私には変わった友人が多い。
作品を投稿している間に、東海・伊豆地方で強い地震が発生したようだ。
そういえば、地震にまつわる話で、友人からこういう話を聞いたことがある。
むかし地震によりデパートが倒壊した、あの事件のことだけど、友人の知り合いがたまたまそれに巻き込まれて経験したという話。
地震に巻き込まれてその人が気がついたのは真っ暗闇の中。当時は携帯電話などなかったので、ライト代わりになるものや外部と連絡する手段は無い。コンクリートとコンクリートの間の、上下の僅かな隙間にはさまれているようで、手足もろくに動かせなかったそうです。自分に何が起こったのか、しばらくわからなかった。頭も強く打っている。
「おーい、誰か! 誰かたすけてくれぇ!」
声を張り上げても暗闇に消えるだけ。余震があり、いつ自分は潰されるかわからない。
時間がわからないので、どのくらいそうしていたのかわからない。十数分か1時間か・・・その人は声を出すのを止めた。
誰かの・・・声がする。
「うるせぇんだよ! わめくんじゃねぇ!」
相手も身動きできないらしい。はっきりではないが、言葉は聞き取れる。
「大丈夫か!? どうなってるんだ! 何が起きた」
「地震だ ひさしぶりに大きい地震だ。ビルが崩れたのさ。」
「ビルが崩れたって!・・・イテテッ 頭が痛い・・・血が出ているようだ・・・私達はどうなるんだ」
「知るかよ! ま、なるようにしかならねぇよ。ハハッ!」
「嫌だ! こんなところで死ぬのは嫌だ!」
「しょうがねーべよ! ここはあまり人がこないところだからな。おかげで俺もよ・・・」
「嫌だ! こんなところで死ぬのは嫌だ!」
「だから 泣きわめいてもしょーがあんめぇよ! うるせーな! そんなことよりもよ、今日は何日だ」
「・・・たぶん・・・今日は ○○日・・・」
「○○日! てめぇ吹かしてんじゃあんめぇな!」
「どのくらい気を失っていたかわかりませんけど、たぶん」
「うわぁ やべぇ! 兄貴に殴られちまう! 早く届けねぇと!」
又聞きなので、詳しくはわからないけど、そんなやりとりがあり、どうやら相手はヤクザ(?)というかチンピラ(?)らしく、誰かから追われていたらしい。
知人は、チンピラは身を隠している時にこの地震に遭って、閉じこめられたんだな、そう思った。
こんな漆黒の闇の中で、とにかく誰か人と会話できるということが嬉しかった。助けはなかなかこなかったけど、そのうち 雨? 放水の水? が流れてきて、喉を潤すこともできた。
水を飲むことができたことが、生還につながったようだ。
頭が痛い。
頭が痛かったが、助け出される6日後まで、チンピラとの会話で気を紛らわせることができた。
知人は心配した。チンピラは、水が飲めないようだ。
「飲めねぇんじゃねぇ! 飲めねぇんだよ!」
「そんなに、そこはひどいのか?」
「だから飲めねぇんだよ! わかんねぇかな!」
「私も動けないが、手足は少しは動かせる。手を伸ばすから、君も・・・どうだ、とどくか?」
「ちげーよ! そうじゃねーよ! 手足を・・・縛られてんだよ」
「縛られている!」
身を隠したのではなく、捕まっていたのか!?そして、どこかの小部屋に数日閉じこめられていた。だから、先ほどからの会話でどうもかみ合わないところがあると思った。
声も、よく聞くと、どこかくぐもったような、弱々しい気がする。
同じこのフロアーにいるのか!?いや・・・よく聞くと・・・もしかして更に地下階に閉じこめられている!?
余震があった。かなり強い余震で、知人はブロックの圧力で、気を失った。
次に目を覚ました時、知人はベットに寝ていた。
倒壊から1週間が経とうとし、救助隊はあきらめかけていたところ、余震で壁が崩れ、助けを求める声がした。声のする方を掘ってみると、知人が埋もれていたそうだ。
・・・私は気を失っていたのに?
そうか! 彼が呼んでくれたんだ!!
「そうだ! 彼はどうなったんですか!」
「彼って?」
「私の同じ、生き埋めになっていた彼ですよ!」
「・・・ああ、彼ねぇ・・・」
医者は、けげんそうな顔をしている。
「私の下の階に埋もれていた、あの人ですよ!」
「いやぁ、あのビルには、君が埋もれていたあそこが一番下のフロアーだよ」
「そんなことはありません。私は閉じこめられていた間、ずっとしゃべっていたんですから」
「そうは言ってもねぇ」
なんだか、歯切れが悪い。
新聞には、遭難者が発見されるとだけ見出しに出ていたけれど、それからしばらくして、体が回復して退院するときに関係者から聞いたそうだ。
初めは頭部を強く打ったためか、強度のストレスから幻聴を聞いたのか、とにかく知人は疑われていたらしい。おかしくなったと。
しかしその後、ビルを解体するために基礎を崩している最中、彼が見つかったそうだ。
白骨化した状態で。
そんな話を思い出した。
怖い話投稿:ホラーテラー るすいさん
作者怖話