はじめに
この話しは実話であり、なるべく伝わりやすいように長文となります。
また心霊的なお話しではないのでその点を踏まえた上でお読み下さい。
僕は数年前にパソコンのソフト開発、販売をしている会社で営業として勤めていました。
当時の僕はまだ若く経験や知識も乏しく営業成績も悪く全く会社に貢献していませんでした。経験や知識に乏しいと言えば言い訳で正直ただやる気がなかった単なる駄目サラリーマンでした。
外回りをしてもほとんど門前払いで昼過ぎには本社に戻り報告書を作っていました。
その当時唯一の楽しみだったのは報告書を作成し終えてから、会社のホームページ内にあるチャットで楽しむことだった。
たわいもないやり取りが仕事で業績の取れない現実から開放される一時でした。
ある日、会社の上司がチャット内でオフ会を開催しようという提案を出した。
主催は個人ではなく当社、そして日程、開催場所、参加費用等詳細が書かれていた。
参加費用からして僕は明らかにその幹事役を務める上司がくすねるのが見え見えで気が進まなかったが会社命令で社員全員出席を命じられた。
しかし、こんな費用では参加希望者はほとんどいないだろうと思っていたが想像以上に集まりとんとん拍子で話しが進み、結局30人程参加希望者が集まった。
そして当日、参加者が集まり一次会が始まった。一次会はバーベキューでバーベキュー会場は大いに賑わった。
二次会は繁華街の飲み屋を貸しきり、みんなで飲んで騒いで盛り上がっていた。
僕は会社主催ということもあって周りに気を遣いながら過ごしていたのでやっとゆっくり出来ると思い、二次会の飲み会の店のカウンターでゆっくり飲もうとした。
その時、上司が僕を呼び「おい!あそこのテーブル席盛り上がってないからお前行って盛り上げて来い!」と言われ渋々そのテーブル席に向かい「どうも!本日はご参加いただきありがとうございます!」と挨拶をしてから無理してその場を盛り上げ、挨拶がてら名刺を一人一人に渡し話しかけた。もしかすると今後仕事に繋がるかも知れないという思いもあって愛想を振り回っていた。
その中にはチャット上で一緒に盛り上がった人もいたり、全く面識もない人もいたり様々だった。
そんな中、誰の紹介で来たかは分からない二人組みの女性がいた。
二人とも私よりも年上のようで凄く美人で品のある人だったので僕は緊張しながらも名刺を渡し挨拶した。
その女性は恵美さん、佳奈さん(どちらも仮名)とおっしゃる方で僕はドキドキしながらそんな自分を誤魔化すように二人の前で少しおちゃらけて話しをした。
すると恵美さんが私に「かわいいね!匿名君ていうんだ。また良かったら一緒にご飯でも行こうよ。」と誘われた。いや、その時は社交辞令だと思っていた。
翌日、僕は昨夜調子に乗りすぎて飲みすぎたせいもあり、二日酔いでいつものことであるが外回りもろくに出来ず社内で報告書の作成や、営業回りの下調べ等を行っていた。
すると僕の携帯電話が鳴り、見ると登録されていない番号だった。
取引先の方だと思い電話に出ると相手は昨日オフ会に参加していただいた恵美さんだった。
僕の名刺には携帯番号も記載されているのでそれを見て電話をくれたのだろうと思い電話に出た。その時は仕事の匂いがして少し胸が躍る気持ちだった。
恵美「昨日はどうもありがとうございました。とても楽しかったです。」
やはり品があり常識のある素敵な方だと僕は思った。
僕「いえいえ、こちらこそとても楽しかったです。」
恵美「突然でこんなこというと戸惑われるかも知れませんが、良かったら今度一緒にお食事に行きませんか?」
僕は正直驚いた。こんな仕事も出来ない馬鹿そうな僕を上品で綺麗な女性が食事に誘ってくれるなんて信じられない。しかしここで断るのは男として情けない。しかももしかすればその女性の勤務先にも当社の企画を受け入れてくれるかも知れない。
僕「いいですよ。誘っていただけるなんて凄く光栄です。良かったら誰かうちの会社の者も誘って一緒に食事しましょうか?」
恵美「それは嬉しいですけど良かったら二人でどうですか?」
