中編4
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金縛り

『今年もクリスマス空いてるでしょ?』

仕事の休憩時間に幼馴染のY子からメッセージが届く。

3年前に彼氏と別れてから、一昨年・昨年とクリスマスは幼馴染のY子と過ごした。

お互い恋人ができなければ、来年も2人で過ごそうと話していた。

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昨年は地元にある安い居酒屋だったが、今年は奮発しようかと、普段は縁のない表参道のおしゃれなフレンチを予約した。

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当日の昼、フレンチのコースを食べ、その後イルミネーションが輝く表参道の街中を2人でぶらぶらとしていたが、今日はクリスマス。人は多いし、周りはカップルだらけ。

「もう帰ろっかあ。」

少しむなしくなった私たちは電車に乗り地元の駅まで帰ってきた。

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時刻は夕方、解散するには惜しい時間。

駅ナカにあるコーヒーチェーン店をのぞくと席が2名分空いていた。

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お店に入り2人とも季節限定のラテを注文。

席に座り今日撮ったフレンチの写真を見返しているとY子が声をかけてきた。

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「最近金縛りがひどいんだよね…」

「疲れてるの?」

「疲れてるのかな…。しかもさ、見えちゃったんだよね…」

「何を?」

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「たぶん女の人。私の首絞めてた…」

「いやいや、それ幻覚だよ笑。金縛りってレム睡眠の最中に起きちゃってそうなるだけだよ。体は寝てるから動けない、女の人は入眠時幻覚ってやつだよ笑」

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金縛りの原因は世間一般的にもよく知れ渡っているが、私は医療系の仕事をしていることもあり、俗にいう金縛りの医学的原因を知っていた。

「そうなのかな…」

いまいち納得しきれていない様子のY子。

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「仕事きついの?」

「仕事自体はそんなに…でもストレスは多い」

「じゃあストレス発散しに行こっか!」

「え!あり!行こ!!」

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私たちの言うストレス発散とはカラオケのこと。

コーヒーチェーン店を出て、いつもの駅前のカラオケへ行くことにした。

その後Y子とまさかの0時過ぎまでカラオケで盛り上がり店をでた。

外の空気は冷えており、人はほとんどいない。

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「ねえ、あれゆうたくんじゃない?」

Y子が前から歩いてくる男性をみてそう言った。

「だれ、ゆうたくんって」

「幼稚園一緒だったじゃん。ほら、耳が聞こえなくて」

「ああ!ゆうたくん!」

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思い出した。同じクラスにいたゆうたくん。

先天性の難聴で補聴器をつけていた。筆談や簡単なジェスチャーで会話をしていた気がする。手話で話してくれることもあったが、手話の知識もなく分からなかった。

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「ゆうたくん!」

Y子がゆうたくんに声をかけた。

「久しぶり!覚えてる?」

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(幼稚園卒園以来合っていない友人に、よくすぐに声をかけられるな)

ゆうたくんは大きなくりくりとした瞳でY子を見て少し首を傾げた。

(ゆうたくんあんまり顔変わってないな)

童顔で整った顔立ち。耳には補聴器をつけていた。

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「Y子、ようちえん、いっしょだった!」

Y子が先ほどよりも少しゆっくり発音すると、ゆうたくんは少し口を開けて笑顔で頷いた。口の空き具合はちょうど「ああ」と言っているようだった。

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「おぼえてた?悠乃もいるよ!」と私の方を見る。

ゆうたくんもこちらを向く。小さく手を振ると笑顔で振り返してくれた。

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するとゆうたくんは手話で私たちに話しかけてきた。笑顔は消えていた。

私もY子も手話が分からない。

手話と同時に発音もしてくれるのだが、先天性難聴のためはっきりとした発音ではなく、何と言っているのか聞き取りにくい。

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2人して少し困ったような表情をして苦笑いしているのを見て、ゆうたくんも伝わっていないと思ったのだろう。

手話をやめてY子の左後ろを指さす。

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「え?なに?」

Y子の左後ろを指さしながら首を振るゆうたくん。

「何かついてる?え?何なに?」

「いや、何も…ついてはないけど…」

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ゆうたくんの指さすものが何か分からず、私たち2人ともまた困ったように目を合わせた。

「分からないけど…会えてよかった!またね!」

ゆうたくんに手を振ってその場を去ろうとするY子

「え、いいの?なにか伝えたそうだけど」

「うん、ほらもうこんな時間だし」

「…ゆうたくんまたね!」

私もゆうたくんに手を振ったが、ゆうたくんは振り返してくれなかった。

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「なんだったんだろう…」

「わかんないよ、怖かった~!私の後ろになんかいたのかな。今思ったけどスマホで文字打ってもらえばよかった」

「たしかに。というか、ゆうたくんこの時間にどこ行くんだろう」

時間は0時を過ぎていた。

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翌日昼過ぎに起きた私は、昼食を終えテレビを見ている母に声をかけた。

「ねえ、同じ幼稚園だったゆうたくん覚えてる?」

「ああ、話きいたの?私もこの間、たまたまゆうたくんのおばあちゃんに会って聞いたのよ、言い忘れてたわ」

「え?なにが?」

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「ゆうたくんのことでしょ?お風呂屋さんに住んでた」

「ああ、そういえばあそこのお風呂屋さんに住んでたね」

ゆうたくんは私の家の近くのお風呂屋さんにおばあちゃんと2人で住んでいた。

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「昨年ゆうたくん亡くなったって聞いてびっくりしたし…。それに、もともとゆうたくんご両親もいなくておばあちゃんと2人暮らしだったでしょ。だから可哀想よね、おばあちゃん1人になっちゃって。」

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