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中編4
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命の灯火

それを初めて見たのは小学生の頃だった。

暑い夏の日、父が山で大きなカブトムシを捕ってきてくれた。

「うわあ〜、でっかいカブトムシ!父ちゃんすごいな〜」

私は大喜びしていた。

しかしそれから数ヶ月が経ち、父が肝臓をこわして入院することになった。

それまでは居るのが当たり前だと思っていたため、とても寂しかったのを覚えている。

だから、父が捕ってきてくれたカブトムシは大事に大事に育てていた。

父が退院して家に帰ってきた時、元気なカブトムシを見せたかったから。

でも何日か経ってどんどん寒くなり、カブトムシも元気がなくなってしまっていた。

餌もほとんど食べなくなり、じっとしてあまり動かない。

そんなある日、ボオッと小さな灯火のようなものが見えた。

今にも消えてしまいそうな、弱くて小さな灯火。

カブトムシの上にちょこんと寂しく灯っていた。

「カブトムシ、死んじゃうのかな…?」

母に聞くと、「仕方ないわよ」と寂しく言っていた。

結局それから何日も経たないうちにカブトムシは死んでしまった。

死んでしまうと分かっていても何もしてあげられないのが、悲しくて切なかった。

時代は変わり、次に見たのは高校生の頃。

家に帰る途中の道端で、ガリガリでとても弱っている捨て猫を見つけた。

今にも死んでしまいそうなほど衰弱しており、やはりその上には小さな命の灯火がポツンと寂しく灯っていた。

ダンボールに入れて家に持って帰ったが、餌も食べられずにその猫は死んでいってしまった。

ただただ悲しかった。

「気持ちは分かるが、生き物はみんな死ぬもんだ。仕方ないんだから、あまり気に病むな」

父が優しくそう言ってくれたが、私は切なくてしばらくは飯が食べられなかった。

そしてさらに時代は変わり、私が大学生の頃。

母から電話があり、こんなことを聞かされた。

「Yちゃんって覚えてる?小学生の頃、近くに住んでた…」

よく覚えていた。

小さい頃、よく家に遊びに行ったっけ…

まだ女の子だとか意識もしてない小さい頃だった。

よくYの家に遊びに行っては、夕方まで二人で過ごしたことがあった。

小学校高学年ぐらいになると少し恥ずかしくなり、あまり遊ばなくなってしまったのだけど。

それから間もない中学にあがる頃、Yは隣の県に引っ越して行ってしまった。

「もちろん覚えてるよ。そのYちゃんがどうしたの?」

母は少し話しにくそうに、切り出した。

「それがね…」

母の言葉が、信じられなかった。

Yが癌で入院している。

小さい頃はあんなに元気だった、あのYが…

母がそのことを知ったのは、Yの母親から連絡があったからだという。

「うちの娘が、久しぶりに逢いたがっています…」

ただ寂しそうに、そう言っていたそうだ。

もう何年も逢っていなかったため、少し迷っていた。

(とても懐かしいし、逢いたいというのは嬉しいんだけど…)

あの子に逢ったとき、私は何を言ってあげたらいいだろう…

そんなことを考えながら、一応聞いておいた病院の住所を書いたメモとにらめっこしていた。

(少し遠いけど、やっぱり逢いに行くべきだよな…)

意を決して、私はYに逢いにいくことにした。

乗りなれない電車とバスに乗って、隣の県の大きな病院へ…

(あっ……)

病室に行き、何年かぶりにYを目にした私は、言葉も出なかった。

ガリガリにやせ細ってしまっていて、髪の毛もみんな抜け落ちてしまっている。

Yは私を見ると少し照れたように、うつむいた。

「小さい頃はよく遊んだよね…」

懐かしい話を二人でしばらく交わした。

帰り際に病室から出るとき、静かに微笑むYの頭上にポツンと命の灯火が寂しく灯ったような気がした。

それから時間を見つけては何回か逢いに行ったが、そのたびにYが弱っていくようなのがたまらず悲しかった。

「今朝うちの娘が、亡くなりました…」

Yの母からそんな知らせを受けたときには、涙が止まらなかった。

どんどん弱っていくYの頭上に灯っていた、あの命の灯火。

消えないようにと、優しく手を握ったり、笑わせようと頑張った…

それでもどうしようもなく、次第に灯火が光を失っていくのが切なかった。

不意にポタリポタリと私が涙を落とすのを見て、Yは心配そうにしていたっけ。

弱っていきながらも、それでも懸命に生きようとしているYが哀しかった。

それ以来、命の灯火を見たことはない。

あるいは…この先、再び見ることがあるかもしれない。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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