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中編4
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罪と罰の天秤

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「罪と罰の天秤」

2ヶ月ほど前、田舎から帰るためのバスの待ち時間中に、知らないイギリス人旅行者から聞いた、不思議な話。

旅行者「少し、面白い話をしましょう。その話の中に入るような、ゆっくりと、イメージしながら、聞いてください。」

※※※※※※※※※※※※※※※

1人の裁判官の前に、あなたと、もう1人の女の人がいます。

そのうちの一人は、人を8人殺し、法廷の場に出されれば、おそらく判決は死刑でしょう。

しかし、誰が罪を犯したのかは誰にも分からない。しかし、自分が犯した罪なら、自分がよく知っているはずです。

さぁ。選択の時間です。

たまず、先行はあなた。あなたがほんとに罪を犯していないのなら、

あなたは無実を証明する必要があります。

そして罪を犯していたとしても、それを自白するか、隠すか。

どちらを選んでも構いません。

罪を認めれば、おめでとう。あなたの苦しみはそこでおしまいです。

無実を主張したあなた。あなたはまだ生きながらえています。

そしてもう1人の女の人も。無実を主張し、生きながらえる道を選びました。

あなたももう1人の女の人も。無実を主張したということは、まだ生きたい。やり残したことがある。それとも……

いや、いいでしょう。しかし、裁判官は困ります。なんせ、2人とも無実を主張するんですから。

裁判官はため息をつき、天秤を取り出します。そして、あなたたち2人にこう言います。

「今からこの天秤に、あなたたち2人の罪をこの天秤に乗せ、重かった方が罰せられるという仕組みです。」

裁判官は黒いモヤの塊のようなものを2つ同時に取り出し、天秤の上に乗せます。右があなたで左がもう1人の女の人。しかし、天秤は傾くところか、水平のままなんです。

罪の重さは、変わらない。ということなのでしょうか?

すると、裁判官は天秤の真ん中をちょん。と触ります。10秒ほど立った時、天秤がゆっくりと傾き始めます。どっちに?右。あなたの罪の天秤皿が、ゆっくり。ゆっくりと下へ向かう。

段々と、あなたの視界が狭くなって行く。

そして、狭い視界に映る天秤が、地面に……着いた。

あなたは、ゆっくりと目を開ける。

あたりは真っ白な雪。

そして、あなたの真下の雪は、血で赤く染まっている。

雪で冷たいはずなのに、体はものすごく暑い。

体が動かない。そしてあなたは思い出す。

深夜。雪の降る帰り道。

いきなり強い痛みが背中に走る。

二、三歩よろよろと歩き、街灯の照らす、雪の積もった地面に倒れ込む。

しかし、すぐには死ぬ事ができなかった。

あなたは、後ろに気配を感じ、首だけを後ろに向ける。

そしてあなたは言う。

「……そういう事だったのか。」

周りの人を残して、この世を去る。

それがあなたの罪であり、

今の苦しみが、罰なのでしょう。

※※※※※※※※※※※※※※※※

僕「面白い話ですね。」

旅行者「この話にのトリックはわかりましたか?」

僕「勝手な憶測ですが、それは、この話の主人公を意図的に「あなた」であるように、したこと……ですかね。

描写を省いたり加えたり。そして登場人物を操作して、本当に隠したいことを、安全な所まで持っていく。それと始めの文。

「1人の裁判官の前に、あなたと、もう1人の女の人がいます。」

「あなた」というワードで、まるで、罪を犯したのが2人だと思わせる。そう。意図的に裁判官から、注目を外している。それと同じ裁判官として一致する、安全な人物。そして、それが出来るのは……。1つ……質問しても?」

旅行者「はい。どうぞ。」

僕「この話は、あなたが作ったんですか?」

旅行者「はい。そうですよ。」

旅行者は、クスッと笑って僕に言う。

旅行者「では……犯人を聞きましょう。」

違う。……これは違う。僕の中で、その可能性を何度も否定している。

しかし、その可能性の確信を持ってしまっている。

僕はゆっくりと手を動かし、そして、

人差し指を、旅行者に向ける。

旅行者は一瞬目を見開いたかと思うと、ニコッと笑って見せる。

その時、バスが音を立てて滑り込んでくる。

旅行者「楽しかったですよ。」

旅行者がバスに乗り込もうとする。

僕「あ、ちょっと……」

旅行者「ああ。それと、もう僕とは会わない方がいいと思いますよ。あなたと私の罪を天秤に載せたら、どっちが重いかを、あなたは知っているはずです。」

そう言って、旅行者を載せたバスは、走り去って行きました。

まだセミの泣く8月。

夏の静寂が、まだ続いている。

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