中編6
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『封じ』 ひとつめ

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アパートに帰り着くと郵便受けに手紙が入っていた。色気のない茶封筒に墨字。間違いない泰俊(やすとし)からだ。

奴からの手紙もこれで30を数える。今回少し間が空いたので心配したが元気そうだ。宛名の文字に力がある。

部屋に入り封を切る。封筒の文字とは裏腹に手紙の方の文字には乱れがあった。

俺は手紙から目を離し、何かを思い出そうとした。

俺は慣れない運転でいささか疲れを感じ始めていた。山深い田舎のクネクネと曲がりくねった道。緑が美しく思えたのは最初の一時間程だ。

助手席の泰俊(やすとし)は運転を代わってくれる素振りを見せない。

いつもはコイツが車担当(運転)だ。

堪らず少し広くなった道脇に車を止め、どうした?って顔の泰俊に言った。

「運転代わってくれ!!」

「康介(こうすけ、俺)・・俺は今、免停中だ。法を犯すことは出来ない。」

と言って合掌しやがった。こいつは寺の長男で将来は坊主だ。そして色んな意味で頼りになる。

「くぅ~。お前。スピード超過で一発免停喰らっといて言う言葉か?それが?それでも坊主か?」 とくってかかる俺。

「俺はな反省してるんだよ。康介。二度と過ちは犯すまいってね。そんな俺をそそのかすお前は何だ?恥を知れ!!悪魔め。」

と涼しい顔で前方を指差す。

そこにはOOOまであと4キロの古びた看板。OOOは今回の目的地だ。

「ここまで来ておいて投げ出すとは・・・情けない奴だよな。仕方ない。お前の為に俺は再び罪を犯そう。」

 とため息をつきやがった。

俺は一言・・「もういい。運転する。」 としか言えなかった。

なんだかんだでメチャクチャ長い4キロを走破して俺達は目的地の町(村?)に着いた。

ここでもう1人の友人であり、ここの出身者でもある友明(ともあき)と落ち合うのだ。

約束の場所は小学校の跡地。すぐにわかった。

会う人みんな年寄りばかりで、20代の若者は俺達だけって勢いで思いっきり過疎化って感じだが、みんな明るく朗らかだった。

友明がニヤニヤ笑いながら近づいて来る。

「お疲れさん。お?康介が運転か?んじゃもう少し休憩して出発するか?」

俺 「え?ここじゃねぇの?」 

友明 「ん?ゴールはこっから一時間くらいの山の中。」 

「友明・・運転・・」

「俺、ペーパー。危ないよ(笑)」

やっぱり今回の旅は調子が狂う。いつもは俺等三人が何らかの役割分担をし、お互いワイワイ楽しんだものだ。

だが今回に限り泰俊はダンマリだし、友明は何となく緊張している。

騒いでいた俺は運転で疲れ果てている。なんか違うだろ?

そう。 今回は観光でもバイトでもナンパでもない。

俺達は魔物を「封じ」にここへ来たのだ。

事の始まりは春、まだ少し寒い頃だったと思う。

部屋で泰俊とゲームだったかDVDを観ている時に、友明が訪ねて来た。

珍しく神妙な面持ちでチョッと力を貸してくれないかって言う。

なんだ彼女と喧嘩したのか?と言うとニカッと笑って「違うって」と言い直ぐに真顔に戻った。ちょっと驚きを感じて話を促すと、

「俺の地元の寺の住職が危篤なんだよ。」 と話し出した。

何でも友明の家はその地元の寺を支える四家の内の一家で、寺の住職が亡くなった時にある「御役」というものが代々あるとの事だ。

御役には四家の家長が着くのだが、友明の親父さんは病気か怪我で御役を務める事が出来ず、息子の友明が代行する事となったそうだ。

しかし正式な家長ではないので介添え人を三名まで付ける事が許されるのだと言う。しかし御役自体、特殊な行為を伴うらしく、

地元では介添え人が見つからず、異例中の異例という事で部外者の協力も可という事になったらしい。

俺は真っ先に思ったことを口にした。

「まさか、今の時代に坊主のミイラ造るの手伝えっての?」

友明は笑いながら、

「まさか・・・死人相手ならまだ楽。相手は魔物だよ。住職の死肉を喰いに来る魔物の封じが御役なんだ。」

と恥ずかしそうに言った。

しばらくの沈黙・・・・

俺 「嘘だろぉ~」 

 

