『これ、コピーね。あとこれ、シュレッダーにかけといて。』
課長がタバコをくわえながら書類とメモ用紙数枚を差し出した。
『何枚コピーですか?』
『6枚。』
私がわかりましたと言おうとすると、
『あ、やっぱ7枚で。』
と言葉を遮られた。
『えと、これもシュレッダーにかけて大丈夫なんですか?』
私はメモ用紙に紛れ込んでいた小さな契約書を出しながら言った。
課長は顔をしかめ、頭をガシガシと掻きむしった。
『あーもう歯痒いね!いちいち教えないとわかんないかな!?どう考えてもそれはいらんヤツだろうがよ!お前は言われた書類をさっさとコピーして持ってこい!ユアアンダスタン?』
勢いよくタバコの煙を吐きながら課長は言った。
『…わかりました。』
私はこの小さな広告会社に勤めて今年で3年目のOLだ。
新入社員の頃は優しかった課長も、今やこの通り。
そんな課長に対するストレスは日に日に増すばかりで、いつしか私の肌は荒れに荒れ、嫌なことがあれば精神安定剤をその都度噛み砕く毎日。
今の私の目に、新入社員の頃に宿っていた力はとっくに失われていた。
−ずっとこんな毎日が続くなんて…
無意識にため息をつくと、それに気付いた課長が
『あん?なんだよその態度。』
と言った。
私は手で口を覆い、
『…いえ。』
と言いながらコピー機に向かう。
後ろから課長が舌打ちをしながら
『冗談じゃねぇよクソ豚が。』
とつぶやいたのが小さく聞こえた。
書類をコピー機に載せて、カバーをする。
ピッピッ
3年間培った『慣れ』が半ば自動的にコピー機を操作していく。
『コピー開始』
ガタガタと無機質な機械音が静かなオフィスに響き渡る。
私はコピー機の上に置いた片手の人差し指でコツコツと苛立ちのタップを刻んだ。
誰かに操作され、ただ従順に仕事をこなすこのコピー機と、今の私は何が違うのだろう。
私は無表情で、そんなことを考えていた。
ガーッガーッ
コピーされた書類がコピー機から次々と吐き出されていく。
私はそれを両手でコンコンとまとめ、課長の席まで運んで行った。
『課長、コピー終わりました。』
『…』
悪態をつかれると思っていたが、課長は何も言わずただ椅子に座ってうなだれている。
課長のこめかみには万年筆が刺さっていた。
その先端からは赤い血が滴り落ちている。
『…あ、そうだ。殺したんだった。』
手に付いた血を見ながら、私は頬を緩めた。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話