中編3
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最後の面接

その日俺は、

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紳士服専門店の礼服コーナーで買った、2着め半額のリクルートスーツに身を包み緊張した面持ちで、とある駅のベンチに座っていた。

14時の会社面接を受けるためには、この後に来る13時30分の快速電車に乗車しないといけないのだ。

腕時計に目をやると、時刻は13時12分。

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─何とか、ぎり間に合いそうだな、、、

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そう一人呟いて、ふと見上げる空には灰色の雲が立ち込めており、何か憂鬱な感じの天気だ。

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都内の大学を来春卒業見込みの俺は、今年の夏頃からあちこち会社の面接を受け続けているのだが、なかなか内定をもらうことが出来ずにいた。

今日は44社めの面接になる。

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初めのうちは意気揚々、身の丈以上の会社の面接を受けたりもしていたが、幾度も幾度も不採用の通知をもらう度にメンタルは痛め付けられていき、最近はとうとう、とにかくどんな会社でも良いから、こんな俺を拾ってくれと情けない気分になっていた。

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ホーム内をアナウンスが響き渡る。

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─🎶~、🎶~、🎶~

間もなく貨物列車が通過いたします。

危険ですので白線の内側までお下がりください。

繰り返します、、、

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すると、

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「にいちゃん、今から面接かい?」

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いきなり左ななめ上から声がする。

見上げると、

白髪混じりの髪を七三に分け、チェック柄のスーツに身を包んだ初老の男が立っている。

日焼けした四角い顔に細い目。

かつて一世を風靡した昭和の喜劇俳優を彷彿とさせた。

チェック柄の生地の袖口から覗く、金色の腕時計が目を引く。

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「ええ、、、まあ」

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俺は愛想笑いをしながら適当に返事をする。

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すると男は隣に座ると、俯いたまま独り言するように語りだした。

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「実はわしも今から面接なんや。

去年30数年勤めていた会社がいきなり倒産してもうてな

同じくらい長く連れ添った古女房は前月、ガンで逝ってしもうた。

子どももおらんし親戚付き合いもしてなかったから、わし、この歳で天涯孤独なんや。

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それでも安定所に通ったりしながら、あちこち会社の面接を受けてみたんやが全て空振り。

そらそうやな。こんなええ歳こいたオッサンを今更採用する奇特な会社とかあるわけないわな。

でもな今から受ける面接なんやけどな、わしにとっては第二の人生を決める一番大事なものになりそうなんや。

まあ、いわば地獄の入口で閻魔様から受けるものみたいなもんかな。

わしも頑張るから、にいちゃんも頑張りや~」

と言って男は俺の顔をチラリと見ると、ハハハと可笑しそうに笑いながら立ち上がり、そのまま歩き始めた。

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─あんな年齢で再就職か、、、

大変なんだな。

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その時はその程度しか思わなかった。

すると、

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轟音と地響きとともに通過列車がホームに突入してきた。

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その直後だった。

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いきなり物凄い警笛音が鳴り響き、

どすん!という鈍い衝突音がしたかと思うと、

耳をつんざくような不快なブレーキ音が続いた。

黒板をかきむしるような不快なその音が止むのには数分を要したと思う。

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俺はその時何が起こったのか分からず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

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騒然としたホームは、あちこちで悲鳴やどよめきが起こり、数人の駅員が目の前を走り過ぎていく。

つられるように俺も歩き始めた。

するとアナウンスが鳴った。

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─🎶~、🎶~、🎶~

只今、当構内で人身事故が発生致しました。

現在処理を行っておりますので電車をお待ちの方々はご迷惑おかけしますが、しばらくそのままお待ち下さい。

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どうやら線路に人が飛び込んだようだ。

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呆然と立ち尽くしながらふと前方に視線を移した途端、背筋が凍りつく。

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それはプラットホーム白線の辺り。

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チェックの洋服生地にくるまれた第一関節から上の腕が一つ、ポツンとホームの地面に転がっていた。

よく見ると、その手首には金色の腕時計が巻かれている。

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俺は、そのちぎれた腕をじっと見ながら、しばらく肩を震わせひとしきり涙を流した。

それからようやく冷静になると瞳を閉じ、主を失った腕に向かってしばらく合掌すると、

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─おっちゃん時計忘れてるけど、最後の面接には間に合うかな?

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と呟くと、

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─これじゃあ、今日の面接は間に合いそうにないな

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と苦笑いしてからくるりと踵を返し、またゆっくり歩き始めた。

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Fin

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