あるカップルが夜中に川辺を歩いていた。
夜風は少し寒いくらいだが、手から伝わる温もりがそれを和らげる。
二人の間に言葉はない。
ただ、隣に居てくれるのが嬉しいから。
遠くから聞こえる貨物列車の音がやけに大きく聞こえる。
がたんごとんとリズム良く貨物列車が奏でる音に、何かが割り込んできた。
その音は次第に大きくはっきりと聞こえてくる。
ばしゃばしゃと水を弾く音。
こんな時間に誰が……?
男性は歩みを止めて闇に沈む川を見た。
その闇を切り裂いて出てきたのは、川上から流れてくる女の子だ。
男性は咄嗟に女の子を助けに行こうとする。
それを食い止めたのは繋いだ女性の手。
「なんで止めるっ。女の子が流されてっ……」
男性は言葉を途中で切った。
女性の顔から血の気が引いて、蒼白になっていたからだ。
女性の手からは、さっきまでの温もりが消え失せて、小刻みに震えている。
「どう、した……?」
男性の質問に女性は川から……女の子から目を反らさずに『よく、見て』とだけ告げた。
男性は言われた通りに川に視線を戻す。
その男性の目に映ったもの、それは……。
ばしゃばしゃと水を弾き、げらげら笑いながらこちらを睨む女の子の姿だった。
怖い話投稿:ホラーテラー ピカチュウ仮面さん
作者怖話