私が中学生の頃の出来事なので今から10年くらい前の話です。
私の家ではその頃ゴミ捨て場などから使える家具などを拾ってきては、修理してリサイクルするのがブームでした。
別に家が貧しいとかではありませんが、趣味というかよくそんな突拍子もないことを始めてはすぐに飽きるという両親なのでこれもそんな感じで一時のマイブームのような行為でした。
拾って来る家具は棚や台などが主で、両親も本格的に壊れたものは修理出来ないので、もともとが綺麗で色を塗り替えたり、綺麗に磨いたりするだけでまだまだ使えるようなものがほとんどでした。
そんなことを始めて1ヶ月くらい経った頃です。
私が学校から帰ってくると居間の食卓テーブルに見慣れない椅子が増えていました。
その椅子はモダン風で背もたれと腕をかけるところが曲線的になっている一言で言うならば洋風な椅子でした。
母に「これどうしたん?」と聞くと母は「これ拾ってきたのよ。壊れているところもないし、高そうな椅子でしょ。」とうれしそうに言う。
確かに特に目立った傷もなく、普通の食卓テーブルには似合わない高級感の漂った椅子でした。
私は特にその椅子に興味はなかったので「ふーん、よかったねー。」くらいの反応でしたが。
その後、その椅子は父が食事時に座る椅子になり特に何ごともなく日々を迎えていました。
そんなある日の話
父がいつものように仕事から帰ってきましたが、いつもとあきらかに様子が違いました。
誰かと話をしている父が玄関から入ってきたのです。
しかしその誰かは私や母には見えません。
しかし父はまるであたかもそこに人がいるかの様に熱心に話をしているのです。
その様子がまた奇妙で、その見えない誰かに対して父は腰を低くして、あたかも社長クラスの人をもてなす感じで丁寧に話をしています。
それを見た私や母はどうせお酒でも飲んで酔っぱらっているのだろうと思いました。
なので母は「また飲んできたの?」と少し不機嫌な言い回しで、コップに入った水を父に渡そうとしました。
するといきなり父は豹変し、大声で「お前達ここにいる伯爵様に無礼だぞ」と言い放ち母の持っていた
コップを手で払い落としたのです。
正直意味がわかりませんでした。
私も母もぽかんとしてしまい、その場で立ちつくすだけです。
その間父はひたすら見えない伯爵様に対して「申し訳有りません」と腰を低くして謝りつづけていました。
母は父がたぶん泥酔しているだろうと私に言い部屋に戻るよう言いました。
しぶしぶ部屋に戻った私ですが、当然父の様子が気になり、部屋の障子を少し開けてベッドの上から様子をうかがいました。
居間と私の部屋は障子で区切られているだけなのでそこからでも父の様子は見れました。
覗き見ると父は食卓テーブルの普通の椅子に座り、あの洋風な椅子にあたかも伯爵様が座っているかの用に話し込んでいました。
傍目には誰も座っていない椅子に対して父が熱心に一人芝居をしているようにしか見えないと思います。
母は呆れて父を居間に残し部屋に戻って寝てしまいました。
その後も父は何かを椅子に話しかけ続けていましたが私は飽きてしまい寝てしまいました。
翌日、私と母は父に昨夜のことを尋ねましたが父は覚えてないと言い、お酒も飲んでいないと言います。
母は「なんだかあの椅子気持ち悪いから捨てよう」と言い、私も同感だったのでその椅子は次のゴミ回収の日に捨てられました。
今にして思えば、伯爵に日本語は通じるのか?捨てられていたのに綺麗なままなのはそういうことなのか?やっぱり酔っぱらっていただけなんじゃないか?などいろいろ考えますが、とにかく怪しいものは拾ってこないことですね。
私の家もそれ以来リサイクルブームは去りました。
余談ですが何故かこの話を人にすると笑われます。
自分の中では怖い話ジャンルなんですがネタに聴こえるようです。
怖い話投稿:ホラーテラー 六さん
作者怖話