僕はその言葉を聞いた時ちょっと疑ってしまった。僕は客観的に見てそんなにもてる要素は特にない。それにも関わらず恵美さんは僕と二人での食事を誘っている。
男としては綺麗な女性から誘われればこの上のない喜びであろうが、僕は情けないことだが自分に自信がないので恵美さんは僕の何を求めているのか詮索しそうになった。
お金?いや、僕はお金なんてないし見る限り持っているようには見えない。
その時僕は誰ともお付き合いがなかったし、取って食われるなんてこともないだろうと思い「分かりました。では○日の夜はいかがですか?」と聞いた。
恵美「○日は大丈夫です。では場所は○○で○時に待ち合わせでいいですか?」
僕「分かりました。では楽しみにしてますね。」と答えました。
因みにこのことは別にやましいことでもないのでこの時は会社の同僚には一切話しはしませんでした。
当日、僕は少し早めに指定されたお店に着いた。緊張で心臓がバクバクなっていたことだけは覚えている。
お店の駐車場で少し待っているとほぼ時間通りに恵美さんは到着し二人でお店に入った。
そのお店で二人は食事を取り、仕事やプライベートのこと、先日のオフ会のことなど色々話しをして盛り上がった。
店を出てから恵美さんは「この後どうしようか?」もうこの時には恵美さんとは打ち解けて敬語ではなくなっていた。
僕「明日は仕事だから今日はもう帰るよ。」
恵美「そっか、だよね!また今度ゆっくりお酒でも飲もうよ!」と言い、そこで二人は別れた。
異変が起こりだしたのはそこからだった。
僕はその日も取れない外回りに回っていた。
すると携帯が鳴った。会社からか?と思い、携帯に出ると恵美さんだった。
僕「どうしたの?」
恵美「昨日はありがとう。いや、仕事頑張ってるかなと思って」
僕「こちらこそありがとう。まあ、ぼちぼちだけどね・・・」
恵美「そっか、邪魔してごめんね。また夜電話かけていい?」
僕は他に何か用事でもあるのかと思いつつ「うん、分かった。」とだけ答えた。
その夜恵美さんからやはり電話がかかってきた。
電話は特に内容もなく恵美さんの仕事の愚痴が一方的に話され、僕は相槌を打つことぐらいしか出来なかった。
結局電話を切ったのは深夜の2時だった。僕は一体何だったんだ?まあ、女性は愚痴を誰かに話すことによってストレス発散になっているのだろうとか思いつつ、溜息を吐きその日はすぐに寝た。
そしてまた次の日の夜も恵美さんから電話がかかってきた。
僕は少し躊躇いもあったが恵美さんとの付き合いも少し考えていたので電話に出た。
その日の電話の内容も特にお互いの核心にせまる内容もなくただただ恵美さんの一方的な話しばかりで僕はその時の電話もストレスになった。
翌日職場の同僚と一緒に食事に行った。
そして恵美さんのことを話ししたが、同僚は真面目に聞き入れてはくれず、あれだけ綺麗な女ならとりあえず脈ありならやってしまえよ、なんて茶化す。
その時私の携帯が鳴った。私はまさかと思い携帯を見るとまた恵美さんからだった。
私「また恵美さんからだよ」
同僚「とりあえず相手の気持ちを聞いてみろよ」
やっと同僚はまともなアドバイスをくれた。
私は決心して電話に出た「はいはい、どうした?」
恵美「どうしたじゃないよ。電話出るの遅くない?」
僕「え!?いや、今会社の同僚と一緒に飯食ってるから」
恵美「はぁ!私はそんなの聞いてないけど」
僕はお酒が入っていたこともあり少しカチンときて「え!?それを恵美さんに話す必要あんの?」
恵美「話す必要があるかないかはそっちが判断することじゃないの?」
僕は正直なんだこの女と思った。
僕は「僕と恵美さんてなんなの?」つい聞いてしまった。
すると恵美さんは「そんなこと聞くほど野暮な男なの?」と逆に返された。
僕は更にこの女一体何言ってんの?意味が分からないんだけどと思い、
僕「とりあえず今同僚と飯食ってるから切るね」と一方的に電話を切った。
同僚は「お前もうやっちまったんじゃねえの?正直吐いちまえよ!」と茶化す。
僕「やってるんならその前にちゃんときっちり自分の気持ち伝えてるよ!」と答えた。
僕は女性に対してはそういう律儀なところがあった。
同僚は「まぁ、お前がその気がないならきっちり態度で見せたらいいじゃん。」
