■シリーズ1 2
私は子供の頃、山深い小さな集落に住んでいました。
小学生になったばかりの頃の話です。
私の家は学校から一番遠くにあり今まで友達と遊んだ事がなかった私にも友達が出来き、毎日友達と遊びながら帰っていました。
隣町の学校までの道のりは遠く、子供の足ではかなりの時間がかかりましたが、遊んでいるうちに、この森を抜けると早いとか川を渡ると早いとか近道を見つけては探検気分で帰っていました。
もう秋も近い頃だったでしょうか…。
台風が接近していた為、学校が休校になりますという連絡網が回ってきました。
私は学校を楽しみにしていたのでガッカリしましたが明日の天気次第で休校しなくなる場合もあると言われたのでその日はてるてる坊主を沢山作って寝ました。
翌朝、台風など全く来ていない様子だったので私は学校に向かいました。
学校に到着すると校門が閉まっていました。
生徒も誰もいません。校庭を見ると用務員のおじさんが掃除をしていました。
学校の金網を乗り越えおじさんの所へ行くと
『今日は学校お休みだよ。昨日の強風で何箇所か硝子も割れてしまっているし。昨日連絡網回ったでしょ?今朝も休みですって連絡網回ってるはずだよ。』
と言われてしまいました。
私の家は学校から離れている為、出発もかなり早かったので連絡網が来る前に家を出てしまったようでした。
こんなに天気が良いのに…長い距離を一生懸命歩いて来たのに。と損した気分でしたが仕方なく家に帰る事にしました。
いつも友達と遊びながら帰る道も一人だとなんだか寂しく感じました。
川を渡り、森を抜けてといつものよう様に近道をしていた時です。
森の奥に建物が見えました。いつも通っていたけれど気がつかなかったなぁと思い近づいてみると、そこは高台になっていて、眼下には小さな集落が見えました。
人の姿もあり民家や馬小屋やお店も何件かあったので坂を下り村を散策してみる事にしました。
年寄りが多くみんな私を見てはニコニコしながら
『こんにちは。何処から来たんだい?』
と聞いてきました。
『○○です。』
と村の名前を言うとみんな知らないようでした。
割と私の家から近い場所でしたので知らない事が不思議でした。
ボロボロの長屋があり近づいてみると私と同じ年齢位の子供が沢山いました。
『一緒に遊ぶ?』
と声をかけられて、私は嬉しくてみんなと一緒に遊びました。
あやとり、縄跳び、かくれんぼと普段やっている遊びでしたが、新しい友達が出来たと思いとても楽しんでいました。
かくれんぼの時に一緒に隠れていた女の子に
私『どこのクラス?』
と聞くと
『クラス?って何?』
私『えっ?何組なの?何年生?』
すると女の子は
『わからない。そうゆうのないから。』
と不思議そうに言われました。
私『私は○○小学校だけどそこじゃないの?』
女の子はボロボロの長屋を指さして
『ここが学校。◎◎学校。』
と言われて驚きました。
私の通う隣町の小学校とは随分と見た目が違いますし、何よりもこんな近くに学校があった事に驚きました。
私『昨日の台風で私の通ってる学校が休みになってたんだけど、やっぱりここの学校も休みなんだね。』
女の子は私の言っている意味が解らないのか苦笑いしながら曖昧に『うーん』と返事をしました。
かくれんぼが終わり次は達磨さんが転んだをやりました。
私が最初に鬼になりました。
『だーるーまーさーんーがー転んだっ』
勢い良く振り向くもそこには誰もいませんでした。
もしかして、ルールが違うのかな?と思いもう一度、『だるまさんが転んだ』
と言ってみましたがやはり誰もいませんでした。
私は『おーい皆何処にいるの?』
と辺りを探しましたが誰もいません。
先程、年寄りがいた場所にも誰もいません。お店も何件かまわりましたがそこにも誰もいません。
しばらく探しましたが誰にも会う事はありませんでした。
もっと遊びたい気持ちもありましたがまた明日立ち寄れば良いと思い、その日は家に帰りました。
帰ると母親がビックリした顔をして
『どーしたの?なんでそんなに泥んこになってるの?何処で遊んで来たの?今日やっぱり学校休みって連絡来たからすぐ車で迎えに行ったのに何処にもいないから心配したんだからね。』
