その日は四人だったはず。
「なぁ、来週遺跡でも見にいかへんか?」
「たまには歴史に触れてみようや」
週末に我が家に集まるメンバーの一人が言い出した。
「たまにはええかもなぁ。」
「でも何で遺跡なん?」
「いや、なんとなく」
「まぁ、ええか」
「たまにはええかもなぁ。」
若干、こいつが言いだした事にはあまりいい思い出がないので、行くまいか迷ったが結局俺も参加することにした。
「他のメンバーにも連絡しとくわ。」
「ん。」
と言うわけで次週○○遺跡に行くの巻!という事になった。
「あっ、俺パス。興味ない」
「俺予定あるわ。」
「他のやつは?」
「用事あるらしいわ」
結局今回の遠出は話が出たときに飲んでいた四人になった。
せっかくの遠出の為、近くにキャンプ場があるので、大自然で一泊決定。
「テントは俺が用意するわ」
「バーベキューセットは俺にまかせとけ!」
「んなら、とりあえず来週は朝に迎えに行くから準備しとって」
と、言うわけで次の週に朝イチレンタカーを借りた。
借りたでっかい○○○エースでみんなを迎えにまわった。
「んじや、出発!」
途中食料や酒を買い、○○遺跡に向かった。
昼過ぎに到着し、遺跡を見てまわった。
まぁ、色々な出土品を眺めながら太古のロマンに触れた。
まぁ、ほぼ大自然を満喫した感じで終わったんだが。
俺は以外と楽しかった。
器とか鏡とか。そっからたくさん出たらしい。
昔の人の生活を想像しながら見てまわった。
「たまにはこーゆーのもええなぁ。」
みんなそれぞれ口々に感想を言った。
みんな来てよかったみたいだ。
夕方にはそこからすぐのキャンプ場移動した。
キャンプ場には誰もいなかったので、場所代も払わずで、ラッキーだった。水道は使えるし、ボロボロだがトイレもあった。
もしかしたらもう閉鎖されていたのかもしれない。
先にテントを張り、火を焚き太古のロマンあふれる生活にもっとも近い形での飯の時間となった。
周りに誰もいなかったのでトランク一枚で飯。
まぁ、こんな酒もありだろう。
ってか、言っておくがこんなしょうもないことを言いだしたのは俺ではない。
ドンチャン騒ぎは続き、昔の人はこんな踊りで収穫を祝ったなど、踊ったり、意味のわからない歌を歌ったり。
三時間くらいはしゃいだ後、四人とも酔っ払い、疲れ切っていたのでテントに入り寝ることに。
「卑○呼様!」
誰かの訳のわからん寝言で目が覚めた。
『卑○呼って、、、。』
『どんな夢を見てんだよ。』
とまぁ、また眠りにつく為に寝返りをうった。
『あれ!?火を消し忘れたかな?』
飯を食ってた辺りが明るい。
いやいや、火の始末は必ずちゃんとした。
火の怖さはちゃんとわかってる。
間違いなく消した。
だが、あの揺れ方は明らかに火だ。
それを囲むように小さな明かりが七個くらいあった。
とりあえず隣で寝てる奴を起こした。
「んだよ。眠てぇから寝かせてくれ。」
「頼む。ちょっとまずいかもしれん。」
「何がやねん。」
酔いと眠さでキレていたそいつも気付いた。
「何やねんあの光は!?」
ビビッたのか急に小声で言った。
テントの内側の出入口のメッシュの向こうにある明らかに不自然な光を確認した。
「まずいよな?」
「ん。まずい。」
「昼間の何かが憑いてきたんかな?」
「わからん。」
「ありがとうございます!卑○呼様!」
二人してビクッとなった。
またしてもあいつの寝言だ。
「ビビッた!何やねん!!」
「さっきも寝言で言うとった。それで俺は目が覚めてなぁ。」
「なんちゅう夢を見てるんや。」
ビビリながらも少し二人で笑った。
意外と余裕があったのかもしれない。
何か確信的なものがあったわけではないが。
二人ともテントの中にいれば大丈夫だろうと。
勝手な自信はすぐに打ち砕かれた。
火の周りを囲む光のうち三つが列になりテントに向かってくる。
やがて光はテントの周りを回りだした。
火の近くにいくつか光は残っていた。記憶が曖昧で、四つか五つくらいだったはずだ。
テントの周りを三つの光がグルグル回り続ける。
次第に人の形に変わっていく、、、。
二人とも黙るしかなかった。
虫の泣き声と共に聞こえる声が耳に入ってきた。
あきらかに日本語ではない何かの言葉であった。
ほとんど何て言ったかはわからなかったが、擬音語の様な音の言葉が多い会話だった。
後は濁音が多かった。
ガバダ、、、みないな感じだった。内容がわからんかったのでよく覚えてないが。
隣の奴は入り口の一番近いとこで寝ていた俺をまたぎ内側のメッシュの出入口のファスナーを開けた。
『なんて事を!!』
と、思う間もなく入り口のファスナーを閉めた。
かなり早い動きだった。
入り口を開けたままにしておく止め具を外し、すぐに外側の出入口の扉を下ろし、ファスナーを閉めた。
開け閉めする瞬間にちらっと姿を見たが、原始人!?だった。
頭がでかく、背が低く、毛むくじゃらのゴリラの子供みたいな背格好だった。
一メートルちょっと位の身長だと思う。
外側の出入口を閉め、完全にこちらから姿が見えなくなって安心感を持ったのを覚えている。
グルグルグルグルと回ったそいつらから壁を作ったテントの扉。
だが恐怖は増すばかり。
シルエットでわかる。手に持っているのはあきらかにぶん殴り打撲させる為の武器、先の尖った刺す長い武器、しなるアーチを使った飛び道具だった。
ありえない。
未だかつて原始人の幽霊を見た人がいただろうか。
本当にありえない。
グルグルと周りを回っているため今回ばかりは逃げ場がない。
原始人のうちの一人が何やら雄叫びをあげるとそいつらはどんどん集まってきた。
木を叩く打楽器の様なリズムにのり。
踊っている、、、。
歌っている、、、。
十人位に増えていた。
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
話はもちろん、お経ですら通じるはずもない原始人相手には黙ってじっとしているしかなかった。
『?』
踊るのをやめたようだ。
立ち止まり何かを話している。
いやいや、まじでやばい。
足並みをそろえてテントギリギリまで近づいてきた。
いくつもの手がテントに伸びる。
そしてひっぱりやがった。
すごい力だった。
テントを腕の力で引き裂いた。
ビリビリッ!!!!
