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中編4
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人と少しズレてる

  これは、精神科医である私の患者の日記だ。

本来なら秘匿義務があるため公にできないのだが、患者の了承も得られたため、公開する事とする。

以下、Gケース、患者M子の日記内容。

○月✕日

私は同年代の女の子と比べると少しズレている。

同じ大学の友人達があれ可愛いねと言っても、私にはそれが可愛くは見えない。

皆が面白いと言っているものや、あの人カッコ良いなどという物にも、全く共感を得られない。

ただ、私は昔から極端に周りに流されやすい性格だった。

他者に嫌われたら、厄介者扱いされてしまったら、そんな事ばかりを考えてしまい、嫌な事にもはいと答えさ嫌いなものにも良いですねと、周囲に合わせてきた。

しかし、そんな生き方にもやはり限界があり、日々溜まっていくストレスに悩まされ、大人になってからは余り人と関わる事さえ億劫に感じていた。

一度その事を親に相談したころ、病院でのカウンセリングを進められ受診した。

結果、私は医師から社交不安障害だと診断されてしまった。

神経系の病の一種ともされているらしく、その事を知った私は、なるほど、これにはちゃんとした病名があるんだ……と一人納得してしまった。

○月✕日

家で変な事があった。

床が水浸しになっていたのだ。

水漏れか?それとも私が水を零した?ともかく掃除しなければ。

○月✕日

まただ。

朝目覚めるとベッド周りが水浸しになっている。

私は一人暮らしなため他に誰もいない。

なのになぜ?雨漏り?今度管理会社に相談しなくては。

○月✕日

これで三回目だ。

いい加減にして欲しい。

こう毎回水浸しにされては本当に困る。

○月✕日

やっと管理会社が業者を呼んでくれた。

しかし調べてもらった結果特に異常はないという。

もう少し調べてみますと言われかなり長い時間待たされた。

困った。

今日は大事な予定があるのに、あまり長居して欲しくない。

かと言って断る事はできなかった。

○月✕日

夢を見た。

遠い過去の出来事。

幼い頃友達数人で遊んだ日の事。

日も暮れ始め早く帰りたかったが、友達の一人B君がまだ遊ぼうと言ってきたため、私は帰るに帰れなかった。

昔から私はこうだった、嫌な想い出だ。

○月✕日

また夢を見た。

B君の夢だ。

しかもなぜかB君はびしょ濡れだった。

ひょっとして一連の水騒ぎはB君?

そんな訳はない。

馬鹿げていると自分に言い聞かせたが、やはりちょっと怖い。

○月✕日

同窓会に参加した。

久々に楽しかったけど、嫌な記憶が蘇ったせいで後半は余り楽しめなかった。

○月✕日

今日は受診の日だった。

ここ最近の事を先生に聞かせたら、もしかしたら私の不安障害は、過去のトラウマによるものかもしれないと言われた。

そのせいで過度なストレスが負荷になっているんじゃないかと。

先生に一度過去の事を整理して、次の受診日に良ければ聴かせて欲しいと言われた。過去を整理……そうしよう。

以上がM子の日記内容を一部抜粋したものだ。

 その後、M子は約束通り私に過去にあった事を打ち明けてくれた。

「あれはそう……私が小学生の頃でした。友達数人と遊んでいたんです……私は早く帰りたかったのにB君が中々返してくれなくて、そしたらB君が川で遊ぼうって、仕方なく皆で行ったんですよ。最初は一緒に遊んでいたんですけど、その後バラバラに遊び初めて、結局夜になってしまったんです。流石に皆帰ろうと言い出したんですけどB君だけ居なくて、先に帰ったんじゃないかって言われたので、そうかもしれないねって答えたんです」

「それからB君はどうなったの?」

「夜になって警察とかB君の親が来て大騒ぎになっていました。B君が帰ってないって……他の皆は知らないって言ってるけど、M子ちゃんは何か知らないかって聞かれて、私も思わず知らないって答えたんです」

「思わず……?」

「ええ……皆がそう言うなら合わせなきゃって思って……」

「そうじゃなくて、M子さんはB君の事で何か知ってたの?」

「はい知ってますよ」

「な、何があったの?」

「早く帰りたかったって言ったじゃないですか、B君さえ居なければ早く帰れたんですから、そんな事よりこれが原因だったんですよ、先生の言う通りでした。これのせいで私は周りに合わせて生きてきたんだって。でも何もかも吹っ切れました。先生……私多分もう大丈夫だと思います……」

「待って!まだ話は、」

「すみません先生、今日新しい水道業者の人が来るんです。前の人はもう居ないので……」

「居ない……どういう意、」

「じゃあ失礼します。これからは私、前より生きやすい人生を送れそうです、ありがとうございました」

そう言うとM子さんは、今まで見せたこともない、とてもスッキリした笑顔で診察室を出て行った。

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