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許された呪い 第5話 殺意

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Fさんは女の行動にただただ唖然としていた。皮膚病に苦しんでいる事を知っていた彼は、スーパーからアパートに着くまでの、まさに〈有頂天〉だった時、(もしかしたら病気を理由に俺との交際を拒むかもしれんなあ、彼女)などと余計な心配をしていたのだ。

(おいおいおい・・・自分から披露するんかい・・・・??)

女はFさんの〈目が点〉状態にも全く無関心で、ついに最後の一枚を脱いだ(もちろん、上半身だけ)。

包帯がぐるぐる巻かれて、上半身を殆ど覆い尽くしていた。まるでエジプトのミイラである。所々には血が滲んでおり、Fさん思わず目を背けそうになる。

「ちゃんと見て下さい!」女は言うと右腕の包帯を解き始めた。

(!)Fさんは見た。細くて簡単に折れてしまいそうなその腕のひじから手首にかけて、何か鋭利な刃物で切り付けたような傷痕があるのを。

「どうしたんです?この傷・・・?」

「よく見て下さい」

Fさんは言われるままに、その傷痕に目を近づけた。

傷というよりも、血管が浮き出たような、そこだけ細く膨らんでる感じだった。

「この傷、身体の内側から付けられたものなの」

(ええ?)

「自殺した兄の背中にも、ちょうど同じような傷があった・・・多分・・・父や母にも」

Fさんは、これ以上女の話に付き合うのが、正直怖くて苦痛になってきていた。しかし、ここで女と別れたら、もう一生あえないような気がして、仕方なく聞く事にした。

「遺書もなくそんな傷があるものだから、最初私が疑われたの、犯人じゃないかって・・・」

「・・・・・・」

「検視の結果、身体の内側から付けられた傷だって判って疑いが晴れたの・・・その事は警察関係者の間ですごい話題になってる、って担当の刑事さんが教えてくれた」

「その腕の傷痕、出血はしてないみたいだけど、そのうち消えるんですか?」

「堪らなく痒いの、全く触れなければ消えるんだけど、我慢できないくらい・・・・」

女は右腕のその部分を左手でパンッ、と叩いた。

(!)まるでマジックを見ているようだった。軽くたたいただけなのに、右腕はもう血まみれになっていた。

Fさんが、「病院じゃ治らないんですか?」と尋ねると、女は血まみれの腕をティッシュで拭きながら、寂しそうに少しだけ笑って、「見せ物になるだけだから・・・」と答えた。

ふとFさんは、気になっていた事を女に尋ねた。

「お兄さんの姿は、スーパーから後も見えてるんですか?」

「兄の姿は自殺した後も毎日ずっと見えてました、ほら、そこの花が活けてある所の壁際に死んだ時の姿そのままで・・・」

ごくり、Fさんの喉が鳴る。

「話しかけてもまるで聞こえていないみたいで、ずっと同じ格好のまま・・・・ただ」

「ただ?」

「スーパーに出掛ける時にふと見たら、兄の姿が無かったんです」

「・・・・・・今は?」

「見えません、アパートに着くまではあなたの後ろに見えてたんだけど・・・」

「あのう、それって俺に憑依してる、って事じゃないですよね」

「多分違うと思います、安心して」

「わー!まじビビったー!!」

Fさんが大声で叫ぶと、女は口に人差し指を当てて、「他の住人に迷惑だから」とたしなめた。

思い出したように女は服を着始める。

(もう不意打ちは御免だからな)Fさんは分かっている癖に一応尋ねた。

「その包帯の下、どこも、その傷が付いてるんですか?痛くないんですか?」

女は頷いて言った。

「痛くないけど・・・痒いの」

「あのう、ひとつ聞いていいっすか?」

「どうぞ」

「お兄さんはその傷を苦に亡くなったんですか?何か他にあったんですか?」

女は少し考えて話し始めた。

「前にも言ったけど、兄は自殺なんか、絶対する人じゃなかった。例え身体中がその傷で血にまみれても・・・兄も、父も、母も、みんな・・・自分に絶望して死を選んだの」

「絶望・・・ですか?」

「身体にこの傷ができると・・・・人を殺めたくなって、どうしようもなくなるの」

Fさん思わず立ち上がった。

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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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