友明 「いや、マジ。お前等は何もしなくていい。多分ただ見ているだけで終わると思う。ただ多少決まり事があるからその話合いを他の三人の御役として、その通りに動けばいい。俺達が魔物に襲われる事は絶対にない。最悪、熱出して2~3日うなされるだけ。」

正直、なんかこうもっとアクションがあると思った。こういう場合決まって御札で守ったり、呪法があったり、結界が・・。

そんなものはこれと言ってないそうだ。ある場所から魔物が出てくるから、それをある方法で封じるだけ。俺達介添え人はその場にいるだけでOK。単なる魔物見物だ。

ただし、見える見えないには個人差があるという。俺は好奇心で行くことを決めた。多少、霊感のある泰俊が考え込んでいたので少し不安になったが結局、泰俊も行く事になった。

介添え人は俺達二名と決まり、友明は先に地元へ帰るという。

後日、地元へ帰る友明を駅まで見送りに行った。

友明は俺達に連絡したら直ぐに来てくれと念を押して電車へと乗り込んだのだ。

俺はとっさに 「あ、相手の名前なんてぇの?」と聞くと、友人は歪んだ笑顔を向けただけだった。

駅からの帰り道。泰俊は終始無口だった。この男の性格は決して暗くない。実家が寺だとは信じられないくらい明るいのだ。

「友明の奴なんで魔物の名前教えなかったんだ?」

空気を読めない俺は、多分、泰俊が無口になった原因の真ん中ストライクをズバリ聞いてみた。

泰俊は俺の顔をマジマジと見つめて、

「お前は馬鹿そうに見えるが、いざという時には頼りになる。今回のアイツの頼み事はお前が要になるかもな。」

「俺ってそんなに馬鹿そう?てか友明は危険はないって言ってたじゃん。」

俺が頼りにしている相手からの思いがけない信頼にちょっとビックリしながら言うと、

「あいつは女には嘘をつくが、俺達には嘘をつかない。でも危険がないならなんで地元の人間が見つからない?俺達の業界でも

忌まわしきモノの名は口に出さない。アイツが名前を教えなかったのは俺達の仲をもってしてもはばかられるモノだからとしか考えられん。

坊主が死んで出てくる奴だ。坊主の端くれの俺には相性が悪すぎる。」

「泰俊。じゃ~なんでお前この話受けたんだよ?お前の話聞いたらマジでヤバそうじゃん。今からでも断るか?」

「お前な・・友明は俺達が行くって事になって初めて帰る決心がついたんだよ。アイツは地元の決まりから逃げられないみたいだからな。お前は知らないが俺は友明を裏切れない。」

「俺だってそうだよ。友明を助けたい。(80%は好奇心)でもお前はヤバいだろ?」

「今この決断で俺は親友を失いたくない。」

「泰俊・・・」

こいつの一言が俺の80%の好奇心をそのままそっくり80%のいや85%の恐怖心へと変化させていった。魔物見物。ちょっとした肝試し程度しか考えていなかった。

無口になる俺。

「お前って単純馬鹿だよな。実際。本当にからかい甲斐があるよ。」

いつもの笑顔で泰俊が言う。

「馬鹿にするな!」 とやり返し膨れてみせる俺。

話題は昼飯と女のことに移ったが俺の中の恐怖は何となく残ったままだった。

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怖い話投稿:ホラーテラー 最後の悪魔さん  

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