昨年の夏の出来事でした。
振り返ればぞっとする感覚が今でも蘇ってきます。
去年の夏休みは何処に出掛ける予定もなかったので、一人で山梨の温泉旅館に行くことにした。
夜、さすがに温泉に浸かってこのまま帰るには何か面白くないと感じた僕は、女気を探して歓楽街へと向かうことにした。
近くで酒でもひっかけて行くか。
こじんまりとした居酒屋に入り、一杯、二杯と酒を飲む。温泉に入った後で夜風で寒くなった体には酒がたまらない。
良い感じに酔っぱらって店を出た。
「お安くしておきますよ」
「うちにはいい娘いるよ」
歓楽街ともなるとあちこちから呼び込みの声がかかってくる。僕はいい気持ちになって歩いていた。
「ねぇ、何処かで飲まない?」
突然、隣から女の声が聞こえる。見ると20代後半で顔立ちも良く好みの女性にぴったりだった。
最初は呼び込みの人か店の人かと思ったが目的は「それ」だったので、2つ返事でOKした。
一軒、また一軒とその女性と楽しく話しながら酒を飲んだ。
店を出ると時間は24時を大分回っており、宿泊している温泉宿に帰るのも面倒くさくなったので、女性と近くで泊まれるところを探す事にした。
30分位だったか、宿を探して歩いていると、
「泊まるところを探しているんですか?うちでしたら1部屋開いていますよ」
と宿の主人らしき人が話しかけてきた。
建物は見た感じ、古臭かったがこれからまた泊まる処を探すのも大変だし、何より隣にいる女性と早く事に至りたかったので了承した。
部屋は2階にあり、ドアに鍵なんてなく襖で仕切られていた。
「さぁ、おっぱじめるか!」
いい気分で酔っぱらっていたし、目の前には好みの女性がはやくと急かしている。
女性を抱き、キスしようとした瞬間、何やら襖から視線を感じた。
「誰だ?」
襖を勢い良くあけると、そこにはさっきの宿の主人がいた。
「すみません。夜なので何の用意も出来ませんがお茶を持って参りました」
いい感じだったのに宿の主人に水をさされてしまった。
「お茶、いいですから僕たちに構わないでください」
「そうですか?」
女性もちょっと冷めた感じになっていたので、布団で2人寝る事にした。
10分、20分、、いい女が隣で寝ているのに興奮したまま寝れる訳がない。
僕の手が、女性の体を求めて触り始める。
女性もそれに応えて布団の中で服を脱ぎ始めた。
「今度こそ!」
女性の体の上にポジションを変えた瞬間、またもや襖から視線を感じた。
僕は襖の方に視線をやると、そこにはさっきの主人ではなく、老婆がたっていた。
「わぁー!」
襖からこっちを見ている老婆のシチュエーションに思わず声を出してしまった。
おそるおそる襖を開けたら、老婆が僕の方をじっと見ていた。
「いったい何なんですか!!」
「悪いことは言わないから早くここを出なさい」
「はぁ?」
訳が分からなくなって後ろを振り返るともう朝だった。
さっきまで一緒に寝ていた女性がいない。
おかしいな?と思った瞬間、老婆が発した声に恐怖を感じた。
「あなたと一緒に来た女の人、この世の人じゃないですよ」
その後、宿の主人もやってきて
「いつだったか、もう何十年も前にあの女性と一緒に泊まりに来た男性がいましてね。朝になってみたら男性の方は亡くなっていてあの女性の方だけいなくなっていたんですよ。あなたにも、もしもの事があってはいけないと思い、主人と私が代わる代わる襖から覗いて邪魔をしていたんですよ」
怖い話投稿:ホラーテラー 呪人さん
作者怖話