小学生の頃、大して音楽が好きというわけでもないのに、友達が持ってるとか、かっこいいとかそんな理由で、散々ねだってラジカセを買ってもらったのです。
CDはまだなく、カセットデッキ、ラジオがついておりステレオ音声で再生できる程度のものでしたが、当時としては最新型でした。
数本しか持っていないテープや、ラジオを聴いていましたが、そもそもそれほど音楽に興味がないため、だんだんと飽きて終いにはほったらかしになっていました。
そんなある日、学校でクラスごとに出し物をやることになりました。私は、劇中のさまざまなシーンに合わせて音を流す音響係に割り当てられたのです。
劇中に流れる音楽はもちろんのこと、効果音といったらいいのでしょうか、水がちょろちょろ流れる音や、皿が割れる音なども用意する必要があり、面倒な係りです。
望んでいた係りではなかったので、久々にラジカセを引っ張り出したものの、指示された音をいい加減に録音していました。
ひととおり録音した後、リハーサルで初めてその効果音を使ってみたところ、適当にみつくろった効果音にもかかわらず劇的に臨場感が増したように感じられたのです。
クラスメイトや先生もとてもほめてくれました。
効果音の威力を感じ、ほめられたことで有頂天になった私は、イチからちゃんと作り直そう、とプロにでもなったような気分で録音する作業に没頭し、毎日いろいろな音を拾い歩くようになりました。
「川の流れる音」の指示は、最初は蛇口から流す水道の音でごまかしていたものを、自転車でわざわざ遠くの川に出向き、ラジカセを背負って膝上まで川に浸かり、マイクを川に近づけて録音しました。
情熱はますますエスカレートしていき、朝のシーンでは、それっぽい音楽を流すだけの指示にも関わらず、家で飼っていたカナリアの鳴き声を挿入したらいいんじゃないかとひらめいたのです。
いい音を録らなきゃ、そんな使命感に駆られていました。
カナリアは母が可愛がっていましたが、私は猫をけしかけたりするなどいじめていたため、私が近づくだけでカナリアは巣箱に隠れてしまい、録音どころの話ではありません。
しばらくマイクを構えても、うんともすんともいわないので、マイクを鳥かごの近くに置き、その場を離れて録音することにしたのです。
隣の部屋で状況をうかがっていたのですが、普段見ないものが近くにあるせいか、カナリアはちっとも鳴いてくれません。
テープの録音残量はたっぷりとあったので、そのうち鳴くだろうと、録音状態のまま外に遊びに行ったのです。
遊びほうけて夕方、家に帰ると、
「またカナリアにちょっかい出してたの?」
と母に怒られ、ラジカセも片付けられていました。
録音してる途中に片付けちゃったのかなぁ?とラジカセをチェックしてみると、テープは最後まで回りきっていたので安心しました。
録音した時間は20分くらいはあったはずです。それだけあれば録れているだろう、再生ボタンを押したのです。
「・・・・・」
まったくの無音、鳴き声はまったく録れていません。
やっぱ、ダメだったかーと半分諦めながら聞いていましたが、10分ほど経つと鳴き出したのです。
自分の作戦に満足しながら、どの部分を使おう?とテープカウンターをチェックしながら鳴き声を聞いていました。
「ん?」
再生し始めてから15分くらい経った頃からボリュームを徐々に絞っていくようにカナリアの鳴き声が小さくなっていくのです。
そして最後にはすっかり聞こえなくなってしまいました。
鳴き止んでしまったのかと思い、いったん巻き戻して再度聞きなおしたのですが、やはり途中から音が小さくなるのです。
ボリュームをあげると、かすかにカナリアの鳴き声が聞こえました。
録音できなくなったわけではなく、小さい音でしか録音できなくなっている感じでした。
「やべ、壊れた、どうしよ・・・」
録音しなきゃいけない音もまだあったのに、と途方にくれました。
かすかに聞こえていたカナリアの鳴き声もすっかり聞こえなくなっていました。
あきらめて、停止ボタンを押そうとしたとき
「ボソボソ・・・・・」
となにか聞こえた気がしたのです。
「ん?なんだ?」
巻き戻して聞きなおしてみました。
「ボソボソ・・・・」
やはりなにか聞こえます。
そこで、棚からヘッドフォンを取り出し、フルボリュームで再生してみました。
今度ははっきりと聞き取れたのです。
「・・・あなたの願いを、3つだけ叶えてあげます」
録れた音はこの声だったのです。聞いたことのない声です。
男の声とも女の声とも判別できないのですが、地の底を這うような低く、不吉な感触を持つ声でした。
その声が流れ終った途端に、カナリアの鳴き声がフルボリュームで耳に飛び込んできました。
それ以降きちんと録音されていたのです。
フルボリュームのカナリアの鳴き声のせいで耳の中がキーンと響いていました。
鼓膜が破れたのかと思いましたが、今はそれどころではありません。
こんないたずらをするような母ではないのですが、聞いてみると、ラジカセに気づいたときにはもう電源は切れていたというのです。
テープが回りきりoffになった後に母は気づいたのでしょう。
あわててラジカセを持って、母にも聞かせてみました。
「ちょっとこの声聞いてみて!これ、お母さんがやった?」。
夕食の準備でお前の遊びになんか付き合ってられない、と言っていた母もその声を聞くと顔をしかめ、
「気持ち悪いいたずらをするんじゃないよ。そんなもん消しなさい、わかった?」
と怒り出す始末でした。
部屋に戻って、誰がやったのか、どうやってやったのか?と考えていました。
録音音量を下げて、声を入れて、また録音音量を戻す・・・
第一、私のラジカセには、録音音量をコントロールするスイッチはついていないのです。今までの録音作業もそれで苦労していたのですから。
それに、願いを叶えるってなんだよ、ボリュームを上げなきゃ聞き取れない声で、しかもあんな気持ち悪い声で。。
カナリアの声を使う気は失せ、それと同時にいい音を録る、という情熱も失せ、結局、一番最初に作ったテープで済ませました。
もちろん、その声に対してなんの願いもしませんでした。
そのテープはずっと捨てられず、この話をしたついで友人たちに聞かせていたのですが、数回の引越しの間に紛失してしまいました。
友人たちみな、なんで願わなかったの?もったいねぇ、と訝しがっていました。しかし、
あの声の主が願いを叶えてくれるとは・・・・
怖い話投稿:ホラーテラー ルイコスタさん
作者怖話