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中編7
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きれる

「なあ、チャンネル変えね?」

「別にどこも変わんねーって。たいして見てないんだからいいだろ」

ながら見でもつまらんから変えたかったが、却下された。

少し泡の抜けてきたビールを飲み干す。

「ハァ……買ってきた酒もそろそろなくなるし。マジでやることなくなってきたんじゃね?」

「焼酎もまだ3本あんだろ。あんまペース速えと潰れんぞ」

「いやいや、ガキじゃねーんだから潰れねぇわ」

さすがに20半ばになってぶっ倒れるまで呑むなんて、罰ゲームとかじゃない限りほぼありえない。

思わず苦笑いが出た。

「いやー? 俺らも歳食ってきただろ。つーかウスくなってきたな」

なんかでか、デコの辺りに視線を感じた。

「あ? お前ドコ見て薄いとか言ってンの? 毟んぞオイ」

「は? オメーもナニ言い出してんの? 酒が薄くなってきたッつってんのに自意識過剰?」

ニホンゴムズカシイねー、なんて言いながらナオヤはグラスに溶けてきた氷と、ほとんど残ってない焼酎を全部入れる。

飲み始めて2時間ほど経ってきた。

睨んでた視線を外し、冷蔵庫まで代わりの酒を取りに行く。

「ンだよ……ビールもうねぇじゃん」

最後の1本を手に愚痴をこぼしながらテーブルに戻ると、ナオヤは空になった瓶をよけながら新しい瓶を空けていた。

空の瓶の隣には同じような瓶が4本転がっている。

……どっちの方がペース速えんだよ。

「お前さぁ……新しい楽器買ったから音聴かせるって持ってきてんのにそんなんで弾けんの?」

「バーカ。こんなんまだシラフだって。それに明日休みなんだろ? お前ももっと飲めよ」

言い終わるとグラスを煽り、半分ほど呑んでいた。

ため息をひとつつきながら、持ってきた最後の500缶を空ける。

「つーかさぁ。さっきのお前のキレた顔久々に見たわ」

いや、キレてねぇし。

しかも半分ニヤケ顔で言ってくるからさらにムカつく。

「何?煽ってンの? さっきの続きか? ブッ飛ばすぞコラ」

体を半分テーブルに乗り出したところで、ナオヤは片手を振りながら少し焦っていた。

「いや! そういうつもりじゃねぇって! 気に障ったんなら悪かったよ」

ニヤケ顔から苦笑いのような顔に変わっている。

やっぱ酔ってんじゃねーのかコイツ。

「ほんっとに何言いてーんだよ」

「いや、俺らもキレたりキレられたりしてきてんじゃん? テツ……お前、マジで人がキレたとこ見たコトある?」

いきなり何の話かはわからんけど、やる事も特にない。暇つぶしに話に付き合うことにした。

「あー……そういや3コ上のイグチさんいたじゃん?あん人マジギレしたときはヤバ……」

と、話に付き合った途端にナオヤが首を横に振りだす。

「いや。あの人も相当ヤバかったけど、そんなんじゃなくてよー……なんつーか……」

今度は困惑したような顔でモゴモゴと話しだす。相変わらず表情のコロコロ変わるヤツだ。

そういえばコイツは人がイカれるのも含めてキレるとか言ってたのを思い出した。

多分、今回のもそういう話なんだろう。

「あー……そっちのキレるか……あるっちゃ、あんだけどさ……」

今度は俺がモゴモゴと歯切れが悪くなる。

1度だけ目の前の人間がイカれたのを生で見た事がある。

あまりに強烈すぎて、今でも思い出すとゾッとしてくるほどの……。

ナオヤは俺が話を始めるのを、笑っても焦ってもどれでもない顔でジッと見ていた。

「ハァ……わかったよ。昔っから趣味ワリィな、お前」

そういう俺に口の端だけ少し上げて、肯定するようにグラスの残りを飲み干した。

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俺さ、高校ン時お前らと違って家遠かったじゃん。ほとんど学校なんて行ってなかったけどよ。

んで、あん頃の溜まり場学校の近くにあったよな?

