僕は部屋に入った後もなんとなく落ち着かなかった
それはそうだ
だぶん右隣の前のドアの前にはまだあの作業員がかたまっている
僕はさっきから入り口のドアのくもりガラスを見ているのだ
もし作業員があのドアを離れ帰宅するならば、そのくもりガラスに影が映り、足音がするはず
でもそのどちらも無かった
そのかわり、右隣の部屋の中からまたあの音が聞こえている
それはトトトト……という子供が走りまわるような音に思える
あの作業員……?それとも誰かの子供……?
僕はちょっと訳の分からない状況に混乱していた
だがしばらくしたら右隣の部屋の音も消えたので
僕は何も考えずに寝ることにした
次の日、僕が学校に行こうとドアを開けた時だった
「……ひっ……」
僕は思わず小さく悲鳴をあげた
無理も無い。なにせ昨日の作業員があのままの体勢で右隣の部屋のドアの前にいたのだから
は?なにこれ?どゆこと?
僕はパニックになりながらも、急いで階段を下りた
正直、怖かった
そして僕が授業を受ける
授業中も休み時間も僕はあの作業員のことで頭がいっぱいだった
学校が終わり帰宅
正直、ドキドキしている。あの作業員がまだあのままの体勢でいる気がしたからだ
飲まず食わずでまる1日あの場所にいるとか……ありえない
僕がそんなことを考えながら自分のアパートにつく、そこには何故かパトカーが止まっていた
「どうかしたんですか?!」
僕は急いでそのパトカーの近くに立っていた警官に声をかける
「ああ、このアパートの人?実は……」
その警官の話は恐るべき内容だった
なんとあの作業員は既に死んでいたのだという
しかも死因が異常。体を「内側から」くりぬかれるようにして死んでいたのだと言う
僕は言葉を失った
警官が僕に「何か知らないか?」というので僕は昨日の隣の部屋の足音について話した
警官も僕を疑うとかそういう様子は無かった
その死に方があまりに異様だったからだろう。普通の人間がナイフで殺すとかならまだしも、体を内側からくりぬかれるなんて死に方……
警官もどうやら変質者の犯行という「あたり」をつけているようだった
僕の話した足音の話も警察にとって重要な証言となったようで、今度、またその音が聞こえたら言うように、と僕に言った
そして僕は自分の部屋までの階段を上りながら考えていた
変質者が体をくりぬいただって…?いつ…?だって僕が声をかけたあの時、あの作業員は体をゆすって応えたんじゃ……
僕はその日から眠れぬ夜を過ごしていた
あの時のゆさゆさという作業員の体の揺れが脳裏から離れない
僕は次に右隣の部屋から足音が聞こえたら警察を呼ぼうと決意していた
だが僕のその決意を読み取ったかのように右隣の音はピタリと止んでしまった
僕はなんとなく不完全燃焼な気分だったが、音が無いにこしたことは無いのでそのまま暮らした
一週間、二週間と時が過ぎる
その間も警察がなんどか訪ねてきたが、何も無かった
だが三週間後、それは起こった
僕は深夜に目を覚ました
あのトトトトという足音が聞こえたのだ
だが右隣からでは無い
それは僕の部屋のベランダから……
僕の額に汗がつたう
その足音はベランダをトトト…トトト…と往復しているようだった
僕はその足音の主が人間ではないことを瞬時に察した
なぜなら僕のアパートのベランダは人が立てるようにつくられてはいないのだ
僕は恐る恐るベランダの方に視線を向けた
そしてそこにあったのは……
口が血まみれの小さな裸の人間だった
それが男なのか女なのかはわからない
髪も性器も乳房も無いのだ
その小さな人間の顔はまんまるいむき出しの眼球、鼻は穴が2つ、口は全ての歯が牙のようで歯茎がむき出しだった
だがそれでいて笑うでも怒るでも無く無表情
その小さな人間は僕の部屋に入ろうと、努力しているように見える。たまにガラスをペタペタと触るのである
僕はこの怪物があの作業員の体を内側から食い破った犯人だと悟った
そして全速力でアパートから飛び出すと、友達の家に駆け込んだ
僕はあれからすぐに引っ越しをした
もう二度とあそこにはいきたくない
心からそう思う
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話