■シリーズ1 2 3 4 5 6 7 8 9
ファミレスに戻ったFさんは今後の事を真剣に考えなければならなかった。
Fさんのアパートはもはや彼にとって、最恐の心霊スポットでしかない。
引っ越したいのはやまやまだが、先立つ物がない。親に頼むのも気が引ける。
(大家にお願いして部屋をかえてもらうか・・・空き室があれば聞き入れてくれるかも)
Fさんは今さらのように後悔した。隣の部屋を覗き見した事を。
夕食時だというのに、客はまばらだった。
彼は店内の様子を、眼下を走る車と一緒に見ていた。夜景を眺めながら、ガラスに映る店内をボンヤリと見ていたわけだが、客の中に、妙に気になる存在が1人いた。
いつの間に席についたのか、広いテーブルに1人で座る俯いたままの女。
何を注文するでもなく、店員も何故か気にしている素振りすら見せない。
Fさんは気になって視線をガラスから店内に移した。
(!)
(いない!)
もう一度ガラスを見る勇気など無かった。
(俺、もしかしてとんでもない所に足突っ込んでるんじゃあ・・・)
彼は立ち上がり、伝票を掴むと、女が座っていた筈のテーブルを大きく避けて出口に向かった。
店を出て、雑踏の中をひたすら歩く。歩きながら心の中で叫び続けた。
(何なんだ、くそったれ!)
しばらくしてFさんは、恐怖におののいていた筈の自分の心に、少しずつ力が湧いてくるのを感じ始めた。
ガラスに映った女と、隣に住む女との関係はわからない。
しかし、人間ではないモノを見てしまったFさんの心に芽生えたのは、恐怖よりもむしろ勇気だった。
(もう逃げるのはやめた!)
そこまで話すとFさんは叫んだ。
「ヤケクソだよ、ヤケクソ!自棄糞も勇気の一種なんだってつくづく思ったね」Fさんの目はふざけていない。それを見て僕も、真剣に話を聞く事にした。最初は馬鹿にしきっていた彼の話は、次第に興味深いものになっていった。
Fさんは暗闇の中アパートに帰った。自分の部屋に入るとやはり少し落ち着いた。
彼は隣の女と、(一度じっくり話さないといけない)と考えていた。部屋に押し掛けるわけにはいかないので、女が外出する時を狙うしかない。
勇気が湧いたとか言いながら、Fさん、その夜はさすがに電気を消して寝られなかったらしい。
翌朝早く、Fさんは近くのスーパーで食材を買い込んだ。部屋に籠って女の外出を待つにしても、いつになるのか見当もつかないからだ。大学の講義など、もうどうでもよかった。
(隣で女は既に死んでいて、部屋に出入りしているのは、実はこの世の者ではないんじゃないのか?)
そんな想像をした事もあったが、あり得ないと結論づけた。
(幽霊がカーテン閉めんだろ、普通)というのがその理由だった。
そしてそれを証明する為には、是が非でも女に会わなければならないのだ。
テレビはつけない。音楽も聴かない。ただ隣の様子をうかがっているだけで夜になった。
その日1日、隣の部屋からは物音ひとつしなかった。
さすがに、〈覗き〉はもう懲り懲りだ。
(やはり、死んでいるのでは?)
どうしてもその不安が頭をよぎる。やけくその勇気もたった1日で萎んでしまいそうだった。
Fさんはその夜も、電気を消せずに布団に入った。
(俺、そのうち狂うかも・・・)なんて事を考えながら。
深夜2時頃。
(?)
Fさんはふと気配を感じて目を開けた。
ギィ・・
(ドアの音だ)
バタン
ガチャ
コツ、コツ、コツ・・・カン、カン、カン・・・
(女が出て行った!)
Fさんはパジャマのままサンダルを履き、静かにドアを開け外に出る。
忍び足で階段を降りると、女の後を追った。
細い路地を抜けて大通りに出る。
(いた!)
50メートルほど先に女が歩いていた。
時刻が時刻だけに、さすがに人通りはまばらだ。
(見つかるとまずい!)
女の後をひたすら追っていたFさんは、ふと我にかえって愕然とした。
(俺、女と会って、一体何を話そうとしてたんだっけ??)
(まず第一に声も掛けられないじゃないか・・・)
(こんな夜中に、「隣の部屋に住んでるFっていう者です、よろしく」なんて言えるわけがないし!)
(しかもこんなパジャマ姿で!)
Fさんは自分の馬鹿さ加減に泣きたくなった。
そもそも彼の恐怖は、見知らぬ女の部屋を覗いたから発生したんであって、女には何の責任も無い。
「あなたの部屋で不気味な足を見たんですけど」などと言おうものなら警察に通報されるのがオチだ。
それでもFさんは追跡をやめなかった。とりあえず、女が幽霊ではない、という確証だけでも手に入れたかったのだ。
前方を歩く女は24時間営業のスーパーに入って行った。
Fさんは、女がレジでお金を払う所を見て帰ろう、と思っていた。
(幽霊にそんなまね、できっこねえからな)
Fさんは尿意を感じてトイレを探した。店が広くて中々見つけられない。
うろうろしていると、前から大きなマスクをした女が近づいてきた。
都市伝説の〈口裂け女〉そのままの姿だ。
Fさんと女の距離はどんどん近くなる。
ここでFさん、とんでもない行動に出るのである。
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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話