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shake
「罪と罰の天秤」
2ヶ月ほど前、田舎から帰るためのバスの待ち時間中に、知らないイギリス人旅行者から聞いた、不思議な話。
旅行者「少し、面白い話をしましょう。その話の中に入るような、ゆっくりと、イメージしながら、聞いてください。」
※※※※※※※※※※※※※※※
1人の裁判官の前に、あなたと、もう1人の女の人がいます。
そのうちの一人は、人を8人殺し、法廷の場に出されれば、おそらく判決は死刑でしょう。
しかし、誰が罪を犯したのかは誰にも分からない。しかし、自分が犯した罪なら、自分がよく知っているはずです。
さぁ。選択の時間です。
たまず、先行はあなた。あなたがほんとに罪を犯していないのなら、
あなたは無実を証明する必要があります。
そして罪を犯していたとしても、それを自白するか、隠すか。
どちらを選んでも構いません。
罪を認めれば、おめでとう。あなたの苦しみはそこでおしまいです。
無実を主張したあなた。あなたはまだ生きながらえています。
そしてもう1人の女の人も。無実を主張し、生きながらえる道を選びました。
あなたももう1人の女の人も。無実を主張したということは、まだ生きたい。やり残したことがある。それとも……
いや、いいでしょう。しかし、裁判官は困ります。なんせ、2人とも無実を主張するんですから。
裁判官はため息をつき、天秤を取り出します。そして、あなたたち2人にこう言います。
「今からこの天秤に、あなたたち2人の罪をこの天秤に乗せ、重かった方が罰せられるという仕組みです。」
裁判官は黒いモヤの塊のようなものを2つ同時に取り出し、天秤の上に乗せます。右があなたで左がもう1人の女の人。しかし、天秤は傾くところか、水平のままなんです。
罪の重さは、変わらない。ということなのでしょうか?
すると、裁判官は天秤の真ん中をちょん。と触ります。10秒ほど立った時、天秤がゆっくりと傾き始めます。どっちに?右。あなたの罪の天秤皿が、ゆっくり。ゆっくりと下へ向かう。
段々と、あなたの視界が狭くなって行く。
そして、狭い視界に映る天秤が、地面に……着いた。
あなたは、ゆっくりと目を開ける。
あたりは真っ白な雪。
そして、あなたの真下の雪は、血で赤く染まっている。
雪で冷たいはずなのに、体はものすごく暑い。
体が動かない。そしてあなたは思い出す。
深夜。雪の降る帰り道。
いきなり強い痛みが背中に走る。
二、三歩よろよろと歩き、街灯の照らす、雪の積もった地面に倒れ込む。
しかし、すぐには死ぬ事ができなかった。
あなたは、後ろに気配を感じ、首だけを後ろに向ける。
そしてあなたは言う。
「……そういう事だったのか。」
周りの人を残して、この世を去る。
それがあなたの罪であり、
今の苦しみが、罰なのでしょう。
※※※※※※※※※※※※※※※※
僕「面白い話ですね。」
旅行者「この話にのトリックはわかりましたか?」
僕「勝手な憶測ですが、それは、この話の主人公を意図的に「あなた」であるように、したこと……ですかね。
描写を省いたり加えたり。そして登場人物を操作して、本当に隠したいことを、安全な所まで持っていく。それと始めの文。
「1人の裁判官の前に、あなたと、もう1人の女の人がいます。」
「あなた」というワードで、まるで、罪を犯したのが2人だと思わせる。そう。意図的に裁判官から、注目を外している。それと同じ裁判官として一致する、安全な人物。そして、それが出来るのは……。1つ……質問しても?」
旅行者「はい。どうぞ。」
僕「この話は、あなたが作ったんですか?」
旅行者「はい。そうですよ。」
旅行者は、クスッと笑って僕に言う。
旅行者「では……犯人を聞きましょう。」
違う。……これは違う。僕の中で、その可能性を何度も否定している。
しかし、その可能性の確信を持ってしまっている。
僕はゆっくりと手を動かし、そして、
人差し指を、旅行者に向ける。
旅行者は一瞬目を見開いたかと思うと、ニコッと笑って見せる。
その時、バスが音を立てて滑り込んでくる。
旅行者「楽しかったですよ。」
旅行者がバスに乗り込もうとする。
僕「あ、ちょっと……」
旅行者「ああ。それと、もう僕とは会わない方がいいと思いますよ。あなたと私の罪を天秤に載せたら、どっちが重いかを、あなたは知っているはずです。」
そう言って、旅行者を載せたバスは、走り去って行きました。
まだセミの泣く8月。
夏の静寂が、まだ続いている。
作者rark
奇々怪々で投稿した話をこちらにも載せておきます。