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女の目は虚ろで、Fさんが立ち上がった事すら気付いていないようだった。
刃物を持っているわけではないので、警戒はしているものの、すぐに部屋を飛び出す事はためらわれた。やはり女をそのまま放ってはおけなかったのだ。
女は座ったまま何か呟いている。
Fさんは、いざという時の為にドアの鍵だけは開けておこうと、足を玄関の方へ向けようとしたその時、強烈な耳鳴りが彼を襲った。
(身体が・・・動かない・・・!)
Fさんはまさに最悪の状況で、金縛りに遭ってしまったのだ。
・・・いた・くな・・い・・けど・・・・か・・ゆ・い・・の・・・
!!!!
頭の中で女の声がする!
・・・いた・・く・・ない・・けど・・・・かゆ・・い・・の・・・・・・ほ・んと・・は・・いた・・いの・・・ほん・・と・・は・・・いたい・・の・・・とて・・も・・・い・た・・い・・の・・・・いた・く・・て・・・・・・か・ゆい・・・の・・・
恐怖で完全にパニクったFさんはさらに戦慄する!
女が畳に両手をついたのだ。
(立ち上がる!誰か!!)
頭が割れそうだ。
声は続いている・・・かゆい・・の・・・いた・・・く・て・・か・・ゆ・・いの・・・いたくて・・・・かゆい・・・の・・・い・た・・い・・から・・ころ・す・・の・・・か・・ゆ・い・・から・・・ころす・・の・・・・・・
!!!
女がユラリと立ち上がる。
Fさんは後じさる事もできない。
(誰か!助けて!!)
・・・か・・ゆい・・から・・ころ・す・・・の・・・い・た・・い・・から・・・・こ・ろ・す・・の・・・かゆ・い・か・ら・・・おに・・い・ちゃ・ん・・た・・す・・・け・・て・・おに・・い・・ちゃ・・・んた・・すけ・・て・・・
(お兄ちゃん助けて?)
近付いてくる女の輪郭がゆらゆら揺らめいた。そのうち曇って見えなくなる。
(涙?俺は泣いているのか??)
Fさんの中から恐怖が消えた。
「ユキエ」
聞いた事もない名前が口をついて出た。
Fさんは抱き締めた。女の身体が折れるほど。
「お兄ちゃん、ありがとう・・・」
一瞬、左胸に痛みがはしった。
Fさんは女の手を取り、何故か可笑しくて笑ってしまった。
アイスピック?
「そんなもの、どこに隠してたんすか?参ったな〜」
「そこで目が覚めたんっすよ!夢だって現実に見たんだから、実話でしょ!!おっさん」
Fさんはそう言うと右手を挙げて立ち去った。
やっと帰ったと思ったら、玄関のドアが少し開き、顔だけ覗かせて叫んだ
「んじゃ、また!例のキャバクラで!」
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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話