僕はその言葉を聞いて凄く納得させられた。そして今までのやりとりから恵美さんとはお付き合い出来るとは思えないのでもうメールや電話で応対することを止めることにした。
しかし、それからが更なる悪夢といえる日々が続くとは予想も出来なかった。
翌日からもほぼ毎日のように電話が鳴り、メールが来るが僕は一切無視していた。
そしてすぐに恵美さんからも「何で無視するの?」と言うメールが届いた。
しかしいずれこの僕の態度を見て僕にその気持ちが無いことを悟っていずれ連絡も来なくなるだろうと思っていた。
だがその考えは甘かった。それからも執拗に恵美さんから電話が鳴り、メールも入って来て、更には留守電にまでメッセージを残すようになる。
内容は「何で無視するの?」
「私に気があるんじゃなかったの!?」
「このままで済むと思ってるの!?」
「あの時食事に誘ったのは何だったの!?」
「私とあなたの関係は何だったの!?」
段々とそのメールやメッセージの内容がエスカレートしていく。
僕と恵美さんはオフ会で知り合い、一度だけしか食事をしたこともなく、深い関係になったわけでもない。ましてや僕の方から食事に誘った訳でもないし、思わせぶりな態度を取ったわけでもない。
それから更に僕に対する攻撃は激しくなっていく。
先ず、会社に僕に対する文句や、チャット上で『匿名(私)は女を食い物にしている獣』等と書きこまれることもあった。
重く見た会社側がこれは会社の問題ではなく個人の私情の絡みだから何とか解決しろとしか言われなかった。
ただその時は何の解決方法も見出せなかった。
それから少し僕に対しての攻撃も無くなってきた頃、友達が大規模な飲み会をしようという提案がきた。その友達のお母さんが飲み屋街のスナックを経営していて会費さえあえば店を貸し切りに出来るということもあって、僕とその友達と必死になって参加者を集めその盛大な飲み会は決行に至った。
その飲み会は幹事の僕と友達にとっては本当に大成功に終わるはずだった。
ただあの女が来るまでは・・・
僕はちょっと酔い覚ましをするつもりで店の外に出た。それを見たもう一人の幹事の友達も店から出て来て、二人で煙草を吸いながら「今回の飲み会大盛況だな」と二人で話し合っていた。
僕はその時煙草を吸いながら少しうつむいていて、飲み屋街の通りを行き交いする雑踏を耳にしていた。
するとその時女性のヒールの「カツカツ」という音が遠くから聞こえその音が僕の目の前を通り過ごそうとした時にその音は僕の前で止まった。僕はその止まった足を見てから何故か先にそのヒールを履いた女性よりも先に友達を見ると、友達は口を開き唖然とした顔をしていた。僕は恐る恐る顔を上げヒールの女性の顔を見るとなんとそこに立っていたのは恵美さんだった。
友達は初めてのオフ会の時にも参加し、恵美さんと僕との経緯を知っていたので何でここで僕達が飲み会をしていることを知っているのか不思議で唖然としていたのだろう。
僕も同じ気持ちだった。
僕は「竜平(友達)、店戻ってろ。」
竜平「分かった。」と言い、私に近づき私の耳の傍で「何かあったらすぐ携帯鳴らせ。」と言ってくれた。
僕は「分かった。でも大丈夫。」と答えた。
その間にも恵美さんは黙り込んで僕を睨み続けている。
僕は「恵美さん、とりあえずここじゃゆっくり話しが出来ないから場所を変えよう」と少し路地を入った人気の無い場所に連れていった。
場所を移ってからも恵美さんは僕を睨みつけている。
僕はビルの横にあるちょうど腰が掛けられる場所に座り、恵美さんは立ちすくんでいる。
そして自分を落ち着かせようともう一度煙草に火を付け、気を取り戻し冷静に恵美さんに「何か気の障るようなことをした?もし僕が恵美さんに対して失礼なことをしたなら謝るよ」と、とりあえずこの場は下手に出た方が良いと思い言い放った。
すると恵美さんは睨みつけた形相から一変笑顔で「何で?そんなことないよ。でも誘ってくれれば良かったのに。」
僕はこの女何を言ってるんだ?僕の友達達との飲み会にどこから漏れたか分からないがこの場所に急に来て一体どうするつもりだったんだ?
