今から20年以上も前。
部活の合宿で一週間家を空けていた高校生の私が帰宅すると、母が言いました。
「あなたのいない間、この辺りは大騒ぎになった。
非常線が張られ、パトカーが何台も来て、警官が道路にシートを敷いて…
お隣のボクが110番に電話したの。
『前の家のおじさんが妹を殺して、押し入れに死体を押し込んで逃げた』って。
もちろん、嘘だよ。
お隣の奥さん、かなり警察に叱られたみたい。
気の毒だったよ…」
「お隣のボク」は、三人兄弟の長男で、当時小学校の四年生くらいだったと思います。
数年前に越してきた上、私とは年が離れているので接点は殆どありませんでした。
でも、時々見かけるその子が普通の子供ではなかったのは、なんとなく感じていました。
言動が妙に大人びていて。可愛い顔と、茶色のツヤツヤした坊っちゃん刈りには似つかわしくない雰囲気。
お隣のおばさんが可哀想と思うと同時に
(あの子ならやりかねないかも…
そんな面白いことがあったなんて、私が家にいる時ならよかったのに!)
不謹慎にも、そう思いました。
翌年、父の仕事の都合で我が家は隣県に引っ越しました。
出発の当日、おばさんと兄弟の末っ子の女の子が見送りをしてくれましたが。
それっきり交流はなくなりその家族の事は忘れていました。
しかし、それから5、6年が経って。
衝撃的な話を父から聞きました。
以前住んでいた町で仲良くしていた知人に、父が電話で聞いたのですが。
「お宅の隣に住んでいた○○さん。
あの家の息子が灯油をかぶって火を付け、二軒裏の△△さんの家に火だるまになって飛び込んだんだよ。
△△さんの奥さんに抱きついて奥さんは火傷を負い、家の天井には火柱で穴が空いてしまった。
息子はそのまま、亡くなったよ。」
△△さんの奥さんが言うには
「火をつけて自殺を図ったものの、苦しくて、私に助けを求めてきたのよ」と。
でも、周りの人達は気付いていたようです。
○○さん(私のかつての隣人)のおばさんが、△△さんちの奥さんに、ひどくいじめられていたことを。
それに憤りを感じた息子が△△さんを道連れに、死のうとしたことを。
(あぁ、子供の頃あんなことをしでかしたあの男の子は、そんな最期を遂げたのか…)
まだ高校生の男の子が、自分の死を以て抗議する。
やりきれない思いでした。
おとなしそうだったお隣のおばさん。
気性の激しかった△△さんの奥さん。
二人は同じ宗教団体に属していて、それがきっかけで付き合うようになったそうです。
その宗教団体から、事件に関して箝口令が出ていたらしく、知人もそれ以上の詳しい事は父に話してくれませんでした。
事件から10年以上が経ちます。
何故か、この事がすごく気になって、ネットで検索してみました。
古い話だし、自殺が珍しくなくなってしまった現代。ヒットする事はありません。
先日、両親と食事をした際に事件について改めて聞いてみました。
母「あぁ、そんな事があったね…」
父「よく憶えてたな。なんて人だったかな」
私「あの家の長男だよね。ちょっと変わった子だったもんね…」
母「え?違うよ。
自殺したのは、お兄ちゃんの方でなくて、次男だよ。」
私「えぇーーー!?
私、警察を呼んじゃった子の方だと思ってた!」
母「違うよ…長男は少し知能に問題があったみたいでお母さんが苦労してたけど…
自殺したのは次男の子。
あの子は、すごくいい子だったのにね。小さいけどしっかりしててお母さんを助けてた。
可哀想だよね…」
ビックリしました。
長男が少し変わっていたのは、そういう理由があったこと。
何より、お母さんを庇って自殺したのが、次男だったことに。
頼りにしていた次男を無くし、問題のある長男を抱えたおばさんは、どんなに辛かったろう。
今は、どうしているのかな。
引越したあと、懐かしさもあって昔の家を見に行った事があります。
古かった家並みは全てなくなり、新しいアパートが建っていました。
男の子の自殺した原因ははっきりせず、真実は明かされないまま。
幽霊は恐いけど、もっと怖いのは、生きてる人間の悪意じゃないかと思う出来事です。
怖い話投稿:ホラーテラー ROSYさん
作者怖話