毎日みてーに誰かしら溜まってたと思うんだけど、その日珍しく家から溜まり場行ってたのよ。

でさぁ、駅から溜まり場までしょっぺー街中通って行ってたの覚えてんだろ? あん時も街中歩いてたんだよ。

あ? 乗りもんギらなかったのって? ホント何でもいいから盗っときゃよかったって今でも思うわ。

まぁいいや。ちょうど街のド真ん中くらいって、そこそこ高いビルあったろ。その辺で俺らんとこの制服の女見かけたんだよ。名前は知らねぇけど、リサとかアキとかとつるんでた割におとなしそーなヤツだったのは覚えてる。

そいつがさ、まだ学校ある時間だったから目に付いたんだけど……そのビルから出てきた男に手ェ振っててさ、合流しようとしたんだろうな。

ホント何気なくそっち見たら……スイカ落とした時みてぇな音の何倍だよって音して男が消えてた。

変わりにそこら中に飛び散った血とか肉とか訳わかんねぇのとか……そんなのの塊の上に腕とか足がバッキバキになった女が乗ってたよ。

グロすぎてそこら辺はあんま思い出したくねぇ……ワリ。

まぁ、どっからどう見ても即死じゃん? 俺もビビって動くどころか声も出なかったのに、その女……あー、ウチの制服のヤツな。

そいつがしばらくボーッと突っ立てたと思ったら、無表情で、しかもなんも喋らないでその辺の肉とか身体のパーツとか集めてくっつけようとしてんだよ。

俺、ソレ見た瞬間もう耐えきれなくなってその場で吐いた。

あ?ダセェとかじゃねぇから。テメェも同じもん見たらゼッテー吐くかんな?もう喋んな。黙って聞いてろや。

……ったく。なんだったかな……あぁ、そのグッシャグシャになったのそいつが集めてた時にさ、落ちてきた女の方がモゾモゾ動いたんだよ。

多分男がクッションになってまだ生きてたんじゃねーかな。ってもマジでバッキバキだったし、助かる感じにゃ見えなかったけど。

んでモゾモゾ動きながらなんか呻いてた。あんなんなっても意外と声出んだなって思ったわ。

そしたらかき集めてたヤツの動きがピタッと止まってさ。すーっと立って落ちた女見てんの。変わらず無表情で。

吐いたカッコのままそっち見てたら、またデカい音がしてさ。またビビったんだけど、よく聞くと音じゃなくて声だったんだよ。

その立った女が表情も変えねぇで、くっそ馬鹿でけぇ声で喚きながら落ちた女に蹴り入れだしてた。

何言ってるか聞き取れねぇくらい喚きながら、半分死んでるみてぇな女にずっと蹴り入れたり踏んだりしててよ。

初めてっつーか、こっから先の人生お目にかかることないくらいの狂いっぷりに完全ビビってそっからソッコー逃げたよ。

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話し終わってすっかりヌルくなったビールを1口呑む。……少しも美味くねぇ。

「あー……それ、マジ話?」

「嘘でこんな話するほど趣味悪くねぇから」

ムカついたが、他に何か言う気にもならなかったので、少し残ってるビールの缶を握り潰した。

ふと壁にかけられた時計を見るととっくに天辺を過ぎている。

「なぁ……流石にタク遅すぎね? 返事も返ってこねーし何時間働いてんだよ、アイツ」

「さーな。どっかでナンパでもしてんじゃね?」

「さーなって……オメーから俺ら誘ってんだろ。家着いてから連絡してねぇの?」

「既読もつかねぇし、まだ働いてんだろ」

……酔い回ってんのか、なんかナオヤの言ってることが滅茶苦茶だ。

「意味わかんねぇ」

そう言いながら部屋にあったドラムを素手で叩く。

ドンッと低い音が部屋に響いた。

「タク仕事もうすぐ上がっから、隠してる鍵使ってタクん家集合っつって……この時間まで連絡も取れねぇとかねぇから」

「そっか?別にお前も鍵の場所知ってんだろ。たまたま遅くなってるだけだって」

そう言いながらまたグラスを煽ってヘラヘラ笑いだす。

「いや、いーわ。俺が連絡すっから」

スマホを取りだして、LINEを開く。やっぱり既読は着いていなかったから、番号の方に電話をかけることにした。

不意に隣の部屋から着信音がする。

「……あ? アイツ携帯忘れてったのか?」

部屋の取手に手をかけた時、自分で言ってておかしい事に気付いた。

ナオヤは俺にタクにも連絡してるからって言ってた……タクに連絡取れないなら、タクん家に来る意味がない。

振り返ってナオヤを見ると、ギターだかベースだかのケースを持っていた。

コッチに歩いてくる度に、なぜかケースからガチャガチャと金属音がする。

「どうしたんだよ、テツ? ボーッとしてなんかあったんか?」

「は?……ちょ、意味わかんねぇんだけど」

アタマが回らない。それが酒のせいなのか、ナオヤのせいなのかすらもわからない。

「あー……さっきお前が話してくれた話な? スゲェ話だったんだけどよ。ちょっと話わかってなかったな」

いつものナオヤのまま話しながら、ケースを置いて開け出す。中にはケース一杯の刃物。そのウチの1番長そうなのを片手にゆっくり立ち上がった。

「もっかい聞くわ。テツ、お前マジで人が切れたとこ見た事ある?」

Concrete
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