私の服は湿っぽい泥がたくさん付いて汚れていました。母親は
『あんた何処通って来た?』と怪訝な顔をしました。
近道の事は親に秘密にしていたのですが(森はよその家の人の土地だから入ってはいけないと言われていましたので。)私は山の奥の村で子供達と遊んで来た事を話しました。
あんなに近くに学校があるのにどうして隣町の学校まで通わなきゃいけないのかを教えて欲しかったからです。母はそんな場所は知らない…とにかくお風呂に入って来なさい。と言って外へ出て行きました。しばらくすると、父と母が一緒に帰ってきました。夕食を済ませると、私は寝巻きのまま車に乗せられ村の神社に連れていかれました。
今までこんな突然、神社に連れていかれた事はなかったので何があったのか聞きましたが父も母も何も答えてくれませんでした。
ただ必死に拝んでいたのを覚えています。
そして次の日から母が学校へ迎えに来るようになりました。
理由を聞いても『近くまで来たから』などと言ってはぐらかされてしまいます。森の奥の村の話しをしましたがそんな場所はないし、もう森へは入らないでと、とても嫌そうに言われました。
それから毎日母が迎えに来るので、私は友達と帰宅出来ない事はもちろんあの村へ寄り道する事が出来なくなりました。
学校の友達に森の奥の村の話をしましたが知っている人は誰もいませんでした。今度一緒に行こうと誘ってみても遠い事もあり断られてしまいました。
私は、あの村へ行きたいという気持ちが日増しに大きくなっていました。
ある日、母が迎えに来ない日がありました。
母が体調を崩して寝込んでいたのです。
私はあの村にあったお店で団子を買って母にあげようと思い久しぶりに森に入りました。
正直、団子を買う事よりも村の友達に会いたいという気持ちの方が大きかったです。
村の近くに行くと以前見えた建物はなく代わりに、工事現場作業員のような大人数人と神主さんのような人がいてなにやら儀式のような事をしていました。
村に行きたいのでその人達を無視して先へ進むと、そこには崖があるだけで何もありませんでした。
私は目を疑いました。
数日前に遊んだはずの村が跡形もなく消えていました。
正に狐につままれた気分でした。
工事現場の作業員風の人に『危ないから入ってきちゃだめだよ』
と追い返されてしまいました。
村の事を聞きたかったのですが聞き慣れない気持ちの悪い呪文のような歌を歌う神主を見て、何も聞かず家に帰りました。
皆と遊んだのは夢じゃない。私は確信していました。泥んこになって帰った時の事を思い出しながら森を出て行きました。
私は帰ってから寝込んでいる母に正直に話をする事にしました。
『ごめんね。行ってはいけないと思ったんだけど…お母さんに早く元気になってもらいたくて…帰り道に森の中にある村のお店でお土産に団子を買おうとしたんだけど…村が無くなってたの。いつ無くなったの?皆何処に引越したの?』
すると母は優しく
『分からない。そんな場所は最初からないはずよ。それは夢でも見たのよ。それか、幻でも見たんじゃないの?…もう危ないから森へ行ってはいけません。お願いだから絶対に森へはいらないでね。元気になったらまた帰り迎えに行くから。』
と言いました。
私は母にあの日の夜、何故突然神社へお参りに行ったのか、あの村の事と何か関係があるのか、聞きたかったのですが具合も悪そうだったので元気になってから改めて聞こうと思っていました。
しかし、それを聞く事は出来ませんでした。
母の容態は悪化して、そのまま亡くなりました。
母が亡くなったショックで私は村の事など考える余裕はありませんでした。
母のいない生活はまだ幼い私には大変なものでした。父も仕事の為、家を空けているので私は隣町にある親戚の家に高校卒業まで預けられていました。
その後、私は村を出て地方都市に就職をして寮生活を送っていました。
田舎育ちの私には何もかもが新鮮で刺激的であの村の事は完全に記憶から消えかかっていました。
しかし、あの村の真実を知る時はふいに訪れたのでした。
■シリーズ1 2
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話