僕は意を決し恵美さんにこう言った「恵美さん、正直に言わせてもらうけど僕と恵美さんは付き合っているわけでもなんでもないんだ。だから僕にとって毎日のようにあんな電話やメールが送られてくるのは正直しんどいんだ。」
恵美さんはさっき見せた笑顔からまた険しい形相に変わり僕を睨み、そして黙り込む。
そして少し二人に沈黙の時間が流れる。
僕は言葉が見つからないまま黙っていると恵美さんがまた笑顔に変わり「まぁ、そんなことはどうでもいいから最近どうなの?」と聞いてきた。
僕はこの時点で明らかにこの女はおかしいと思った。
私は「ごめん、話しをもう一度戻すけど今日は友達らとの飲み会で急に来られても困るんだよ。」と言うと同時にまた険しい形相で僕を睨みだした。
なんなんだよこの女は!?
すると恵美さんが険しい表情のまま急に自分のカバンをゴソゴソと探り始めた。
僕はその状況から察して刃物でも出て来てもおかしくないと思い構えてしまった。
すると恵美さんはまた険しい表情から一変笑顔に変わり、いや嘲笑うかのように「何びびってんの?携帯探してただけなのに。」
僕は『この女はヤバイ、ヤバイ、ヤバイ』それで頭の中がいっぱいだった。
その時恵美さんが「ねぇ、隣に座ってもいい?」
僕は拒否することも出来ず「どうぞ」と座らせた。
そこからはさっきまでと同じようなやり取り。僕が恵美さんに対して都合の悪いことを言うと恵美さんは険しい表情になり、また恵美さんが笑顔で話しを逸らす。
そんなやり取りを続け、僕はなるべく恵美さんの機嫌を見ながら恵美さんに帰るように説得した。
すると恵美さんは「じゃあ、車まで送って」と案外すんなりと受け入れてくれた。
僕はやっと解放されると思っていたがそれは間違いだった。
飲み屋街から少し離れた駐車場まで付き添い恵美さんが自分の車に乗り僕は「じゃあ気をつけて帰ってな」と言うと、恵美さんは「隣に乗って!まだ話しは終わってないんだから。」
僕はふざけんなよ!と思いながらもあともう少し、もう少し話しに付き合えばきっと素直に帰ってくれるはずだと思い助手席に乗った。
すると恵美さんは少し黙り込んでいたが、急に穿いていたスカートを脱ぎだし下着まで脱ぎ始めた。
僕は「何してんの!?ちょっと冗談やめろよ!」
恵美「私はこんな関係でも構わないから!」と僕の上に跨いだ。
僕は恵美さんを突き飛ばし「ふざけんな!」と言い放ってから慌てて助手席から飛び出し逃げるようにその場を去り、友達達が盛り上げっている店まで戻って、幹事の友達に「あの女まじでヤバイ!悪いけどおれ先帰るわ!後まかせた!」と言って、私物を持って逃げるように帰った。
それから恵美さんからはメールや電話は来なくなり、僕も忘れかけていた頃、僕は転職した。もちろん恵美さんが理由でその仕事を辞めた訳ではなく、ただ単に自分に合っていないことと色んな事情もあって新しい職場で勤めることとなった。
それと同時に携帯も変えた。
しかし、僕の悪夢はまだ終わっていなかった。
新しい職場にも少しずつ慣れ始めた頃に仕事も終わり自宅でくつろいでいた時、家の電話が鳴った。当時僕は実家住まいだったので家の電話は僕の母が出たのだが、珍しく母が僕に電話を繋いだ。普段は僕に自宅に電話があってもほぼ変なセールスの電話ばかりだったので電話を繋がない母が僕に電話を繋いだ。
母は電話の相手は僕の高校時代の同級生だと名乗っているというのだ。
僕は高校時代それ程仲良く付き合いのあった友人はいなかったので不思議に思ったが電話に出ると電話の向こうから「もしもし、やっと繋がった!」その声を聞いて僕は絶句してしまった。その声の主がすぐに聞き覚えのある恵美さんであることが分かった。
もちろん恵美さんは僕の実家の電話番号までは分からない。名刺にだってさすがに自宅の連絡先まで記載している人なんていない。僕は単純に疑問に思ったことを聞いた。
僕「な、何で、この電話番号が分かった?」
恵美「そんなの簡単じゃん!ハローページで調べてあんたの苗字の片っ端から電話かけたら行き着いた。」
いやいや、僕の名前はそんな珍しい苗字なんかじゃない。どこにでもあるありきたりな苗字、ハローページに僕と同じ苗字の人がどれだけいるか分からないが僕に行き当たるまで相当な時間と労力が必要だったはず。
僕は「一体、何が目的なんだ?」
恵美「んー、何だろう?とりあえず気にくわない。それと今分かってると思うけどあんたの住所も分かったし、実は新しい職場も知ってるんだ。」
