【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編3
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カップルと女性

ドライブをしていたある二人のカップルは、とあるサービスエリアで車を止めた。

今日は二人が付き合い始めて一年の記念日だった。

彼の車であちこち回って楽しんだ二人は少しの休憩をするために降車した。

「久しぶりだよね、こんな風にドライブするの」

彼女は言う。

彼氏はあぁ、と呟いて

「そうだな。忙しくてなかなか時間も取れないから……」

バツが悪そうに眉をハの字にする。

彼女はふふ、と笑う。

「いいよ、気にしなくて」「悪いな。でも今日の夜は楽しもうぜ」

「……うん」

今夜は彼氏の家へ行って飲む予定だった。

今から楽しみにしていた。

と、突風が吹く。

海の側にあるこのサービスエリアは潮風が強く吹き付けるのだ。

なびく長い髪を押さえながら

「すごい風だね」

「本当だな……」

彼氏も持って行かれそうになった帽子を上から押さえ付けた。

店に入ろうとした手前で、彼女はあることに気づいた。

「……ねぇ、あれ」

「ん?」

指差す方向を見ると、一人の女性が海を淋しげに眺めている。

……とだけ書けば普通のどこにでもいる人なのだが、その女性の格好がその存在を異にしていた。

白のワンピース。

しかし、裾は鋭利な何かで切り裂かれたように不自然。

黒い髪は水みたいに腰まで流れ、前髪で表情は計れない。

ただ、露出している肌が異常に白い。

「……大丈夫なのかな?」

彼女が心配そうに言う。

彼氏は少しだけ躊躇ったが声を掛けてみることにした。

「あの……」

「……」

女性が顔を上げた。

さっきまでは分からなかったその面が明らかになる。

美人と称して相違なかった。

鼻筋の通った、しかし若干幼さの残る顔立ち。

二人は少しだけほっとした。

少なくとも霊の類ではなさそうだ――。

「どうかされましたか?」

「どうか……?」

「あ、いえ。こんなところにお一人で…」

「……」

女性は黙ってしまった。

彼氏はまずかったか、と心中で焦った。

「いえ、捜し物を…ね」

女性は答えた。

胸を撫で下ろした彼氏はまた尋ねる。

「捜し物?何かなくされたんですか?」

「なくした……そうね」

女性はくすくす、と意味深に笑って見せた。

髪に隠れた双眸は、彼女には分からない角度で彼氏を射抜いている。

二人は少しだけ背筋が寒くなるのを覚えた。

もしかして、何かやばい人なんじゃ……

「ああ、ごめんなさいね」

女性はぱっと明るい表情をすると言った。

「この近くに私の知ってる岬があるの」

「岬?」

「ええ、素敵なカップルさん、記念に行ってみない?」

私は地元の人間だから心配いらないわよ、と続けた女性。

普通ならこんな怪しげで見知らぬ人についていくような馬鹿はしないはずだったが

「まあ、いいか」

ドライブで気分がよかったのもあった、二人はついて行くことにした。

「わあ、すごい!」

彼女は楽しそうな声を上げた。

岬は海が一望できた。

ただ、天然物で柵やアスファルトの類は一切ないので足元が不安だ。

「すごい……けど……」

さっきから女性の視線が気になる。

何だ――?

「ねぇ、すごいでしょう」

女性は軽い足どりで彼氏の後ろまで来た。

「す、すごいですけど……」

彼氏はへら、と笑って言った。

「危ないし……そろそろ戻りましょうよ?」

「戻る?」

「えー?もう少し居たーい」

「で、でもさ……」

だんだんと彼氏の中で焦りが生まれて来た。

だめだ、いけない、ここに居たら……

「そうね、戻りましょうか」

女性が言う。

「彼女さんだけね」

女性の細腕がとん、と彼氏の背中を突いた。

海からそんなに近くなかったはずなのに彼氏の身体は海へと吸い寄せられた。

ぼちゃん、と呆気ない音がした。

「……え……」

彼女はぽかん、として女性を見る。

「……私は昔あの男に殺された」

「……!?」

「どこで殺したかまでは覚えてなかったみたいね」

「……そんな……」

「車、あいつの席を探してみて」

そういうと女性は笑って消えた。

彼女は暫くの間目を見開いていた。

茫然自失のまま車に戻ると、確かに、包丁があった。

もし、今夜そのまま彼氏の家へ行っていたら……。

また、彼氏の名前で調べてみると十年前確かに女性を殺していた。

同様の犯罪も幾つか起こしていたようだ。

あの女性は、ずっとあそこであの男を探していたのか……。

怖い話投稿:ホラーテラー yu_rayさん  

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