空が見える。
星が見える。
原始人も見える。
『終わった、、、。』
寝ている二人は起きないし、隣の奴は体を縮ませ頭を隠し震えている。
叫びだす原始人。
動けない俺。
『もうダメだな。』
ここで死ぬ。そう思った。
その時、卑○呼様!と寝言を言っていた奴が狂ったように起き上がり踊りだした!
卑○呼との生活をイメージし、飯を食いながら踊っていた時の訳のわからない祝いの踊りを。
、、、。
卑○呼と原始人は関係ねぇ。。
だが、身動きもとれずそれを見ているしかなかった。
原始人もじっとその踊りを見ていた。
そして踊りながら移動するあいつの後ろに連なり一緒に踊りだした。
踊りの列は火に向かい進んでいく。
気が狂ったかのように躍り「あ」に濁音がついた叫び声をあげながら踊り、火の周りを回る。
グルグルと踊り続けていると辺りは少しずつ明るくなり、原始人の体は透けはじめた。
朝の光が希望をもたらした。
『助かるかもしれない!』
辺り一面が明るくなってきた頃、踊りながら原始人達は消えていった。
『助かった!』
完全に消え去ったかと思った瞬間に一緒に踊っていた奴はバタリと倒れた。
とりあえず、車まで運び後ろに乗せた。
寝ているもう一人を叩き起こし車に乗り込んだ。
起こされてすぐ車に乗せられて???な顔をしていた。
「何やこんな朝から。もう帰るんか?」
「いいから黙って乗っとけや!!」
ぶつぶつ言いながら助手席でおとなしくしている。
一刻もはやくその場を離れたかったので、破れたテントは置いてきた。
とにかく移動だ。
車を走らせる。
ガン!!!
あまりに焦っていた為に木にぶつけてしまった。
レンタカーなのに、、、。
なんて気にしている暇はない。
「あれ!?何で車にいんの俺たち?」
車をぶつけた衝撃で意識を取り戻したのだ。
「あれ?何で車ん中?」
後部座席でボソリとつぶやいた。
何も覚えてないらしい。
あれだけ踊っていたのに。
「いいから黙って乗っとけ!」
俺たちの代わりに助手席から怒鳴り声。
『お前も何もしらんのにな』と思ったが、何も言わなかった。
助手席の奴はさっき怒鳴られたから、とりあえず誰かに八つ当りをしたのだろう。
八つ当りの相手は俺たちの命の恩人なのに。
30分程走って車を止めた。
最初に後部座席に向かって声を放った。
「何の夢を見てたんや?」
「はぁ?何もみとらんで。」
『やはり卑○呼は関係ないようだ。』
ただ、遺跡をめぐり、卑○呼のいた時代を想像しながら寝てたら夢の中で出てきた程度だろう。
『いや、しかし何で原始人やねん。』
と思いながら、二人に夜中にあったことを話した。
「はははは!原始人?」
「笑い事じゃねーよ!!」
「殺されかけたんやぞ!」
「いやいや、すまんすまん。」
「でも原始人って、、、。」
人の魂は生まれ変わるんじゃなかったのだろうか。
昔の、、、ましてや大昔の原始人の幽霊なんて、、、。
話をしながら打楽器の音と、踊りを思い出した。
まだ興奮がおさまらない。
今回は俺たちは何も悪いことをしてないのに。
『もしかしたらキャンプ場で事件があったのかな。』
『で、今は閉鎖されていたのかもな』
そう考えた。
ただ、遺跡の近くでは、さらに昔の時代の貝塚が見つかっていたので、その時代の人たちを意味のわからん踊りで魂を呼び起こしてしまったのだろうか。
それ以外には考えられない。
もう二度と意味のわからん踊りは踊らない。
恐るべし原始人。
本当に怖かった。
『あっ!』
まずい。非常にまずい。
なぜ俺たちは逃げるときいつもトランクス一枚なのだろうか、、、。
取りに帰るべきだろうか、、、。
いや、今回は取りに戻るのをやめた。
落ち着いて考えれば着替えは車に乗せていたからだ。
着て帰る服があるからみんなもテントに残した服は諦めると言った。
閉鎖されていたのかもしれないキャンプ場には破れたテントと俺たちの着替えがある。
もし、あなたが人気のないキャンプ場でキャンプをするときに破れたテント、服、バーベキューセットが放置されたままの状況であればそこからすぐに立ち退くことをお薦めします。
この場を借りて、踊りで俺たちを助けてくれた恩人に一言。
ありがとう。
キミは何も覚えちゃいないがな、、、。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話