1915年、第一次世界大戦中のシナイ砂漠。イギリスのある部隊は、敵のアラブ兵に完全に包囲されていた。水も食料も底を尽きかけ、このまま餓死するか全滅覚悟の突入しかない状況にまで追い込まれていた。
指揮をとっていたケイザル大尉が考えあぐねていた時、一人の老人が部下に連れられて大尉の前に現れた。
「大尉、この老人がどうしても大尉に手紙を渡したいと言ってるんですが・・。」
「私に手紙を・・? 誰からのものだ?そして君は一体誰なんだね?」
大尉は老人に尋ねた。
「私はずーっと以前、ある方からあなた宛の手紙を預かっている、この村のものです。あなたは確かにケイザル大尉様でいらっしゃいますね?」
「確かに私はケイザルだが・・。それでその手紙というのは何なのだ?」
「はい、これでございます。」
老人は手紙を差し出した。
「差出人はナポレオンだって?! あの、大ナポレオンからの手紙? 君、ナポレオンのエジプト遠征といえば100年以上前・・116年前のことじゃないか! からかうのもいい加減にしろ!私は忙しいんだ!さっさと帰ってくれ!」
「でも私は確かに、あの大ナポレオン様から手紙を預かったのです! あなた様以外には決して見せてはならないと言われて・・それ以来、私はこの手紙をずーっと大切に保管してまいりました。これは本当なのです!」
老人があんまり真剣に訴えるので、ケイザル大尉も一応見るだけみてやるか、といった感じでくしゃくしゃになった手紙の封をあけてみた。
手紙にはこう書かれていた。
親愛なるケイザル。
私は現地人の、この子供に手紙をあずける。この陣地の下には弾薬と食料が埋めてある。すぐにそれを掘り出し、エジプトとの国境に向かうのだ。
国境へ向かうには3つのルートがあるが、その中の砂漠を通る中央のルートを使え。同封の地図に飲み水が得られる水穴の場所を示しておく。
無事脱出することを祈っている。
ナポレオン・ボナパルト
それは確かにナポレオンからケイザル大尉に宛てた手紙に間違いはなかった。だがなぜ、116年前にナポレオンはこの手紙を書いたのだろう・・?
その時、ケイザル大尉はハッと気づいた。そういえば、自分のひいじいさんも自分と同じケイザルという名前だった。幼いころに聞いたことがある、ひいじいさんはナポレオンと一緒にエジプト遠征に行ったと。
ひいおじいちゃんはその時に戦死してしまったが、ひょっとしてこの手紙は、ナポレオンからひいおじいちゃんに宛てた手紙だったのでは・・?
全て理解出来たケイザル大尉は、ワラにもすがる気持ちで手紙に記されていた場所を部下に掘らせてみた。部下たちも、もうこの手紙にすがるしかなかった。
掘ってみると本当に弾薬と食料が出てきた。だが不思議なことに100年以上前に埋められたもののはずなのに、弾薬も食料も全く傷んでいないのだ。まるで昨日、埋められたかのような状態である。
「こんな不思議なことがあるんだろうか・・?」
部下も半信半疑である。
食料と弾薬を補給し、元気になった一隊は翌日敵兵に攻撃をしかけ、一瞬のスキをついて包囲網を突破し、地図に沿って砂漠を横断した。100年以上前の地図であったが、水穴の場所はそのままだった。途中で飲み水を補給しながら一隊は無事援軍と合流できたのである。
あの手紙を持ってきた老人であるが、詳しく話を聞くと、手紙を受け取ったのは老人が15歳の時だったという。すぐに当時のケイザルのところへ持っていったが、すでに隊は出発してしまった後で、結局手紙を渡すことは出来なかった。
それ以来、ずっと心の中に引っかかっていたというのだ。そしてそれから116年が経ち、ケイザルという名を聞いて今度こそ、と思い、面会に来たらしい。この手紙を渡すまでは死ねないと思っていたのだろうか。老人は130歳になっていた。
怖い話投稿:ホラーテラー とくめいさん
作者怖話