今年の夏休み中あたりにあったことなんだが、いくら幽霊とか感じ慣れたとはいえ、特別な時もある。
なので、少々心の整理に時間がかかったりするものなんだと改めて思った。
とりあえず、話を戻すと、その日は雨が降っていた。
その日はレポート提出の期限が迫っていて大忙しでレポートを仕上げていた。
朝の三時からまとめ始めて、昼は友達と遊びに出かけ帰ってきてからもすぐにレポートをするという予定を立てていた。
そういうシケジュールという奴は大抵は守られないわけなんだが、案の定、目覚まし時計を蹴っ飛ばしたおかげで朝の四時に起きて、ズルズルとスケジュールは引き伸ばしにされていた。
予定通り昼になって友達と遊びに行くことになったのだが、どうにも嫌な予感がした。
俺は霊感とかそういう部類のなにかが自分にあって、それが当たれば当たるほど恐ろしいと地味に感じるわけだが、案の定それが当たることになる。
昼に友達の家に集まって何をするかと思えば、ホラービデオ+DVDの鑑賞会だった。
内心「うわー」とか思ったが、もう断るわけにも行かず、回りは俺がそういう部類に詳しそうだからと呼んだのだろうが、俺からしてみれば迷惑だ。
しかも、俺が嫌な顔をすると友達たちは反対に面白そうな顔をする。
ここで帰ればよかったと後々後悔するとは、実際、ここの時点では思っても見なかった。
ホラー物のDVDを二つほど見てから友達は今回の体験の要因になるビデオテープを取り出した。
俺はそのビデオテープを見た瞬間になにか冷たい予感に苛まれた。
悪寒。いつも幽霊だのと遭遇する時に感じるあの嫌な感触。
恐怖とか怯えとかそういう部類でいう寒気という奴なのだろうか。
しかし、それには危険すぎる好奇心が付きまとう。
結局、何か言おうとした口は何も言わないままそのビデオテープを見るということに専念してしまう。
古いビデオ屋からの掘り出しホラーだとか抜かしやがったその友達はビデオテープをセットしてじっと画面を見た。
やはり映像が古いのか、ところどころぼやけて見えたりしているがそれがまた怖い。
何か現実的な恐怖を与えられた。
内容などは一切不明なそのテープが移すのは現実的な幽霊という映像ではなく、雨。
霧のように細かい雨が降り注ぐ中でゆっくりと展開するドラマ。
厳密にいえば、そのテープの内容はホラーではないのだ。
「つまんねーの」
そういってビデオを半分も見ないうちに友達はテープを出した。
俺だけはそのビデオテープが現実的ホラーテープであると確信していた。
帰り道はあのドラマの話で持ちきりで「昼ドラみてぇな感じだったよな」とか「雨かぁ、」といったように誰一人感づいている人は居なかった。
そのまま、家に帰って嫌な予感を引きずったままレポートの内容を書いていた俺の身にもなって欲しい。
パソコンでカチカチと文字を打ちながら頭はビデオテープでいっぱいだったのだが。
それから数時間後、俺はどうやら寝てしまったらしい。
要するに、ふと記憶がなくて、顔を上げるとパソコンが覚えているところの画面で止まったままだったというわけなんだが。
パソコンで時間を確認しようと想い、時計が表示されている場所に顔を向けると、ピタッと部屋の空気と俺の体が固まった。
金縛りとかそういう感じの動けないような状況。
俺は時間を確認した。
深夜一時。
しくじった。
正直にそう思った。
せめて何か用意しておくべきだった。
その金縛りは明らかに体の疲れで動かないとかいう部類ではなかった。
ブチン。
行き成りパソコンの画面が真っ黒になる。
電源が落ちたらしい。
でも、指一本さえ動かせない。
動け、動けと頭で念じているとふとポタポタと雨水の滴るような音が聞こえた。
「え?」と俺は思ったがすでに頭ではわかっていた。
俺の後ろに誰かではなく何かが居ると言う現実に。
これが夢だったらな~とか思ったのは言うまでもない。
黒いパソコンの画面に女の姿が映る。
ところどころ黒々しい汚れた服をきたたぶん黒い髪の女。
ポタポタと異常なまでに音が部屋に響く。
外は雨だった。
外の雨の音から隔離された部屋の雨音はゆっくりと俺の心臓の音と重なる。
後ろを振り向くことは出来ない。何せ、動くこともままならないのだから。
なら、この状況をどうしたらいいのか?
俺の全身が正直にヤバイと危険信号を告げてくる。
それによって俺の精神は焦りを感じる。
早くどうにかしなければ、こっちが持たない。
そう思った瞬間、体が少しだけ動く気がした。
その気にまかせて、想いっきり体をひねって後ろを見た。
そこには確かに薄汚れた髪の黒い女が静かにたたずんでいた。
濡れて髪がテラテラと嫌な光りを放つ。
一気に顔が青ざめた気分だった。
ダメだ。
怖い。
正直に自分の生命の危機を感じた。
瞬間的に体温が冷める数秒間。
そして、また意識が途切れた。
また俺はパソコンの前で寝ていたらしい。
夢だと想いたかった。
だから、自分の椅子の後ろに出来ている水溜りは水漏れだと自分の中でごまかした。
たとえ、天井に雨のシミなんてものはどこにもなかったとしても。
結局、レポートを次の日、大忙しで仕上げることになった。
一様、間に合ったが。
ちなみにあのビデオテープは友達がビデオ屋に返したらしい。
苦笑いの中にどこか青ざめた顔が混じった表情の友達に「そうか」と俺は納得した。
だから、何があったかは詳しく聞くのはやめた。
しかし、あのビデオテープがなんだったのか。
俺は未だにその真実を知らない。
怖い話投稿:ホラーテラー 零番さん
作者怖話