霊などと言う者は、本当に存在するのだろうか。
死者がそれになるとするなら、1日に膨大な数の霊が誕生することになる。
それに託つけて、ウンチクを垂れる霊能力者という存在。
テレビでよく見掛けるのは、痛風みたいなデブと、妖怪みたいな金髪が、ああでもないこうでもないと話す風景。
それだけで、彼らはどれくらいの金を貰えるのだろうか…
僕が、工場で朝から夜まで働く金の何倍もの報酬を受けとるんだろう。
煩わしいインチキ偽善者が……
これが、昨日までの僕の考え方だった。
同じだと言う人もいるのではないだろうか。
だが、昨日僕が見た事を、霊的な事以外で説明してくれと言われても、僕は出来ないだろう…
昨日は、夜勤だった。僕はいつもと同じ時間、23時に家を出た。小雨が降っていたが、傘はいらないくらいだった。
いつもより肌寒い夜…大あくびをしながら、自転車を走らせていた。
何も変わらない出勤の様子。
異変が起きたのは、最初の交差点を過ぎたあたりからだ。
自転車のペダルがやけに重く感じられるようになった。
(パンクでもしたかな?)
自転車を降りて確認するも、異常は見当たらなかった。
だが、依然として自転車のペダルは重いままだ。
僕は自転車を走らせながら、後ろを振り返った。
そして自分の考えを打ち消してしまう存在を目にした…
自転車の後部を、黒い手がシッカリと掴んでいたのである…
長い、長い手だ…手の後ろの方は闇に隠れて見えない。
恐怖と驚きで、僕は大きな声を出した…
そして冷静に、その長く黒い手を見た。
何故暗闇でも見えるのだろう?
黒い手が、闇よりも黒いからなのか…
ハッキリとはしていない。モヤがかかったように揺れているみたいだ…
僕は、払いのけるように、黒い手に触れた。いや触れられなかった…
黒い手がある部分は、冷気のように冷たい感触以外何もなかった…
そして黒い手は、少しずつ少しずつ薄くなって消えた…
今日、僕は会社を休んだ。考える時間がほしかった。
怖いとかではなく、なんて言うか、人生観が変わった。
人間死んでからも、その先があるのかも…
そんな考えが頭に浮かんだ。
世の中には、まだまだ分からない事がたくさんあるのだと、身を持って実感した。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話