残業で遅くなり、最終バスで帰宅する事になった。
バス停には誰もいない。
夕方から降りだした冷たい雨が、バス停をより一層寂しくさせていた。
午後から雨が降るという天気予報があたったようだ。
俺は、折り畳み傘をさしてバスを待った。
ふと気が付くと、俺の隣に女が一人立っていた。
いつからいたのだろう?
全く気が付かなかった。
女はこの雨の中、傘をさしていなかった。
雨が降る事を知らなかったのだろう。
俺は自分の傘の中に、そっと女を入れた。
「この冷たい雨じゃ風邪をひきますよ。」
そう言うと、女はこっちを少し見て、静かに頭を下げた。
美しい女だった。
色が白く、まるで透き通るような肌だ。
だが俺はある事に気づいた。
女はずっと雨に打たれていたはずなのに、体や髪が全く濡れていなかったのである…
(もしかしたら、この女、この世の人ではないのかもしれないな…)
そんな考えが頭に浮かんだ。俺には少なからず霊感がある。
こういう体験は初めてではない。
しかし美しい女だ…
俺は女に言った。
「もし、あなたが助けを必要としているなら僕が力になりますよ。知り合いに霊能力者もいます。
お寺の住職とも仲がいいです。
良かったら僕に着いて来ませんか?」
女は、寂しいような悲しいような、そんな顔をして俺を見つめていた。
丁度その時、最終のバスがやってきた。
女はササッとバスに乗り込むと俺に言った。
「気持ちわりーなー…」
そしてバスは俺を残し走り去って行った。
バスが去った後に俺はこのバス停に屋根が付いている事に気が付いた…
雨に打たれる事もないのに、俺の頬は濡れていた…
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話