野球部の元部員の健太、和樹、直也と元マネージャーの真美は、高校卒業後も頻繁に会って遊んでいた。
別々の大学に通っていたが、冬休み中に、日帰りでスキーに出掛けることになった。レンタカーを借りて交替で運転することにした。
和樹がハンドルを握っていた時のことである。スキー場の近くまで来たところで突如雨が降り出し、次第に雨脚が激しくなった。
「ワイパーが効かないや。前がよく見えない」
「気を付けてくれよ。こんな崖の上から落ちたら、洒落にならないからな」
その時、対向車のライトが目に入った。和樹は必死でハンドルを切った。対向車と接触することはなかったが、勢い余って車は崖から転落した。
「真美! 真美!」
誰かが呼んでいる。海で泳いでいたような気がしたが、夢だったのだ。目を開けると、直也と和樹が心配そうに覗き込んでいた。
「良かった。ずっと眠ったままだったから、心配したよ」
「ありがとう。呼んでる声が聞こえて、目が覚めたの」
そこまで話して、真美は周囲を見渡した。
「ここは病院なの? 健太はどこ?」
「駄目だった。残念だけど」
と、首を横に振りながら和樹が答える。
「そんな…」
ショックで言葉が続かない。和樹と直也にはまだ言っていなかったが、真美は先月から健太と交際していたのだ。これからの人生を健太と一緒に歩みたいと思い始めていた。真美の目から涙が溢れる。
トン、トン。
窓をノックする音が聞こえる。と同時に、健太の声が聞こえてきた。
「真美! 僕だよ。ここを開けて顔を見せてよ」
「健太なの? どうして、ドアじゃなくて窓なの? ここは何階?」
信じられないという面持ちで真美が呟く。
「耳を貸しちゃ駄目だ。健太は、こちらの世界の人間じゃないんだよ」
以前から霊感が強いと自分で言っていた直也が眉をひそめて囁く。
「真美! 真美! ここを開けるんだ!」
健太の声とノックの音が次第に大きくなる。
真美はふらつく足で窓に近寄った。
「窓を開けちゃ駄目だ!」
「あちら側に持って行かれるぞ!」
直也と和樹は必死に止める。
「いいの。私は健太と一緒にいたいの」
真美は窓を開けてしまった。
「良かった。ずっと眠ったままだったから、心配したよ」
「ありがとう。呼んでる声が聞こえて、目が覚めたの」
頭を包帯でぐるぐる巻きにした健太が微笑んでいた。ベッドの上の真美も包帯だらけだ。
「私、死んだの? それとも生きてるの?」
健太と一緒にいられるのなら、どちらでも構わないと思った。
その時だった。
トン、トン。
窓をノックする音が聞こえてきた。
【完】
怖い話投稿:ホラーテラー テッコさん
作者怖話