少し前の話です。
久しぶりに、友達Aと地元のスナックで飲んでました。
深夜一時をまわり、そろそろ帰ろうかと、Aに言うと、なんと財布を忘れてきたと言います。
私も、手持ち一万ちょっとしかなく、足りるかなと勘定してもらうと、やはり数百円足りませんでした。
店の人に言って、明日持ってこよう、そう私が言うと、Aは、
「ちょっと待ってろ」
そう言って店から出ていきました。
十分か二十分くらいして、Aが戻ってきました。その手には、小銭がじゃらじゃらと音をたてていました。
「裏にさ、神社みたいのがあってさ、へへ」
Aはそう言って、小銭を数えてました。
私は、「罰があたるぞ」と言いつつも、勘定が足りると言う安堵感からか笑ってました。
ふと、小銭を数えてたAの手が止まりました。
「なんだこれ」
Aがつまみ上げたのは赤茶色の硬貨だった。錆びているのではなく、新しいのに、赤茶色をしていました。
硬貨には、
1971
封呪貨
反対側には、漢字がびっしりと書かれていました。
私は、一目でそれがヤバいものであることが分かりましたが、Aは
「こいつは、もしかしたら、すごい骨董品じゃないの?」
なんて言い出し、私が止めるのを無視して、その硬貨を持ち帰ってしまいました。
今思えば、この時もっと強く止めてあげればと、後悔仕切れません。
次の日、Aから電話がかかってきました。
「昨日のあの赤い硬貨、あれヤバいかも知れない。」
Aはそう言って話出しました。
話によると、昨日の夜、深夜2時過ぎ家に着いてすぐに、ドアをノックされ、覗き穴から見て見ると、大きな帽子をかぶった女の人がいたそうです。
ドア越しに、
「何か御用ですか?」
そう尋ねると、
「封呪貨(ふうじゅか)を返してください。」
そう言ったそうです。
最初は、ふうじゅかと言われて、なんのことか分からなかったそうですが、あの盗んだ硬貨かなと気が付くと、すごく怖くなって、
「今返します」
と、チェーンをかけたまま、ドアを少し開けると、真っ白な手がスッと入ってきたそうで、その手に硬貨を渡した瞬間、
手が、まるで紙が焦げるように消えたそうです。
その時の、女の叫び声が、間違えなく、この世のものではなかった。
Aは、電話でそう話ました。
Aの声を聞いたのは、これが最後でした。
友達Aが、死んだと聞かされたのは、その日の夜でした。
夕方まで、電話で話をしてたのにと、私は呆然となりました。
私は、警察に行き、詳しく事情を教えてもらいました。
死因は、焼死
火事で逃げ遅れた為に死亡
調書には、そう書かれていました。
現場に駆けつけた警察の人は、
「出火元は、Aさんの家からでしょう、燃え方が違います。ただ…
Aさんの、燃え方は普通じゃなかったです。」
警察は、一応、事故と事件の両方から捜査します。みたいなことを言ってましたが、私は、原因が何か、検討がついてました。
赤い硬貨だ!
封呪貨とか言う…
私は、その足で、昨日の神社に向かいました。
途中に、Aの住んでたアパートもあるので、花を供える為、よって行きました。
Aの部屋は、真っ黒に煤けていました。ドアも、真っ黒で、トアノブに触るのも、躊躇われましたが、花を供える為、私はドアを開けました。
それがそこにいた
まるで私を、待っていたみたいに。
Aが、電話で話てた女が、玄関に立っていました。
女は、大きな帽子をかぶっていて、顔は全く見えない状態で、白いドレスのような、スーツのような、そんな服を着ていました。
「封呪貨を、返してください。」
女は、はっきりとそう言いました。
パニック状態の私は、
「知らない知らない私じゃない私じゃない」
叫びながら、とにかく昨日の神社に行かなければと、走りました。
振り向く余裕もないまま走り、なんとか昨日の神社に着いたのですが、神社は暗く、人の気配は全くありません。
「ああ…終わった…」
私は、呟きました。
今振り向けば、あの女がいるのだろう。
そして私も、焼かれてしまうのだろう。
全てを後悔して、私は目をつぶりました。
その時、後ろから足音がしました。
きた…
そう思った時、優しい男の声がしました。
「何をなされているのですか?」
私は、男にしがみつき泣くことしかできませんでした。
男は、この神社をまもる、守人とのことでした。
私は、事の経緯を全て話ました。
男は、私の話を、頷きながら聞いていましたが、私がその女に会ったこと、パニックになって逃げたことを話すと、急に身を乗り出し聞き返してきました。
「女はあなたを追って来なかったのですね。」
そして、
「まだ、間に合うな!」と
私が、全ての話を終えると、守人の男は、
「分かりました。こうなった以上、あなたは全てを知らなければなりません。」
そして、静かに話出しました。
