【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編5
  • 表示切替
  • 使い方

怪事件

 最初に伝えておく。これは長い上に筋立て自体は真新しいものではない。どこかで聞いた事ある、という人も多いかもだが、それでも良ければ…

今から数十年前の事。当時はまだ生活インフラが未整備の地域も少なくなく、学校のトイレが汲み取り式の所が多かった時代に北関東の中学校で起きたおそろしい事件である…

その中学校ではトイレに纏わる怪談が生徒間でしきりに語られていた。一番奥の大便所で用足ししていると、突然電気が消えて青白い手が便器からニュ〜ッと出てきて尻を撫でる…驚いてトイレから出ようとしても扉が開かず、窓から怖い顔をした化物が覗く…

「先生、すみません。トイレ行って来て良いですか?」 授業中に中島君が申し訳なさそうに手をあげる。彼は慢性的な下痢に悩まされていた。

「いよっ便所コオロギが住みかにお帰りかぁ〜?」クラスのガキ大将の熊本があげつらう。直後に教室がドッと湧く。

「コラッ!熊本!体の弱い同級生に何だその言い方は!後で職員室迄来い!中島、行って良いぞ」

先生にたっぷりお灸をすえられた熊本は腹の虫が収まらない。弁当の時間にとんでもない悪巧みを思いつき、子分格の二人と打ち合わせた。

「お前ら例の便所の噂知ってるよな?あれに託つけて中島を死ぬ程ビビらせてやろうぜ!」

その日の放課後。半ば脅迫めいた手段で中島君を体育館裏に連れて来た熊本以下三人は、冒頭の便所の怪談を臨場感たっぷりに中島君に聞かせた。

「そ、そんな話…嘘だろう!?」

「お前が信じないのは勝手だがな。しかし俺達はな、お前が便所に行かなきゃならない事が多いから…親切で言ってやってるんだぜ。一番奥の便所使う時は化け物に会わないようにな♪」

「ギャッハハハ!!見たかあの便所コオロギのツラ!!」

「効果バッチシだな!すっかり青ざめちゃってヨウ!!」

下校時間になり、中島君は教室からトイレへと向かった。熊本達はそれを見てほくそ笑んだ。

「ケケケ…あいつは家が遠いから帰る前に便所に行くだろうと読んだがドンピシャリだぜ♪よしお前ら、便所に先回りだ!」

熊本達三人は便所に先回りすると、一番奥以外の大便所に各々入った。中島君がやって来た。先程の話が頭にあった中島君は入口に近い方から大便所をノックした。

「コンコン」 中から熊本達が笑いを噛み殺しながらノックを返す。

「コンコン」

「コンコン」

「コンコン」

「コンコン」

「コンコン」

「嫌だなぁ…一番奥のしか空いてない…!」

躊躇した中島君だが、腹具合には逆らえない。一番奥の大便所に入った。

「入ったな!お前ら電気を消して戸を押さえ付けろ。俺は外からこいつでな♪」

熊本のポケットには怪物のマスクがのぞいていた。

用を足していた中島君は驚愕した。突然電気が消えたのだ。急いで出ようとしたが、扉を押しても動かない。

「うわぁ…!戸が、戸が開かない!!」

真っ暗な状態で便所に閉じ込められた…中島君は熊本の子分に押さえ付けられている扉を必死に叩いた。

「誰かぁーっ!助けてくれぇーっ!ここから出してくれぇーっ!」

「ドンドンドンドンドン!!ドンドンドンドンドン!!」

外では熊本の子分二人が扉に寄りかかって声をださずに笑っている。

「ようし♪ここからが面白い♪」

熊本は怪物のマスクを被ると便所の窓からヌウ〜ッと中を覗きこんだ…

「ウワァァァッ!!」

「ギャハハハ!!うまくいったなオイ!」

「ああ。だけど…何か静かになっちゃったぜ?」

「気絶したんじゃないか?」

中島君の入った便所をノックする。無反応。扉を開けようとする…開かない。

「駄目だ。中から鍵かかってるみたいで。熊本?お前それ被って中を覗いたんだろ?」

「いやこのマスク目の部分が余り大きくないから中を詳しく見られなかったんだ…それよりおかしいじゃないか!?あいつは外に出ようとしたんだから自分から鍵閉める訳無いだろう!?」

三人の背中に冷たいものが走った…

「とにかく目一杯力入れて戸を引っ張ろう!」

三人でドアノブを力の限り引っ張ると…

バァーン!!

扉が開いた。便所の中はもぬけのからだった…

「い…いない!?中島がいない?」

「お…落ちたんじゃないか?」

子分が便器の中を覗きこんだ。

「見えない…暗いし」

三人は便所の周辺をしらみ潰しに探した。しかし中島君の姿は無かった。いつの間にか夕闇が辺りを包んでいた。三人はその日は諦めた。

次の日。中島君は欠席した。熊本達三人の不安は増していく。

「おい熊本…中島来てないぜ…?」

「馬鹿!そんなにビクつくなって!あいつの休みは年中だろ!?どうせまた腹の具合悪くて寝てんだよ!」

先生が入って来た。何か深刻な表情をしている。

「授業の前に皆に伝える事がある。実は昨日中島君のお母さんから息子が帰宅してないと連絡があった。先生がその話を聞いて教室に引き返してみると中島君の鞄は机の上にそのままだった。という事は教室からそのまま行方不明になった可能性が高い。昨日中島君の事でどんな小さな事でも気がついた事があれば先生に教え欲しい…」

三人は凍りついた。

「熊本…行方不明だって…やっぱり…?」

「シッ!黙ってろ!昨日の事は誰にも喋るな!もし俺達の悪戯が原因だとバレたら只じゃ済みそうもないからな!!」

授業に入る。暫くすると熊本は突然腹が猛烈に痛み出した。

「すみません…トイレ行って来て良いですか?」

先生の許可を得て熊本は腹をおさえながら便所に急いだ。

「全く…今迄腹を下した事なんて無かったのに…何故だぁ?」

便所に辿り着くと焦りと戦いながらノックする。

「コンコン」

「コンコン」

先客がいる

「コンコン」

「コンコン」

ここもだ

「コンコン」

「コンコン」

「何ぃ!?今は授業中だってのに…?全部使用中〜!?そんな筈は…!?」

ノックが返って来なかったのは一番奥の大便所だけだった。

「空いてるのは一番奥のだけ…!仕方ねえ…漏らす訳にはいかねえし…」

意を決した熊本は一番奥の大便所に入った…

ギャアアアアアアアアアー!!

職員室の教師達は息を呑んだ。

「何だ!?今の悲鳴は!?」

「只ならん様子だぞ!!生徒に何かあったのかもしれん!!」

「急いで手分けして各教室を廻ろう!」

「何!?熊本が便所に行ったまま戻らず保健室にも行っていない!?急げ!北側便所だ!」

便所に急行した教師達が目の当たりにしたもの

それは一番奥の大便所の便つぼの中でオワイの中で漂っている中島君と熊本だった

後の調べで分かった事だが、熊本が便所に行っている同時刻に便所を使用した者は、生徒にも、教職員にも誰一人いなかった…

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん

Normal
コメント怖い
0
2
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