もう20年近く前にお話し。
俺はある事がきっかけで霊に取り憑かれてしまった。
お祓いなんかもいろいろやったが効果は無く、生活や身体にまで影響を及ぼしてきたので、死を覚悟していた。
どうせ死ぬなら、と思い貯金の大半を娯楽に投資し現実逃避に浸る日々を送っていた。
ある酒場で中国人男性、鄭さんに出会った。彼とはよく顔を合わせた事はあったが会話をするのがその日が初めて。
「かなりやばいのを連れてるようだけど、何もしなくていいの。このままだともう間もなく取り込まれてしまうよ。」
鄭さんは初めて俺を見た時から取り憑かれている事に気付いていたそうだ。
今回は自分が中国へ帰るので酒場の常連に別れを言いに来たのもあり、俺に声を掛けてきたそうだ。
「君さえよければ中国の有名な霊媒師を紹介するよ。ただ、普通のお祓いと違うみたいだから覚悟はいると思うけど。」
こうして毎日酒やギャンブルに明け暮れているのにも少し飽きていたし、胡散臭いと思いつつも気分転換に、一緒に中国へ行く事にした。
飛行機の中で鄭さんも昔取り憑かれた経験があり、今回紹介する霊媒師に助けてもらったとの事で、その地域では絶大な信頼があるそうだ。
話を聞いているうちに死ぬ覚悟でいたのが嘘みたいに抜けていた。助かるのかもしれない、と希望が湧いていた。
お祓いの方法は誰にも教えてはいけないとの事で鄭さんの口からは教えてもらえなかった。
鄭さんの故郷は小さな山村で言い方は悪いが、お世辞にも綺麗な場所ではなかった。公衆便所のような臭いと濁った溜池には大量の蠅が蔓延していた。
村の一角にひと際目立つ家屋があった。家屋の周りには黄色い布が数百枚臭い風に吹かれてたなびいていた。霊媒師の家だった。
鄭さんに連れられ中に入ると庭先に霊媒師が座っていた。
鄭さんと霊媒師が何やら話をしていたが言葉が分からない俺は家屋の付近を探索していた。
鄭さんからは日本で言う神社のような所だよと説明があったが、とても神社には思えない風貌だった。どちらかと言えば宗教団体の施設のような雰囲気だった。
家屋の横には小さな東屋があり、井戸が見えた。井戸の蓋の部分が何やらギラギラとしている。近付いてみると大量の銀蠅が一気に飛び立った。
思わず声をあげた俺の元へ鄭さんが駆け寄る。
「勝手に歩き回るのは止めた方がいいよ。知らなくていい物もあるからね。」
そう言うと鄭さんは俺の手を引いて霊媒師の元を離れた。
お祓いは翌日の早朝に受ける事になったようなので、その日は鄭さんの家で酒を飲み早めに休んだ。
チリーン、チリーンと風鈴のような音で目が覚めた。
鄭さんは起きてからお祈りをする習慣があるそうで、その音だった。
「今日は頑張って。みんなあの人に助けられたんだから大丈夫。」
そんな言葉が余計不安に感じたが、用意された朝食を済ませ、霊媒師の家に向かった。
鄭さんと霊媒師が話をしている間にお面を付けた女性が俺の服を脱がしてきた。自分で出来るからと言ってもこちらの言葉が通じない。女性のてを振りほどき、自らパンツ一丁になってみせたが、女性はパンツに手を伸ばし脱がせてきた。
全裸になった俺は別の個室に誘導された。そこは蝋燭が数本だけの薄暗い部屋でお香の良い香りがした。辺りに漂っていた饐えた臭いが一切なく、汚い壁も薄いピンクや赤い布で覆われていた。
ソファらしき物があったので腰をおろすと先程のお面を付けた女性が入ってきた。何やら俺に話しかけてくるが言葉が分からないので、キョトンとしていると、突然服を脱ぎ始めた。俺は焦ってしまい、背中を向ける事しか出来なかった。
ポンと肩を叩かれ振り向くとお面の女性の全裸が目に入った。すぐに目をそらすと女性は部屋に鍵を掛け、お面を外し近付いてきた。
寂れた山村には似つかわしくないような美女だった。女性は俺に身体をすり寄せて俺の股間に手を伸ばしてきた。
俺は必死に抵抗するが、最終的には女性の性技により果てる結果に。女性の手に放出した体液を瓶に入れてそそくさと服を着て出て行った。
まさか、これがお祓い?
