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Fさんは女の行動にただただ唖然としていた。皮膚病に苦しんでいる事を知っていた彼は、スーパーからアパートに着くまでの、まさに〈有頂天〉だった時、(もしかしたら病気を理由に俺との交際を拒むかもしれんなあ、彼女)などと余計な心配をしていたのだ。
(おいおいおい・・・自分から披露するんかい・・・・??)
女はFさんの〈目が点〉状態にも全く無関心で、ついに最後の一枚を脱いだ(もちろん、上半身だけ)。
包帯がぐるぐる巻かれて、上半身を殆ど覆い尽くしていた。まるでエジプトのミイラである。所々には血が滲んでおり、Fさん思わず目を背けそうになる。
「ちゃんと見て下さい!」女は言うと右腕の包帯を解き始めた。
(!)Fさんは見た。細くて簡単に折れてしまいそうなその腕のひじから手首にかけて、何か鋭利な刃物で切り付けたような傷痕があるのを。
「どうしたんです?この傷・・・?」
「よく見て下さい」
Fさんは言われるままに、その傷痕に目を近づけた。
傷というよりも、血管が浮き出たような、そこだけ細く膨らんでる感じだった。
「この傷、身体の内側から付けられたものなの」
(ええ?)
「自殺した兄の背中にも、ちょうど同じような傷があった・・・多分・・・父や母にも」
Fさんは、これ以上女の話に付き合うのが、正直怖くて苦痛になってきていた。しかし、ここで女と別れたら、もう一生あえないような気がして、仕方なく聞く事にした。
「遺書もなくそんな傷があるものだから、最初私が疑われたの、犯人じゃないかって・・・」
「・・・・・・」
「検視の結果、身体の内側から付けられた傷だって判って疑いが晴れたの・・・その事は警察関係者の間ですごい話題になってる、って担当の刑事さんが教えてくれた」
「その腕の傷痕、出血はしてないみたいだけど、そのうち消えるんですか?」
「堪らなく痒いの、全く触れなければ消えるんだけど、我慢できないくらい・・・・」
女は右腕のその部分を左手でパンッ、と叩いた。
(!)まるでマジックを見ているようだった。軽くたたいただけなのに、右腕はもう血まみれになっていた。
Fさんが、「病院じゃ治らないんですか?」と尋ねると、女は血まみれの腕をティッシュで拭きながら、寂しそうに少しだけ笑って、「見せ物になるだけだから・・・」と答えた。
ふとFさんは、気になっていた事を女に尋ねた。
「お兄さんの姿は、スーパーから後も見えてるんですか?」
「兄の姿は自殺した後も毎日ずっと見えてました、ほら、そこの花が活けてある所の壁際に死んだ時の姿そのままで・・・」
ごくり、Fさんの喉が鳴る。
「話しかけてもまるで聞こえていないみたいで、ずっと同じ格好のまま・・・・ただ」
「ただ?」
「スーパーに出掛ける時にふと見たら、兄の姿が無かったんです」
「・・・・・・今は?」
「見えません、アパートに着くまではあなたの後ろに見えてたんだけど・・・」
「あのう、それって俺に憑依してる、って事じゃないですよね」
「多分違うと思います、安心して」
「わー!まじビビったー!!」
Fさんが大声で叫ぶと、女は口に人差し指を当てて、「他の住人に迷惑だから」とたしなめた。
思い出したように女は服を着始める。
(もう不意打ちは御免だからな)Fさんは分かっている癖に一応尋ねた。
「その包帯の下、どこも、その傷が付いてるんですか?痛くないんですか?」
女は頷いて言った。
「痛くないけど・・・痒いの」
「あのう、ひとつ聞いていいっすか?」
「どうぞ」
「お兄さんはその傷を苦に亡くなったんですか?何か他にあったんですか?」
女は少し考えて話し始めた。
「前にも言ったけど、兄は自殺なんか、絶対する人じゃなかった。例え身体中がその傷で血にまみれても・・・兄も、父も、母も、みんな・・・自分に絶望して死を選んだの」
「絶望・・・ですか?」
「身体にこの傷ができると・・・・人を殺めたくなって、どうしようもなくなるの」
Fさん思わず立ち上がった。
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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話