宅に帰っていった。
当時は携帯電話がやっと普及し始めたころでインターネットなどもまだまだ一般的ではなかった。あの集落の情報を調べるすべもなく、とりあえず母親にあの集落のことを尋ねてみた。
「あ~あそこね、、あんたも知ってると思うけどこの辺は戦争があった時に特にひどかったって聞いたことあるでしょ?」
『あぁー、たしか田舎だけど○○が近いから空爆もすごかったらしいね』
「そうそう、毎日のように人は死ぬし食べるものもないしで。それでも疎開してきた人とか生きてる人はまだまだいるから、うちのおばあちゃんとかはまだまだ幼かったのに必死に農作業して働いてたんだって。」
「でもあるとき町一番の農家の人が自分の近い人達何人かと一緒に町の蓄えほとんどを持ってあの場所に逃げたんよ。」
『マジで‥』
「もう当時はその人達を探すあても人手もなくて泣き寝入りするしかなかったみたいでね、、幸い海産物も取り始めた時期だったし戦争も少ししたら終わったからなんとか生きながらえたけど、あの△△って人はこの町の、特におばあちゃんのお母さん、ひいおばあちゃん世代の人達からはそうとう恨まれてたと思うよ」
『そりゃあそうかもね…』
「でもね、、あの集落の肩を持つわけじゃないし、あんまり言いたくないんだけど、、戦争が終わって一年もしないうちに△△の子供が町にふらっと帰ってきたんだって。そしたら町のみんながそりゃひどい暴力をふるって、逃げ住んでる場所まで案内させたんだって。」
『そこで初めて場所がわかったんだ…』
「そう、そして集落の人達に、《二度とうちの町にくるな!そして二度とこの土地から出るな!約束をやぶるとこうなるぞ!》って言って、その子供を持っていた鎌で刺し殺したんだって。」
『‥!!』
「それからこの辺ではあの集落はもともと無かったみたいな扱いになってね、あんたが生まれるちょっと前にようやくあの集落の子供が学校に通えるようになったんだよ。」
「まあ昔の話だけど、あんたもあんまり人に住んでる地域とか詳しく聞いたらダメだよ!隠したい人もいるんだから」
『わかってるよ‥』
自分はこのことを友人に言おうかどうか迷ったあげく、十数年以上経てこのサイトに書き込んでいるのだが、、
今でも恐ろしく思うのが
あの年配の警官が、未だに恨みを継続させていたことだ。
作者colossus
多少脚色はありますが大筋は実際の話です。