亡き叔父の後を継いだ、古本屋稼業も2年目。
前回の投稿が意外にも受け入れられたようなので、つらつらと少しずつ、他の体験も晒してゆこうと思う。
ある日、ネット買取の品のなかにまたまた変な本が入り混じっていた。
っていうか、送られてきた本全部オカルト関係だった。
多分、そっち系が好きな人がまとめて処分しようとしたんだろう。
あの一件以来、オカルト系には拒否反応が出ていたんだけど、だからって送り返すわけにもいかない。
配送料とかもこっち持ちだしね。
仕方なく査定して、状態の良いものをセレクト。
結局三冊ほど買い取って店頭に並べた。
その買い取った三冊のなかに、一冊だけ妙なのがあったんだよ。
どうやら自費出版物くさい本。
まず装丁がチープだし、新書サイズなのに明らかに薄っぺらい。
査定の時は状態だけを見てたから、気付かなかった。
内容は勿論あやしげ。
「霊魂の鍛え方」とか「魂になる方法」だとか、眉唾な情報満載。
正直、ミスったなーと思った。
こんなんいくら新品同様でも、欲しがるやついないだろ、と。
だがしかし。
予想に反して、そいつは数日後、棚から消えた。
まあ、売れたわけじゃなくて万引きされたんだが。
あんなもんに金を払いたくない気持ちは解るんだけどさ、こっちも商売なんで、万引きされた後は警察にとりあえず被害届出した。
ここで強気な態度に出ないと、今度は漫画とか他の商品まで万引きされてしまう。
近くに中学校があって、あんまり素行よくないとこだから、おそらくそこの生徒だと思ったし。
で、一週間くらいして、店に1人の客がやってきた。
その客は20~30代くらいに見える女の人で、かなり地味だけど良く見ると美人だった。彼女は例の中学の教師で、担当は三年生らしい。
いわく、受験のストレスで受け持ちの生徒が万引きしてしまった、本は気に入ってしまったので出来れば買い取りたい、誰にも知られたくないから代わりに行って欲しいと頼まれた、のだとか。
確かに筋は通る。通るんだけど、なにかが妙だった。先生は癖なのか貧乏ゆすりばかりしていて、まず目が泳いでる。まるで何かにおびえているように。
もしかしたら先生が大事にしたくないから、お金だけ払いに来たのかなとか考えて、一応警察に連絡しますと伝えた(被害届も取り下げなきゃだし)。
すると、先生がすごく渋る。尋常じゃないくらい。やっぱり怪しいので、ちゃんと正直に全部話してくれないと警察に来て貰う、と半ば脅すように聞いた。
最初は困ります云々と抵抗していた先生をなだめすかし説得して、ようやく事の次第を聞き出すことに成功した。
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最近、生徒が自殺を図った。
そいつは万引きの常習犯で、平たく言うなら中学生版DQNのような、何度も警察のご厄介になっていたらしい。
かろうじて命ばかりは取り留めたが意識は未だ回復しておらず、昏睡状態だと言う。
DQNは気が強く乱暴で、キレて暴れると親父さんさえも手を出せないほどだった。仲間内でもボス格で、不満があるなら自殺ではなく他殺するような、そんなタイプ。自殺する理由もなく、なぜそんなことをしたのか想像も出来ないそうだ。
そしてそれから三日ほどたち、今度はDQNの友達が、自宅で首を吊った。こちらは死んだ。こいつも自殺などするわけのない人種だったので、噂が噂を呼び、何かの祟りではないかとか呪いではないかとか、かなり騒がれていたらしい(近所付き合いはほとんどしないので、自分は全く知らなかったけど)。
そしてその次の日。DQNにはもう1人仲のいい友達がいた。そいつは半泣きになりながら先生に相談した。うちから盗んだ本に載っていた方法を試してしまった。「魂になる方法」というやつで、コップに水を入れて文を書いたオブラートを溶かし、それを飲むという方法だったらしい。
自分がまずピンと来たのは、あの有名な怖い話。「おつかれさま」。ゾッとした。
もし、件の話みたいな「霊を呼び込んで体内に取り込む」系の方法だったら、2人が急に自殺なんかしたのは……
とりあえず代金は払いましたし、これ以上は本当に困る、と言って先生は逃げるように席をたった。
自分は二つだけ、気になったことを聞いてみた。
「その生徒は生きているのか?」――今のところは、と答えが返ってきた。
「本は今どこにあるのか?」――捨てました。
先生は強く言い含めるような口調で、また答えた。
目は泳いでた。
怖い話投稿:ホラーテラー 桐屋書房さん
作者怖話