「とくに十代〜二十代の若い女性に多いのが、リストカットやOD…自傷行為だな」
私の遠い親戚、精神科医をしているFさんは語る。
その時の患者、地元の高校に通っているという少女もまた自傷行為で悩んでいた。
…死にたくはない、むしろ生きたいんだ。
とめどなく溜まる行き場のない哀しみが、誰にも吐き出せなくて…
独り、暗い部屋の中で涙を流しながら自分を傷つける。
「分かりました。まずここへ来てくれたことが、あなたが立ち直る第一歩です。
心の病は、時間は掛かれど必ず治ります。
ゆっくり、慌てずに…一緒に治していきましょう」
少女が心に抱える哀しみや不安、過去の傷…
真正面から向き合い、一つずつ一つずつゆっくりと解決していく。
「ごめんなさい…また、切ってしまいました」
それまで積み上げたものが台無しになってしまったこともあった。
しかし、それでも諦めずに一歩一歩…
一緒になって懸命に、心の問題を乗り越えていく。
その甲斐もあって、少しずつ少女に笑顔が戻りはじめていた。
「あの…私、寂しいです。どうしたら友達って出来るんでしょうか…?」
ある日、少女はそんな相談をしてきた。
「そうだね…まずは少しずつでいい。
自分の出来ることで、周りに優しさを配ってみなさい。」
重い荷物を持っていたり大変な仕事をしている人がいたら、そっと手を貸してあげよう。
疲れている人や落ち込んでいる人を見たら、優しく声をかけてあげよう。
その優しさは、やがて自分に帰ってくる。
そして人のために何かをするということが、自分自身の生きる力になるから。
…その日から、少女の新たな人生がスタートした。
「友達が出来たし、父や母も良くしてくれるようになりました」
そう話す少女の目は、とても綺麗で輝いているように見えた。
「あれ?その傷、どうしたんですか?」
ある日、Fさんは腕の傷について少女に聞かれた。
「ああ…ちょっと、転んでしまってね」
大したことはないと、Fさんは笑って答えた。
「ちょっと、見せてくれますか?」
そう言って、少女はFさんの腕をそっと手に取った。
「痛いの痛いの飛んでけー」
少女は突然、そんなことを優しく唱えだした。
何だか、一瞬フワッと暖かくなったような感覚があった。
(あれ……?)
実に不思議なことに、ジクジク痛んでいた傷の痛みが全く消えていた。
その日家に帰って包帯を外してみる。
我が目を疑ったという。
朝には痛々しくついていた傷が、わずかな跡を残して綺麗に治っていた。
信じられなかったが、少女の話では他にも同じようなことが今まで何度もあったらしい。
言葉に力が宿るという言霊…
また、思い込みにより実際に効果が生じるという現象…
それらはよく聞く話だが、こんなものを実際に目にしたのは初めてだった。
それから少女は無事に立ち直り、精神病院を去っていった。
「未だに信じられないんだが、確かにフワッていう暖かい感覚があったんだよ。」
自分の腕を懐かしそうに擦りながら、Fさんは優しく語っていた。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話