初めまして。この場をお借りして、このお話はノンフィクションであることを前提にお話させていただきます。多少のフェイクは入れてお話するのが前提ですが、間違いなく、何度も申し上げますがこちらはノンフィクションであることをご留意ください。
私にはそこまで多くないものの友人がいます。それは、ママ友として公園デビューをした時に手伝ってくださった先輩ママさんから。
娘が小学校に上がった時に一緒にPTAの役員を務めてくださった方。
それに昔からの友人。
形は様々ですが、どれもかけがえのない友人たちです。
さて、私にはそんな友人には言えない。本当は、当時の彼氏───今の夫にも話したくない話がありました。
私の妹についてです。
私の妹は空想と現実の判別のつかない人でした。
姉として構ってやろうという気はある程度の年齢をいった時にはもはや失せました。
毎日、画面越しの向こうの二次元のキャラに対して、可愛い可愛いと溺愛する子だったので、所謂オタクというカテゴライズに入るのでしょう。
ただ、オタクと呼ぶには少々わがままで、尚且つ自分中心に回っているように考えるため、私は嫌味を込めて「姫ちゃん」と呼んでいました。というのも、自分は○○国のお姫様で、常に賞賛を浴びている……という設定に溺れていたためです。
ですので、私は大学を機にこの家を出ていきました。
両親には申し訳ないと思う気持ちと、私の鬱憤が爆発しないためにもこれが最善だと思って、無理やり納得させました。
その事件が起きたのは、私が大学二年生。少し就職先の話をしようと実家に2年ぶりに正月に帰った時です。
私は妹の姿を見てゾッとしました。
メイクをしたのでしょうか。ですが、洗顔を知らないのかボロボロになった肌。
指紋でベタベタになった眼鏡。
服は適当に母が見繕ったのか、サイズが微妙にあっていない大きめのシャツ。
さらには作られたような高い声でこう言われました。
「あー!パパとママを置いてったおねーちゃんじゃん!」
今ではそのことに対して、あなたとは違いバイトで仕送りをしている。と言えたのでしょうが、当時の私は、怖いの感情が頭の中でぐるぐると渦巻いていました。私の妹がこんなふうになっている。
その当時は、連続殺人を行った犯人が所謂「オタク」と呼ばれて持て囃され、さらに言えばサブカルチャーな趣味を持っている人に対して「犯罪者予備軍」などと言われていたあの頃に、まだそう言ったことをしていると思ったら怖くて怖くて。自分の身内の中から「犯罪者」という存在になるのではないか、と。
正月は、母も父も気を使ってくれたのか妹とは別の時間帯で食事を用意してくれましたが、私は恐ろしくて妹の目を合わせるのが怖かったのです。さらに言えば、あの頃は就活もあり精神的にキていたのかもしれません。
正月休みも終わり、やっと妹から解放される。そう思いながら荷造りをしていたときです。隣の部屋から笑い声が聞こえました。いつもの空想癖が始まったのかと頭を抱えた時、その言葉に驚きました。
「○○のお姉さんに会いたいな」
私は全身に悪寒が走りと体温が下がる感覚がしました。○○というのは妹の本名でした。そして、その声は明らかに女性が男性の声を真似て作っていたものですから、気持ち悪いと感じました。
何分経ったかわからなかったのですが、突然、扉が開けられ、妹が入ってきました。そして私の腕をぐいっと引っ張ると
「おねーちゃん来てよ!私の彼氏が会いたがってるから」
彼氏……?と頭では冷静だったものの先程のやり取りから私はショックからか半分脱力状態でした。
私は妹に引きずられ、まだそこまで薄くなかったパソコンに向かって喋りました。
「リオさん!この人が私のおねーちゃん」
「初めまして、お姉様」
え?お姉様?あなたに呼ばれる筋合いはない。と思うよりも前に画面を見てぎょっとしました。そこには可愛らしい悪魔をモチーフにしたアイコンとチャットの履歴があるだけでした。
「○○にはお世話になっています」
そんな社交辞令よりも怖くて逃げ出しました。頭の中は真っ白でした。架空の存在とのやり取りだと思っていたものが、実在の人物に、さらにはあんな気色悪い声で話して幸せそうにしているあの子が怖かったからです。私が派手に転んだせいで、一階にいた父と母が駆けつけ、そのままリビングに行きましたが、その時も妹は
「リオさん、おねーちゃん出ていった」
「恥ずかしがり屋なのかな。お姉様は」
と喋っていました。
両親は少し考えてから話し出しました。
高校を卒業してから一回も働きに行かず、かと言って勉学をする訳でもない。ただただ、画面の向こうのリオという存在と楽しげに話していた。だから、画面の向こうの彼氏として、構っているならこのまま罪を犯したりはしないだろう。と。
その後はよく覚えていない。というわけではありませんが、臭いものには蓋をする。その言葉がしっくり来ました。
当時の彼氏には話したもののそんなことを気にせず実家に挨拶に行った時、妹の姿はありませんでした。両親に妹は?と聞くと半笑いされました。妹はどこかにいる。そう思い隣の部屋に耳を立てても何も聞こえませんでした。
私が過ごした大学までの18年間とあの正月には確かに存在したはずの妹がいないのです。嘘でしょ?と母に問い詰めても何も答えず半笑いでした。
幻を見ていたのはどちら、と言わんばかりに。
今、家族になった旦那からも妹なんているのか?と何度も聞かれました。ですが、私の記憶には確かに、いたのです。あの忌まわしき妹が。
つらつらと申し訳ありませんでした。
作者相談者A
もちろんフィクションです。