だったらラッキーと思うもつかの間、鄭さんがニヤつきながら部屋に入ってくる。
「どうだった?良かったでしょ。でもこれからが本番だから頑張ってね。私も付いてるから。」
そう言うと更に奥の部屋に連れて行かれた。饐えた臭いが鼻を突く。大きな窓があり、昨日見た銀蠅だらけの井戸が外にあった。銀蠅が一斉に飛び立つ光景を思い出しゾッとしていると、霊媒師がお面を付けて入ってきて、お祓いの儀式とやらが始まった。
霊媒師と俺の間には火鉢のような物がありそこからは結構な勢いで火柱が立っていた。その火に布を何度か潜らせ焦げ目が付いた頃に先程のお面の女性が登場し、俺の目に焦げた布を巻き目隠しをした。
先程の行為の後という事もあり、性的な行為をされるのかと期待していたが霊媒師の唱える呪文のような声が永遠と続いていた。
いつの間にか眠っていたようで途中から記憶がないが、途中で女性に腕を引かれ、場所を移動したようだった。先程の煙臭い部屋からまた公衆便所のような臭いのする場所に移された。草木の揺れる音や風を肌で感じられる事からどうやら屋外らしい。
地面に座らされしばらく放置された。耳元ではブーンと蠅が飛び交う音がする。身体のあちこちに蠅がとまる感触が気持ち悪かった。
チリーンチリーンと今朝鄭さんの家で聞いた鈴の音が聞こえた。誰かが摺り足で付いてくる気配がする。
なんだか、公衆便所の臭いに混ざって動物の死骸のような臭いが立ち込めてきた。摺り足の音は俺の周りをグルグルと回り続ける。時折髪を撫でらたり、身体中触られたりもしたが、霊媒師かお面の女がお祓いをしているのだろうと思い、身を任せていた。
次第に身体への触れかたが荒くなってきて腕を激しく引っ張られ、地面に倒れこんでしまった。
目隠しで何も見えない分恐怖心が高まった。
一体何をされているんだろう。倒れた時に少し目隠しが緩んだようで、隙間から覗く事が出来た。摺り足の主を見ようと目だけを動かすとそこには動物の足が見えた。大型犬の足のような太く爪が出ていた。作り物ではなく本物だったと思う。獣臭さは先程より増していた。
理解出来ない状況に
「もう、帰りたい。
と声を漏らした時、すぐ近くでゴゴゴゴゴゴゴと大きな石を動かすような音がした。あの井戸の蓋を開けたようだった。同時に公衆便所臭が辺りに漂った。
獣臭と便所臭の混ざった悪臭の中パニックになり嘔吐してしまったが、誰かが助けてくれる気配はない。涙目になりながらも目隠しの隙間からは犬の足と銀蠅だけははっきり見えた。
多分そんなに長い時間ではなかったと思うがこの時は永遠続いているような錯覚に陥っていた。死んだ方がマシかも、とまで思った。
意識が遠のいているのか遠くで霊媒師の呪文が聞こえる。次第に近付いてくるようにだんだん声が大きくはっきり聞こえるようになった。
次の瞬間頭から液体を大量にぶっかけられた。ものすごい異臭を放つ液体が口にまで入りさらに激しく嘔吐した。隙間から見えた液体は焦げ茶色に緑色の藻のような物と腐乱した魚の胴体が見えた。俺は意識がなくなるまで吐き続けた。それと同時に液体も掛け続けられていた。
目を覚ますと鼻と口に布を巻いたお面の女性が俺の目隠しを外していた。
霊媒師が汚いバケツに汚い泥水をたっぷり入れてこちらに運んでくる。それを頭からぶっかけられた。この時はもう好きにしてと言った感じで何も低抗出来なかった。周りには俺の吐瀉物なのかさっきの異臭を放つ謎の液体なのか分からないが残骸が散乱していて、お面の女が泥水を掛け掃除していた。
放心状態の俺は霊媒師に肩を借りて室内に戻された。中には鄭さんが心配そな顔で俺を待っていてくれた。安心からか、俺は恥ずかしさを忘れ全裸で泣き崩れた。
「よく耐えた。偉いぞ。でもまだお清めが終わってない。もう少しだから頑張れ。」
鄭さんの言葉が温かくも冷たくも感じられた。これ以上何があるんだよ。もうやめたい。今どうしてこうなっているのかすら分からなくたってきた。
霊媒師が衣装を替えて登場した。小脇に壺を抱えて近付いてくる。その姿ももはや恐怖にしか写らなかった。
壺から白い粉を出し俺の周りに円を描くように振り撒いていた。いつの間にかお面の女も壺を持って現れ中身を手に取り俺の身体に刷り込んできた。どうやら粗塩のようだ。全身くまなく粗塩を刷り込まれる。もちろん性器や肛門にまで。あまりの痛さに狂いそうになったが最後に霊媒師が持ってきた湯気の立つお湯で全身を流された。
これが半端なく暑くてもはや拷問の域だった。歯を食いしばり何とか耐え抜いたが俺の身体はもう限界寸前だった。
