中編3
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大学を卒業し、新社会人として働き始めた4月の上旬。入社して初めての1週間を終え帰宅した俺は、「働くのも案外悪くない」なんて考えながら、今日の研修内容を振り返っていた。

時計は深夜の2時を回り、そろそろ寝ようかなと思った時分に、タバコが切れるんだからしょうがない。久々の休日だというのに、朝からタバコを買いに行くのはあまりにも酷であったから、

しぶしぶズボンを履き替え、コンタクトを外し、帰ったらすぐに寝れる準備を整え、最寄りのコンビニへ小走りで向かうことにした。

コンビニまでは徒歩5分、自宅から少し歩き、大通りを挟んですぐ向かい側にあるのだが、運悪く赤信号に捕まってしまった。

「誰も使わない信号に意味はあるのか」なんて深夜テンションで哲学めいたことを考えていると、向かい側に人影が見えた。

家を出る前にコンタクトを外した俺は視界が悪く、それが人であること以外は何もわからない。

こういう時俺は、相手が自分と同じ年頃の綺麗な女だったらと、勝手に妄想し、僅かに前髪を整えるのだが、目が悪い方が幸せとはよく言ったものだ。

信号が青になり俺が渡たり始めると、人影は、動こうとせず、こちらにじーっと視線を向けていることに気がついた。

近づくにつれ、だんだんとシルエットがハッキリし、それが、制服にスニーカー、中学生くらいの女の子であることが分かった。

顔まではよく見えなかったが、彼女があまりにも俺に視線を向けていたため、少し気味が悪かった。

次第に彼女は手を動かし、彼女の背後にある路地裏へ通じる道を指さしているように見えたが、その異様さに呆気にとられた俺は、横断歩道の途中で道をそれ、逃げるようにコンビニへ向かった。

こんな時間に女の子が1人でいるんだから、何事かあったんだろうかと思ったが、一刻も早く帰りたかった俺は、時間を取られるのを恐れた。

人と言うものは、目の前に倒れてる人がいたとしても、自分の都合を優先して、案外手を差し伸べることができないものだ。

第一、彼女が本当に困っていたとしたなら、声をかけてきてもよさそうではないか。


コンビニで買い物を済ました俺は、買ったばかりのタバコに火をつけ、大通りを渡るために、先程の女の子が立っていた場所へ向かった。

付近に女の子がいないことを確認した俺は、「やはり関わらないで良かった」なんて思っていたが、ふと先程の女の子が指をさしていた路地裏へ向かう道へと視線を移した。

そこには道を遮るように、青いドラム缶がポツリと置かれていた。青と言っても、少し赤みがかった濃い青色で、むらがなく、今ペンキで塗りましたと言わんばかりに、輝いてた。

道のど真ん中に一つだけドラム缶が置かれてるんだから、明らかに不自然で、人為的なものを感じた俺は、振り返り、信号が何色かも確認せず走り出した。

翌日、起きた俺は、なんの気なくテレビをつけると、「中学生くらいと見られる女性がドラム缶から遺体となって発見されました。」というニュースが、大々的に報道されていた。

現地から実況するアナウンサーの背後にうつる景色から、それが昨晩、青いドラム缶を見た場所であることはすぐに分かった。

俺は頭が真っ白になったが、次にアナウンサーが口にしたことを聞き逃さなかった。

「中学生くらいと見られる女性の遺体は、死後2日あまりで、錆びたドラム缶から見つかったと言うことです。

全身には数百箇所にわたる痣が確認されており、警察は事件性が高いとみて捜査を進めています。」

Concrete
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