僕は鳥肌が立った。それと同時に憤りを感じ「それでどうする!?それは脅しか!?」
恵美「脅し、てわけじゃないけどとりあえず今からそっちに行くよ。」
僕「分かった。そっちがそのつもりならこっちは警察に通報するからその覚悟でいろよ!」
恵美「ハハハ、構わないけど何なら新しい職場にも顔出そうか?」
僕「そんなことしてみろ!絶対後悔させてやるからな!」と言い放って電話を切った。
いや、怖くてそれ以上は話せなかった。
僕はこれは自分だけではなく実家の親にまで迷惑を掛けてしまうかも知れないと思い、母に全てを話した。
すると母が「あんたはその女の子と肉体関係とかにはなってないよね?」
僕「一度一緒に食事をしただけでそれはない。ただ綺麗な人で品のある人だったから本気でお付き合いするかどうか悩んだことはあった。けど、途中から明らかに言動がおかしくなって連絡を取らなくなってからその女性はおかしくなった。」とありのままを伝えた。
母はこういうときは強いものだ。
母は「今からその女性は来ると言ったんだね?あんたが出ると面倒だから私が対応する。それでもし相手が変な行動を起こすようだったらすぐ警察に電話しなさい。」
僕は情けない話だが凄く安心した。
それから母と二人でリビングで待った。
僕は時計ばかり気にしている。
そして結局日が変わるまで恵美さんは来ることがなかった。
母は「単なる脅しだったみたいだね。今日はとりあえず寝よう。」と言われたが、僕はその日全く眠れずそのまま翌日職場に向かった。
僕は昨夜全然眠れなかったので仕事にも集中出来ず、だらだらと仕事をこなしその日の勤務を終え、会社の駐車場に向かっていた。
すると、駐車場に女性が立っている。僕はそれがすぐ恵美さんだと分かった。
僕はすぐに反対側に走って逃げた。何故ならはっきりとは見えなかったが刃物らしき物を持っていたので自分の身の危険を感じた。
後ろを振り返ると恵美さんが半狂乱になりながら刃物を振り回し「殺してやるーーー!!」と叫びながら追っかけていた。
僕は必死に逃げて何とか恵美さんから距離を離し、身を潜めることができた。そこは近くの煙草屋さんだった。
僕はそこから実家の母に電話をし、迎えに来てもらった。
僕はどうしていいか分からず、母に実家に送ってもらっている最中も考え込んでいた。
母もどう声を掛けて良いものか分からず、「大丈夫だから」「何とかなるから」といような声を掛けてくれていたと思う。
これが世間でいうストーカーというものか。
いくらストーカーとは言え男と女、力の差は歴然だから何かあってもどうにか解決出来るだろうと安易に考えていた。
実家に帰って僕は少し考え、解決に導いてくれるかどうか分からなかったが、恵美さんと知り合った時に恵美さんと一緒にいた佳奈さんに連絡を取った。
佳奈さんに電話を掛けて今までの全てを話した。
佳奈さんは恵美さんと小学生の頃からのおさなじみだったようで僕の話しを聞いて信じられないというような反応だった。
ここからは佳奈さんの話しなのだが恵美さんは今までお嬢様で育ってきて、チヤホヤされながら欲しい物は何でも手に入るような環境で育ったそうだ。
そしてその容姿から周りから今まで色んな男性に言い寄られることがあっても自分から好きになることはなかったそうだ。
それがあの時のオフ会の後に、佳奈さんが恵美さんと話しをした時に初めて自分から好きになれそうな人が現れたと聞いたらしい。多分それが僕のことだったのだろうと思う。
佳奈さんは僕の話しを真剣に聞いてくれて「恵美には私からちゃんと説得する。だから警察沙汰とかそんなことにだけはしないで!」と言われた。
僕は自分自身もそうだが佳奈さんのことも考え、なるべくそういう形で終わらせたくないという意思だけは伝えた。
それから恵美さんから一切電話やメール等の連絡が来なくなった。
そして私の前に姿を現すことも無くなった。
ただ残ったことが僕の女性不信というトラウマ。
女性から近寄られると未だに怖くて距離を置いてしまう。
私は幽霊等見たこともないし全く縁がないが、そんな存在よりもあの女性に埋め込まれた恐怖はそれを凌駕するものだ。
何故なら僕はこのトラウマを多分一生懸けても取り払うことは出来ないだろうから。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話