そのまま床に倒れこみそれ以上動く事は出来なかった。
今度はお面の女が何かに漬け込んだ葉っぱを俺の全身に貼っていく。霊媒師は相変わらず訳の分からない呪文を唱え耳元で鈴を鳴らす。鼓膜がどうにかなりそうな位鳴らされて、もう耳鳴りしか聞こえなくなっていた。そしてそのまま意識を失った。
次に目を覚ますとお面の女のソファに寝かされていた。部屋には鄭さんとお面を外した美女がなにやら会話をしていた。俺に気が付くと
「大丈夫。取り憑いていた霊は封印されたよ。安心していいって。少し休むといいよ。最後に仕上げがあるけどもう痛い事ではないから心配しないで。」
俺の頭をポンと叩き鄭さんは部屋を出て行った。美女が俺を見つめて何かを言っているが何も答えられない。ジェスチャーも出来ないくらい俺はボロボロになっていた。早朝から始めた御払いだったが外はもう薄っすら暗くなってきている。」
霊媒師が部屋に来て俺の様子を伺うとお面の女に何やら話して出て行った。
女が近付いてくる。とうとう仕上げに入るのか。俺は覚悟した。
お面の女は無表情でゆっくり近付いてきた。
俺の前に来ると服を脱ぎ始めた。
女の裸が見える。
さっき見た身体と明らかに違う部分があった。
豊満な胸の乳首に何か絵具のような物が塗ってある。
絵具が乾いて表面にひびが入っていた。
右には赤黒い色、左には紫と緑が混ざったような色。
霧吹きを胸に吹きかけ絵具が溶けて乳首の先から液体が滴り俺の顔に落ちてくる。
粗塩で揉まれて傷ついていたのでとても滲みる。
液体は何とも言えない臭いがした。
女は無理やり俺の口に乳首を含めさせた。
こういう時って条件反射なのか思わず吸ってしまう。
何とも言えない味が口に広がる。
血のような味。
気持ち悪くなり口から出すともう一方の乳首をまた吸わされた。
平常時に味わいたい状況であるが今の俺には低抗する力もなく、これもまた拷問の一つだった。
口の周りは臭い液にまみれていてとても不快だった。
こみ上げてくる感じはあるが、もう吐く力もなかった。
そして女性の手は俺の股間をまさぐりだした。
正直勘弁して欲しかったが、心と体は裏腹でこんな極地に立たされながらも、男性としての機能を果たしていた。
女性の巧みな性技をもってまたしても放出してしまった。
すると先程と同様に用意してあった小瓶に精子を入れ布を纏って部屋をでていった。
性も根も尽きた俺はそのまま眠ってしまった。
チリーンチリーンと鈴の音で再び目覚めると、霊媒師、お面の女、鄭さんがいた。
「これで終わったよ。
あなたには動物の霊が9体と生霊が1体と浮遊霊が5体憑いていたんだって。
これだけ引き連れていてよく死ななかったな。
祓うのが大変だったと霊媒師が言っているよ。
あなたは憑かれ易い体質だったけど、霊が入り込まないようにしたから、この先取り憑かれる事はもうないだろうって。
無事終わって本当に良かったな。
」
俺は助かった。
その日は鄭さんの家に泊まりぐっすり寝た。
翌朝、代金を持って霊媒師の元を訪れると、庭から男性の叫び声が聞こえた。
覗くと裸の白人の男性が目隠しをされて井戸の前に座らされていた。
そこへ霊媒師が井戸からバケツで液体をすくい上げ男性に頭から浴びせ掛けているところだった。
昨日の自分もこうだったのか、と思うと目も当てられなかった。
お面の女が現れたので代金を渡し、その場を立ち去る事にした。
ちなみに代金は日本円で3万円程度だった。
空港まで鄭さんが見送ってくれた。
鄭さんからお祓いの内容は受けた人間同士なら話しても良い事になっている事を聞いた。
もう20年の前の話だから時効かなと思い今回投稿した。
そういえば鄭さんは仕上げの儀式の後、お面の女性からは性技はうけていないとか。
俺はおまけしてくれたのかな(笑)ちなみに乳首に塗られていたのは鶏の血で霧吹きで吹きかけた液体は一番最初に放出させられた自分の精液だそうだ。
聞いた瞬間また吐きそうになったがグッと堪えた。
井戸の中の液体に関しては鄭さんも謎との事。
話してはいけない理由は、拷問に近い為内容を知った者はお祓いを受けに来なくなってしまうからだそうだ。
俺も内容を知っていたら間違いなく行かなかっただろう。
しかし、除霊率100%といわれ、他国の人間が霊媒師の元へ訪れる事が多いという。
日本で俺の他にこのお祓い受けた人とかいるのかな。
以上でこのお話は終了します。
読みにくいお話を最後までありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話