だけど、あなたは悪くない

中編3
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だけど、あなたは悪くない

場所は北海道。

初雪初日、田舎の国道で一件の交通事故が発生した。

アイスバーンでスリップした軽ワゴン車が起こした典型的な冬型事故だった。

コントロールを失った車は、対向車線を大きく越えて路肩に飛び出すと、路肩にあった金属製の支柱に衝突。

運転席側の側面から支柱に巻き付くようなかたちとなり、車体はくの字にひしゃげるほどの強い衝撃を受け、運転していた50代の男性が死亡した。

後続車が発見・通報したが、目撃者によると男性は意識のない状態で耳や鼻から血を流し、ほぼ即死の状態だったという。

ニュースでこの事故を知り、ネットで色々と調べたところによると、だいたいそんな感じの事故だったらしい。

なぜわざわざ調べたかというと、実はこの事故現場、僕も日頃からよく通る道だったからだ。

事故の翌日、仕事の都合でたまたま現場を通りかかった。衝突した支柱も、痕跡が真新しく残っていて、すぐに分かった。

そこで、事故が起きた状況を推察することができた。

事故現場は片側二車線から片側一車線へと車線が減少するポイントのすぐ先。

つまり、車線が減少する前に強引に追い越しをかけた結果、スリップを起こしたのだと容易に推察できた。

なにせ、この場所は日頃から強引な追い越しが頻発する場所。

破損状況からも事故車両はかなりのスピードが出ていたはずで、その原因は事故車両自体の追い越しであることは間違いなかった。

ネットで事故の状況を調べていたときも、コメント欄では死亡した運転手に対して「自業自得」という論調が大半だった。

たがしかし、だとすると、追い越された車両が必ずいるハズで、おそらくは事故の状況を目撃しているハズだが、強引な追い越しをされた側としては「ざまあみろ」的な感覚で、そのまま走り去ったのだろう。

国道をわざわざUターンするのもリスクがあり、この状況で救護義務が発生するかどうかは道路交通法的にも微妙なところだろうし。

事故現場を通りかかったとき、そんなことを考えながら仕事へ向かったのだが、夕方、仕事を終えて、来た道を戻っていたとき、ふとあることに気付いた。

衝突された支柱にあるものが描かれていたのだ。

裏側に描かれていたので行きでは分からなかったが、帰りは夕方で薄暗かったこともあり、すぐに気付いた。

みなさんも見たことはないだろうか。暗闇で光る、夜光反射材のベストを身に着けた警察官のようなシルエットを。

(北海道警察独自のものではなく、全国共通だと思うのですが)

夜道を走っていると、警察官や警備員のような姿がライトに浮かび上がり、ちょっとビクッとした経験ありますよね。

近づくと、そう見えるように電柱に夜光反射材を貼ってあるだけの代物なんですが。

ただ、この日はいつも以上にビクッと、いやゾワッとさせられた。

その横を通り過ぎる瞬間、その顔に大きな二つの目が浮かび上がり、ギロリとこちらを睨みつけたような気がしたからだ。

もしかしたら死亡した運転手の怨霊がそのシルエットに乗り移り、今も探しているのかもしれません。事故の一因となった、その車両を。

(だとしても、僕の推察が正しければ、それは単なる逆恨みであり、決してあなたは悪くない)

Concrete
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