『今年もクリスマス空いてるでしょ?』
仕事の休憩時間に幼馴染のY子からメッセージが届く。
3年前に彼氏と別れてから、一昨年・昨年とクリスマスは幼馴染のY子と過ごした。
お互い恋人ができなければ、来年も2人で過ごそうと話していた。
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昨年は地元にある安い居酒屋だったが、今年は奮発しようかと、普段は縁のない表参道のおしゃれなフレンチを予約した。
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当日の昼、フレンチのコースを食べ、その後イルミネーションが輝く表参道の街中を2人でぶらぶらとしていたが、今日はクリスマス。人は多いし、周りはカップルだらけ。
「もう帰ろっかあ。」
少しむなしくなった私たちは電車に乗り地元の駅まで帰ってきた。
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時刻は夕方、解散するには惜しい時間。
駅ナカにあるコーヒーチェーン店をのぞくと席が2名分空いていた。
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お店に入り2人とも季節限定のラテを注文。
席に座り今日撮ったフレンチの写真を見返しているとY子が声をかけてきた。
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「最近金縛りがひどいんだよね…」
「疲れてるの?」
「疲れてるのかな…。しかもさ、見えちゃったんだよね…」
「何を?」
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「たぶん女の人。私の首絞めてた…」
「いやいや、それ幻覚だよ笑。金縛りってレム睡眠の最中に起きちゃってそうなるだけだよ。体は寝てるから動けない、女の人は入眠時幻覚ってやつだよ笑」
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金縛りの原因は世間一般的にもよく知れ渡っているが、私は医療系の仕事をしていることもあり、俗にいう金縛りの医学的原因を知っていた。
「そうなのかな…」
いまいち納得しきれていない様子のY子。
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「仕事きついの?」
「仕事自体はそんなに…でもストレスは多い」
「じゃあストレス発散しに行こっか!」
「え!あり!行こ!!」
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私たちの言うストレス発散とはカラオケのこと。
コーヒーチェーン店を出て、いつもの駅前のカラオケへ行くことにした。
その後Y子とまさかの0時過ぎまでカラオケで盛り上がり店をでた。
外の空気は冷えており、人はほとんどいない。
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「ねえ、あれゆうたくんじゃない?」
Y子が前から歩いてくる男性をみてそう言った。
「だれ、ゆうたくんって」
「幼稚園一緒だったじゃん。ほら、耳が聞こえなくて」
「ああ!ゆうたくん!」
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思い出した。同じクラスにいたゆうたくん。
先天性の難聴で補聴器をつけていた。筆談や簡単なジェスチャーで会話をしていた気がする。手話で話してくれることもあったが、手話の知識もなく分からなかった。
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「ゆうたくん!」
Y子がゆうたくんに声をかけた。
「久しぶり!覚えてる?」
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(幼稚園卒園以来合っていない友人に、よくすぐに声をかけられるな)
ゆうたくんは大きなくりくりとした瞳でY子を見て少し首を傾げた。
(ゆうたくんあんまり顔変わってないな)
童顔で整った顔立ち。耳には補聴器をつけていた。
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「Y子、ようちえん、いっしょだった!」
Y子が先ほどよりも少しゆっくり発音すると、ゆうたくんは少し口を開けて笑顔で頷いた。口の空き具合はちょうど「ああ」と言っているようだった。
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「おぼえてた?悠乃もいるよ!」と私の方を見る。
ゆうたくんもこちらを向く。小さく手を振ると笑顔で振り返してくれた。
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するとゆうたくんは手話で私たちに話しかけてきた。笑顔は消えていた。
私もY子も手話が分からない。
手話と同時に発音もしてくれるのだが、先天性難聴のためはっきりとした発音ではなく、何と言っているのか聞き取りにくい。
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2人して少し困ったような表情をして苦笑いしているのを見て、ゆうたくんも伝わっていないと思ったのだろう。
手話をやめてY子の左後ろを指さす。
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「え?なに?」
Y子の左後ろを指さしながら首を振るゆうたくん。
「何かついてる?え?何なに?」
「いや、何も…ついてはないけど…」
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ゆうたくんの指さすものが何か分からず、私たち2人ともまた困ったように目を合わせた。
「分からないけど…会えてよかった!またね!」
ゆうたくんに手を振ってその場を去ろうとするY子
「え、いいの?なにか伝えたそうだけど」
「うん、ほらもうこんな時間だし」
「…ゆうたくんまたね!」
私もゆうたくんに手を振ったが、ゆうたくんは振り返してくれなかった。
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「なんだったんだろう…」
「わかんないよ、怖かった~!私の後ろになんかいたのかな。今思ったけどスマホで文字打ってもらえばよかった」
「たしかに。というか、ゆうたくんこの時間にどこ行くんだろう」
時間は0時を過ぎていた。
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翌日昼過ぎに起きた私は、昼食を終えテレビを見ている母に声をかけた。
「ねえ、同じ幼稚園だったゆうたくん覚えてる?」
「ああ、話きいたの?私もこの間、たまたまゆうたくんのおばあちゃんに会って聞いたのよ、言い忘れてたわ」
「え?なにが?」
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「ゆうたくんのことでしょ?お風呂屋さんに住んでた」
「ああ、そういえばあそこのお風呂屋さんに住んでたね」
ゆうたくんは私の家の近くのお風呂屋さんにおばあちゃんと2人で住んでいた。
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「昨年ゆうたくん亡くなったって聞いてびっくりしたし…。それに、もともとゆうたくんご両親もいなくておばあちゃんと2人暮らしだったでしょ。だから可哀想よね、おばあちゃん1人になっちゃって。」
作者m
昨日会ったゆうたくんが亡くなっていたなんて信じられませんでした。
その後Y子にすぐ連絡をしましたが、Y子もゆうたくんが亡くなっていたことは知らなかったようです。
Y子の金縛りはまだあるようで、女の人も見えるようです。
私は霊的な金縛りを信じていませんが、もしかしたらあるのかもしれないですね。
Y子にはその女の霊が憑いているのか、ゆうたくんはそれを伝えたかったのか、
ゆうたくんが何を言いたかったのかは分かりませんが…
ひとまずY子はお祓いに行くようです。