【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編5
  • 表示切替
  • 使い方

「見える」Mちゃん

小学生の頃に転入してきた友達、Mちゃんには霊が見えます。

皆はそんなMちゃんを不気味に思って遠ざけていましたが、オカルトとか心霊系の話が割りと好きだった私は、その逆でした。

これは転入してきたMちゃんと、いくらか仲良くなった時に聞いた話です。

夏休みにMちゃんが叔母さんの家へ遊びに行った時の話でした。

「みんなで焼肉を食べに行ってたんだけど、机の上を知らないおじちゃんとか、知らない男の子が通りすぎていくの。でもみんな気づかないの。

私、お肉を踏まれるのが嫌だったから、お願いしたの。『やめて』って。そしたら、知らないおばあちゃんが私をにらんでくるの。

すごく怖くて私が泣きそうになってたら、叔母ちゃんが『ここは通行止めだよ、あっちを通りなさい』って怒ったの。

そしたらみんなどっかに行っちゃった。

でも変だよね、道なんてないのにね。おかしいよね。」

その話を聞いて私は言いました。

「Mちゃん……それ、霊道だよ!」

しかしそれがMちゃんに分かるはずもなく、すぐに別の話になりました。

そのMちゃんの叔母さんとは話を聞いてから一週間後くらいに会う機会があったのですが、どうやらMちゃんと同じく見える体質らしいです。

Mちゃんにまつわる話は他にもあります。

これは中学一年生の頃、Mちゃんと私、それにOさんとKの4人で学校の七不思議を調べていた時の話です。

中学生にもなるとMちゃんは分別が出来ていて、見える霊との接し方も心得ていました。

叔母さんから色々習っている、と言っていました。

中学生になって生徒会に入った私とMちゃんは、同じく生徒会のKと、一つ先輩のOさんと一緒に、生徒会新聞を作ることになっていました。

生徒会新聞はちゃんとプリントアウトされて全校生徒に配られるもので、連絡事項以外の空きスペースに、担当の生徒会役員が何か記事を書かなければなりませんでした。

その記事の内容は何でも良かったので、私以上のオカルト好きであるOさんの提案で、ちょうどその頃流行っていた、学校の七不思議について書くことになりました。

七不思議といっても実際には10も20も噂があって、私たちはその中から信憑性が高そうなものを7つ選んで順に検証していくことにしました。

そして順番に七不思議を検証していったのですが、その中の一つだけ……「第二音楽室の悪魔」という七不思議の検証だけは、Mちゃんが絶対に行かないと言い張りました。

第二音楽室というのは、音楽室とは名ばかりで、実質物置にされている教室です。

七不思議の「第二音楽室の悪魔」というのは、放課後、第二音楽室に置いてある2つの姿見を合わせ鏡にして、その間に立ってリコーダーで「シ」の音を吹き続けると、悪魔が現れるというものでした。

それまで検証した七不思議はどれもガセネタでした。

そのため、普段から薄暗く気味の悪い第二音楽室だけに、この七不思議こそ、ひょっとすれば本当の話かもしれないと、Oさんは大張り切りでした。

しかし私はMちゃんをよく知っています。何度か好奇心から怖い目にも遭いました。

Mちゃんが絶対に行かないと嫌がるくらいなのだから、これは相当危ないのです。

私はOさんを、謎は残しておいたほうが記事として面白い、と説得しようとしました。

しかしこれを邪魔したのがお調子者のKです。

本当は怖いだけだろ、と言って、元々が乗り気だったOさんと二人で検証に行ってしまったのです。

私はすぐにMちゃんに相談しました。Mちゃんは私に説明してくれました。

「あそこには元々霊道が通ってて、しかも貯水タンクの近くで水気がある上、閉め切った密室で、霊が集まるにはうってつけなの。そんな所に合わせ鏡なんて目に見えた場を作っちゃうと、本当に危ないの」

説明を終えるとMちゃんは、叔母さんから貰ったというお札と、家庭科室から持ってきた塩を用意すると、第二音楽室に向かいました。

第二音楽室の中は、まさに異界でした。

Mちゃんと何度か体験した感覚でした。

なんというか、空気が本当に重たいんです。

ドロドロした液体の中にいるような感じで、ふとすると足を絡ませて転んでしまいそうになります。

入ってすぐのところに、腰を抜かしてガタガタ震えるKがいました。

その視線の先には、合わせ鏡に挟まれたOさんがいます。リコーダーが床に転がっていました。

Oさんはだらりと脱力した感じに立っていて、白目をむいて口から泡を吹いていました。

それを見て私は完全にすくんでしまいましたが、Mちゃんは違いました。

なにかの呪文みたいなものをブツブツ唱えながら、まず私とKのおでこにお札を貼り、塩を撒きながらOさんに近づいて行きます。

その時、Oさんが口をパクパクさせました。

同時に思念のようなものが直接頭の中に響いてきます。

「近づくな、殺してやるぞ」

それは何十人もの人間が一度に言ったような、力の込められた呪い言でした。

しかしMちゃんは怯みません。

そのまま塩をOさんに撒き、おでこにお札を貼り付けました。Oさんの体が激しく痙攣しました。

そしてMちゃんは先ほどとは違う呪文を唱えながら、両手で印のようなものを組んでいました。

それから何分経ったか、その間断末魔のような叫び声がずっと私の頭に響いていましたが、突然Mちゃんの声が聞こえてきました。

「合わせ鏡を外して欲しいの」

Mちゃんの声を聞いた途端、私は栄養を得たようにお腹の底から力が湧いてきました。

私は立ち上がると、姿見の一つを裏返して合わせ鏡を外しました。

その瞬間に、先ほどまでの重たい空気はふっと軽くなりました。

「長居は危ないから、早く出よう」

MちゃんはOさんを担ぐと、私にそう言いました。

恐怖のあまり失禁していたKも、それに続きました。

後から聞きましたが、Oさんはあの時、何十もの霊に憑依されそうになっていたそうです。

Mちゃんはあくまで一時凌ぎの処置をしたに過ぎず、Oさんは後日改めてお祓いをしたらしいです。

結局、生徒会新聞には6つの七不思議についてのことを書き、最後の一つは謎ということにしておきました。

ただおかしなことに、あれだけの事が起きながら、不思議と後に残ったのは「学校でお漏らししたK」という噂だけでした。

それ以来、私は第二音楽室には近付かないようにして中学校を卒業しました。

怖い話投稿:ホラーテラー かるねさん  

Concrete
コメント怖い
0
3
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