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中編4
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耳鳴り

兄の友人Eさんは、少し変わった感性を持っている。

耳鳴りがたまにあるという人は結構いるだろう。

霊などが近づくと、その予兆として耳鳴りが起こるという話もよく聞く。

Eさんの場合は、その耳鳴りである種の区別ができるのだという。

たとえば最近に聞いたのは、ガーーッという電車の騒音のようなものだった。

そういえば昼間に踏み切りを通った際、花束が置かれていた気がする。

その夜、布団に入り眠ろうとすると、やはりというか「それ」が出た。

仰向けになり天井を眺めていると、ズズズッと天井の板から少しずつ出てくる。

轢かれたのだろうか…

見るも無残になった肉塊のような姿のそれが、Eさんをじっと見つめていた。

(ここに出るのはお門違いだ、ゆっくり寝させろ)

そう念じながら顔を背けて眠りにつこうとすると、やがて天井から気配が消えた。

「それって、恐ろしくないんですか?」

私が聞くと、Eさんは笑いながら答えた。

「もう見慣れてるからね。それに、下手に出ると奴ら調子に乗るんだよ」

私は感心というか呆気に取られ、ぐうの音も出なかった。

「今までで一番きつかったのは何ですか?」

そう私が聞くと、Eさんは少し考えながら首をかしげた。

「いろいろあるんだけど、一番はアレかな…」

少し意味深に言いながら、その話を聞かせてくれた。

それを見かけたのは、数年前の仕事帰りだった。

道端にひどい有様の車の残骸があった。

車体の全体が余すところなく黒こげになっており、形もぐちゃぐちゃにへし曲がっていた。

(ありゃひでえな…嫌なもん見ちまった…)

近所での噂では、やはり悲惨な事故があり、乗っていた人は黒こげになって死んだらしい。

そして、その日から予兆のしるしである耳鳴りが聞こえ出した。

最初に部屋の布団の中で聞いたときは本当に驚いたという。

「本当に自分の部屋が火事になったのかと思って、飛び起きたよ」

ボオボオッ…

まるで炎が近くで燃え盛っているような、そんな耳鳴りだった。

眠っているところを起こされたので、腹が立った。

それから耳鳴りは何日も続いていた。

そんなある日、部屋に帰って戦慄が走った。

部屋のベッドの上に、黒い何かが…

これは…焦げ臭い。

どこからかポロポロと落ちてきたような焦げカスが布団の上に散らかっていた。

(これはいよいよヤバいか…?)

それでもEさんは、無視することにした。

友人や彼女に話すと、お祓いをしたほうが良いと口々に言われたのだが、全く聞かなかった。

「大丈夫だよ大丈夫、そのうちいなくなるから」

ヘラヘラ笑い飛ばしながら、誤魔化してしまった。

「そうだ…今夜あたり、泊まりに来ないか?」

気にせず平然とそんなことを言って、彼女を部屋に誘ったのだという。

その日もたまにボオボオと耳鳴りが聞こえていたが、彼女が泊まりにきているのだから相手にしていられない。

部屋でひとしきり楽しく過ごした後、一緒のベッドで寝ようかということになった。

電気を消し、一緒の布団にもぐりこむ。

そこからほとんど記憶がないのだという。

布団にもぐりこんで…あのままパッタリと眠ってしまったのだろうか。

次の朝、窓から差す明るい日差しで目を覚ました。

ボオボオッ…

起きてからというもの、耳鳴りがひどい。

鼓膜が破れんばかりに、脳髄まで響いてくる。

隣には、布団を頭からもぐったままの彼女。

(やっぱり昨日そのまま寝ちゃったのかな…?彼女に悪いことしたな…)

彼女を起こさないようにソーッと手を握ろうと布団の中へ手を入れる。

…奇妙な感触にハッとなった。

まるで乾燥しきったようなガジガジの手が触れた。

触れた自分の手を見ると、黒い炭がついていた。

プーンと隣から焦げの臭いが強烈に漂ってきた。

しばらく恐怖と戦慄で身が震えていた。

恐る恐る、意を決して隣の布団を剥ぎ取る。

……………!!!

恐いものを見慣れたEさんでも、その時ばかりは失神しそうになったという。

黒こげになったものが、自分の隣で横たわっていた。

人の形をしていなければ何なのか分からないぐらいに、すっかりボロボロに焦げていた。

気がつくと、トイレに閉じこもりブルブルと震えていた。

(どうするよ…!あれは、彼女なのか?)

もう一度部屋に戻って確認するのも恐ろしい。

しばらく、そうしていただろうか。

意を決して、トイレから出ようとしたその時。

ガチャガチャ…

玄関のドアの開く音がして、誰か入ってきた。

トイレのドアを開けて見てみると、それは彼女だった。

「ぐっすり寝ていたみたいだから、ちょっとコンビニ行ってきたんだけど…」

ビニール袋を手に提げた彼女が、ビクビクした様子のEさんを怪訝な目で見ていた。

彼女がそのまま部屋に入ろうとするので、Eさんは慌てて止めた。

「ちょっと待った…今、部屋の中にアレが…」

彼女を玄関に待たせ、恐る恐る部屋のドアを開ける。

布団の中はもぬけの空になっていた。

フゥと胸を撫で下ろす。

しかしEさんもさすがに観念したのか、お祓いをしてもらうことにした。

それからは、あの耳鳴りも黒い焦げカスなどもすっかり無くなったのだった。

無くなったとはいっても、その時の耳鳴りだけだが…

今でもいわくつきの場所に行ったりすると、耳鳴りがする感性は健在だという。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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