「まず最初に、あなた方が持ち出した、封呪貨ですが、あれには、魂とか霊、又は呪いが封印されているのではありません。
封呪貨に、封印されているのは、業欲です。」
37年前、この街に、一人の女がいた。
女は、金の為なら何でもするような、守銭奴のような人だった。
女は、自分の美しさと若さで、街の男達を食い物にし、体を使って得た金を、また男達に貸し付け、男達は、その金で再びこの女を抱くという、悪循環を繰り返していた。
当然、男達の借金は膨れ上がり、どうしようもなくなってしまった。
そして、一人の男が言った…
「女を殺そう…」
集まったのは、みんなで、13人いた。
男達は、女を呼び出し、そして犯し、殺した。
女は最後に、こう言ったという。
「地獄の業火で、焼き尽くす。全ての欲を焼き尽くす。」
それからこの街は、火事が耐えない街になった。
女を殺した男達は、次々と火事で死んだ。
中には自首した者もいたが、刑務所の中で焼かれた。
13人の男達が、全ていなくなっても、街の火事は続いた。
そこで呼ばれたのが、僕の父でした。
父は有名な鎮霊師で、女を必死で鎮めようとした。
その時の戦いは、壮絶だったと聞いている。
そして、父は両目を失う代わりに、女の欲を、
両腕を失う代わりに、女の魂を、封印した。
女の欲が、封呪貨
女の魂が、この祠です。
守人の男は、ここまで話すと深く息をついた。
「何故父が、見ず知らずの街の人々の為、体を犠牲にして守った訳は…
まあ、それは今はいいでしょう。
あなたの友達Aは、女に封呪貨を触れさせてしまいました。
そして、賽銭泥棒という罪に焼かれてしまったのでしょう。
しかし、あなたは、女に追われていないという。
女の手に、封呪貨が渡っていない証拠でしょう。」
男の話を聞いて、私はただ呆然とするしかありませんでした。
男は言いました。
「とにかく、封呪貨を探しましょう。
今なら、僕の力で、なんとかなるかもしれない。」
私と男は、Aのアパートに向かった。
Aのアパートは、ひっそりと静まり返り、人の気配はしませんでした。
私と守人の男は、Aの部屋の前まできました。
だけど私は、どうしてもドアを開けることができませんでした。
あの時の、女の残像が、頭から消えません。
男が、「行きましょう」と、黒く焦げたドアを開けました。
そこに女は…
いませんでした。
ホッと胸をなでおろし私と男は、封呪貨を探すことにしたのですが、一体どこを探したらいいものか、検討も付きません。
男は言いました。
「どこを探したらいいか分かりませんね。
Aさんは、何か手がかりになるようなことを言ってませんでしたか?」
私は考えました。
玄関のチェーンを掛けたまま、女の手に封呪貨を置いた、とすると玄関にまだあるかも…
私は、玄関に戻り探して見ることにしました。
玄関に行くと、
そこに、女がいました。
私は、悲鳴とも叫びともわからない声を張り上げ、男に助けを求めました。
男はすぐ、駆けつけ、女を見るなり、大きな声で話はじめた、
「ヨウシチは、もう死んだ!
8年前だ…
両目がなく、両腕がない状態で、毎日欠かさず、念を唱えた。
もう、終わったんだ、あなたは、何も欲せず、静かに眠ってください。」
女は、身動き一つせず立っていました。
そして、一言、あの言葉を口にしたのです。
「封呪貨を、返してください。」
すると男は、今度は叫び声に変わり、
「もう、必要ないんだ!
ヨウシチは…
父は死んだ!
姉さんは、もう眠っていいんだ。」
姉さん?
私は耳を疑いました。そして、この守人とその父、女の関係が、
おおまかに理解できました。
女は、相変わらず身動き一つせず立ってます。
その時、私は見つけてしまいました。
玄関の枠の、木の小物置き場?
その上にあったのです…
封呪貨が。
丁度、女が立っている真上に、それはありました。
私は、男に近づき、その場所を教えました。男は、表情を変え、
「姉さん、動けないんだね…。」
そう言うと、女の方へ近づいて行きました。そして、封呪貨を掴むと、それを両手に挟んで、お経のようなものを唱えはじめました。
女は、やはり身動き一つしませんでした。
しかし、お経を唱えはじめて、しばらくすると、少しずつ薄くなりスー と消えました。
皆さんは、この話を、多分…
いや、間違いなく信じないでしょう。
信じる方が可笑しいです。
しかし、これは現実に体験したことなのです。
女が消えた後、私と守人の男は、封呪貨を、元の場所に戻しました。
その時、触れた封呪貨は、ものすごく熱かったのを覚えています。
それ以来、私の身に変わったことはおきていません。
女に会うこともありませんでした。
最後に、読みにくい文章を、読んでくださった方々に感謝いたします。
怖い話投稿:ホラーテラー サンさん
作者怖話