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許された呪い 第7話 代償

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お坊さんは泣き続けた。そして何故か、その間ずっと小世さんに謝り続けていた。

お坊さんが泣きやんでからも、2人はかなり長いこと抱き合っていた。小世さんが耳元で何か話しているようで、お坊さんはしきりに頷いている。時々、Fさんの方をちらちら見ていた。

中腰になっていたお坊さんが立ち上がる。

「小世ちゃん、・・・しかし・・・生きているうちに2人に会えるとは、さすがに思わなんだ」

(2人??)

「ところでその歯はどうした?」

涙まみれのお坊さんはとても優しい顔をしていた。それにまだ若い。60代前半くらいか。

「栄養のせいだと思うんです。食べ物が全く喉を通らなくて」

「それにその、目の下のクマ、全く寝とらんようじゃのう・・・」

「・・・・・・」

「わしについてきなさい、少し寝んと駄目だ。寝どこを用意しよう」

お坊さんはそう言うと、Fさんからぬいぐるみを受け取り本堂に向かって歩き出した。

Fさん、小世さんに声をかける。

「じゃあ、お言葉に甘えますか?」

小世さんは少し微笑んで、思い出したように、歯が2本無いのを手のひらで隠す。確かに、顔色が酷く悪い。

「もう、マスク、やめたんすか?そういや朝からしてませんね」

Fさんが尋ねると、

「・・・・もう、いいの。こそこそ生きるのは、もう、やめるの。こりごりなの」

小世さんは前をまっすぐ見てそう答えた。

Fさん、話したい事が山ほどあるのに何から話していいのか思い付かない。お坊さんが、「2人に会えて良かった」とか言ってたけど・・・・・・、なんとなくそんな気もしてたんで黙っておいた。

(小世さんのお兄さんなら、ま、いいか)

ふと、2人でスーパーからアパートに戻った時、小世さんに「あなた死ぬわよ」と言われた時の事を思い出して尋ねてみた。

「あの時は、たかしさんに兄が憑いてたから、本当に、危ない、って思ったの。プーさんじゃない、本当に大切な人だから、突如何をしでかすか分からない。自分が怖くて堪らなかった・・・そしたら、耳元で聞こえたの・・・小世、お前はもう、大丈夫だから、って」

(・・・・・・)

「今も憑いてるんすか?」思わず出そうになった言葉を飲み込んで、やはり聞かずにおいた。一度尋ねた時、憑いてない、と言われたのを思い出したからだ。

(小世さんからしたら、憑いてる、なんて言いづらいのかも知れないしな・・・)

本堂の横を通って突き当たりを曲がると、普通の一軒家に続く渡り廊下があった。小世さんはお坊さんに案内されてその家に入って行った。

Fさんはとても眠る気にはなれなかった。眠いのは山々だが、それよりも、お坊さんから小世さんの事を少しでも早く聞きたかったからだ。

Fさんは渡り廊下の手前で、かなりの時間お坊さんを待った。

お坊さんは大きな、茶色の封筒のような物を手にして戻って来た。Fさんに気付くと軽く頷いて、後について来るよう促した。

書道教室のような部屋に座蒲団を2枚置いて、2人は向かい合わせに座った。

「あなたと小世ちゃんとの関係をあの娘から詳しく聞いているわけではないので、これをあなたに話して良いものか悩みましたが、事実として聞いて下さい」

Fさんはその時、すごく嫌な予感がしたが頷くしかなかった。

「あの娘はもう長くない。病院に問い合わせたんだが・・・主治医の話によると、生きている事自体あり得ない状態らしい」

(!!!)

「先生はこうも言った。モルヒネ打たないと、痛くて我慢出来ない筈だと」

Fさんはあまりの衝撃に涙も出ない。

「小世ちゃんが、病院には絶対電話しないで、と言って医師の診断書を見せてくれたんだが、気になって、聞こえないように電話したんだ」

(・・・・・・)

「あの娘は最後の苦しみにも、逃げずに耐えようとしとるのかもしれん」

「小世さんの事、教えて下さい」

Fさんがようやく口を開いた。

「わしは7年前、あの兄妹(きょうだい)を見殺しにしたんじゃ」

(!)

「最初2人を見た瞬間、これはわしの力ではどうしようもない、と分かった。あれ程の悪霊、そうそうお目にかかれるもんじゃない」

「小世さんの祖先が関わってるんですか?彼女、そう言ってました」

お坊さんは頷いて言う。

「その怨霊、小世ちゃんの先祖が昔何をしたのか見せてくれたよ。あまりにも酷くて言葉にできない、吐き気がして、狂いそうだった。今、思い出しても身の毛がよだつ・・・・その怨霊も元々善人だったのに、あの娘の先祖によって、怨霊にされたんだな」

いつの間にか、お坊さんの目から涙がこぼれ落ちていた。

「わしは恐れた・・・そして、逃げたんだ、あの幼い兄妹から」

(!)

長い沈黙が続く。お坊さんの嗚咽がとまらない。

「わしの知る限りでは、最も加持の力に秀でた方に電話して、兄妹に、その寺までの交通手段を紙に書いて詳しく教えたんだが・・・・」

(・・・)

「それらしい子供が来ない、と連絡があったのはもう日の暮れた後だったんだ」

「今でも鮮明に覚えているよ。あどけない顔をした小世ちゃんが怯えた表情で話すんだ。夜、目が覚めると、首だけの赤ちゃんがたくさん転がってて、みんな自分を見てるんだと」

(!)

突然、お坊さんが大声を張り上げた。

「なんであの時、2人を連れて行ってやらんかった!この、臆病者があ!!」

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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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