緑色の翡翠のかたまり、竹で出来た狐、石や紙や、一つ目の子供がめちゃくちゃに跳ね回り、賑やかに騒ぐ。
そんな夢を見た。
場所は、どこかの神社の社の中らしい。
その人ならざる者たちに混じって、子供の頃の姿に戻り遊んでいる俺も、何だか物凄く楽しくて楽しくて、大笑いをしながら一緒に騒いでいた。
怖さはなく、夢のなかで俺は、まわりで跳ねる者たちが「神様」である事を知っていた。
かくれんぼをしたり(笑ったり跳ねたりして隠れるから、皆すぐに見つかるw)、ピョンピョン飛んで遊んだり。
夢中で楽しんで、そして俺は、夢の中でいつの間にか眠ってしまっていた。
ふと、社の外の石段で目を覚ます。
湿っぽい石の感触や、群青色の空から、朝が近いことが分かった。
『楽しかったなー…』
なんて思いながら、うとうとと社の方を見ると、軽薄な感じの若い男がいて、社から薄い貝でできたような白い腕輪を盗もうとしていた。
それが大切なものであると直感的に悟った俺は、皆に知らせなきゃ、と思い
『腕輪が盗まれるー!腕輪が盗まれるー!』
と大声で叫んだ。
俺の存在が男にバレてもいい、盗まれちゃいけない、と必死だった。
それを聞きつけた翡翠のかたまりが、ぬらりと全身緑色の人の形になり、傍に来てくれる。
『少し辛抱するんだよ』
江戸時代の女の人のような姿をして、男の人の声で話す翡翠は、そう言って古い扇子と小さな人形を俺に手渡し、何かの布の中に俺を包んで隠してくれた。
鼻先まで暖かい布のようなものに包まれ、でも俺は、頭まで隠さなきゃ!と思いゴソゴソと動いてしまう。
「見つけた!!」
物凄く禍々しい声がして、上から強い力で体を押さえつけられた。
見ちゃいけない気がして、ギュッと目を閉じたのに、そいつが腕輪を盗もうとした男であり、けれどその姿はもはや人ではなく、巨大で凄まじい形相をした狐だと分かった。
醜悪で、穢れの権化みたいな姿だった。
奴の息を間近に感じながら、俺は必死で目を閉じ息を殺す。
「ふざけやがって」「お前が言ったんだな」「殺してやる」
俺を恨み罵倒し蔑む狐の声とともに、体を押す力が強くなる。
苦しい…!
もう無理だ…!
『ここが踏ん張り所だよ』
諦めそうになった時、さっき一緒に遊んでいたであろう誰かの声が頭に響く。
みんな見方なんだ!と思った途端に、怖さが消えて、ただ息苦しさだけを全力で耐えた。
狐が吐く「邪魔しやがって」「喰ってやる」という声が、だんだん「おーんおーん」という声に変わっていく。
その音はだんだん早く短くなり、おーんおーんから、おんおんおんおんと鐘が響くような音になり、やがて俺は気を失った。
夢と現実の狭間のような場所で、俺は何人かの神様(全員、江戸時代の人の姿をしていた)と一緒に歩いていた。
辺りはすっかり明るくなり、どうやらここは神社の参道らしい。
参道を横切るように川が流れていた。
そこで俺は、神様に
「人を救うのは難しい」
「たった一人でも、こんなにクタクタだよ」
みたいな事を、子供ながら一生懸命に話していた。
神様はうんうんと頷き
「でも、これで二回目だ」
と教えてくれた。
前にも同じような目に合ったのだろうか、よく覚えていない。
「大変でも、諦めちゃいけない」
そんなような事を言われて、参道を抜けると同時に俺は目を覚ました。
今度こそ現実の、25歳の俺。
何故か、とても清々しい気持ちで、感動的ですらあって、でも神様と遊ぶなんて、偉そうな夢だなとおかしくなった。
「諦めるな…」
そう呟いて、枕元の携帯で弟に電話をする。
夜中の2時にも関わらず、弟は電話に出て、それからボソボソと他愛もない話を続けた。
二週間前、弟は自殺した。
たまたまアパートに寄った俺が見つけたから未遂に終わったものの、薬を大量に飲んで、嘔吐し、頭を床にぶつけ、身動きが取れないまま震える弟は、あと何時間か発見が遅れていたら、障害が残るか、死んでいたらしい。
病院で目を覚ましてからも、弟は
「なんで助けた」
「死なせてくれ」
と、うまく出ない声で叫び続けていた。
死にたい人間に、無理に生きろと言うのは残酷だろうか。
死なせてあげるのも優しさなのか。
最近では、俺もそんな事を思うようになっていた。
でも今は、何とか弟を救いたいと思っている。
たくさんの強い味方が居てくれると分かったし、それに弟が自殺をしたら、きっとあの醜い狐に喰われるんだろうなと思う。
それは凄く嫌だからさ。
諦めないでがんばるよ。
夢の話だから、フワフワしてる部分もあると思いますが、最後まで読んで下さりありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー 病み介さん
作者怖話