15年前、新潟の教習所に合宿で免許を取りに行った時の事…
同じ頃に免許を取りに来た人達と親しくなり、楽しい日々を過ごしていた。
私の隣の部屋には、丸刈りで金髪でピアスをしている、譲君という男の子が泊まっていた。
同じ階に二人一部屋で合宿に来た、顔立ちが可愛い恵ちゃんと、綺麗目な感じの陽子ちゃん。
下の階に背が高くてしっかりしていそうな保科君と、自称「躁鬱病で自閉症」の高澤君。
そんなメンバーで、カラオケしたり食事をしたりと、何事もなく教習を受ける日が続き…少々退屈していたのかもしれない。
泊まっていたホテルは割りと綺麗で、一人部屋にはベッドの正面に机と、その上の壁に1.2m位の横幅の長い鏡が貼ってあった。
入り口のドアを開けると右手にユニットバス。
そのまま進むと右手にベッド、左手に机と鏡。
狭くも広くもない部屋は、荷物が少ない為か広々していた。
3週間も過ぎたある夜
譲君と保科君は
「夜遅くに皆で一部屋に集まり変わった遊びをしたい」
と言い出した。
夜中に異性の部屋を行き来するのは、教習所では違反だったが…
結局一人も欠けずに、保科君の部屋に集まっていた。
「ワールドって遊び知ってる?」
二人は知ってるようだったが、私達には分からなかった。
「じゃあ、説明するね」
「暗くして、一人がうつ伏せ、一人が体の決まった場所を順番に押して行くと、押された方は、真っ暗な異世界に落ちる」
…この時点で私は、皆を驚かせようとしているかな?
と感じたが、折角だから黙って参加しようと思った。
「落ちた人はしばらくすると、暗闇にロウソクが見えて来る」
「そこへたどり着くと、声が質問をしてくるから答えると…また新しいロウソクが見えるからそこへ向う」
「数回繰り返すと、今度は質問される」
「貴方の知りたい未来を一つ教えてあげる-と言われるから、質問すると、誰が答えてくれるって遊び」
二人は私達に説明を続ける
「ただ、注意する事が…」
「ロウソクを辿る間にいろんな物を見るんだけど…どうも怖いものだったり‥ひとそれぞれらしいんだけど」
「その時に声を出したり返事をしちゃいけないらしいんだよね」
なんだそれ?
と思いながら聞く
…返事をしたり声をあげたら、一瞬真っ暗な所へ落ちる感覚がして、単にこの遊びはおしまい!と二人は笑った。
付け加えて、怖いのが我慢出来ないと思たら、ロウソクに向かって「消えろ!」と思いながら息を吹き付ければ、遠くても火が消えて、スンナリと現実に戻れると教えてくれた。
女の子達は
「え~じゃあ、どんな人と結婚するとか知りたくない?」
「それよかお金持ちになれるか知りたいよね?」
などと呑気にしていた。
遊びが始まり、譲君が横になり、保科君がツボを押しはじめた。
保科君は最後に首と左手首をつかんで、放すなって言われている、と言って視線を譲君に移した。
ほんの少しすると、譲君の体がピクっと動く。
「多分、一本目のロウソクを消したかな?消す度に少し体が動くって…」
その時
譲君の体がビクビクと動き、腕や足が跳ね上がり…保科君の手を振りほどいてしまった。
女の子達はびっくりして小さく声をあげ、高澤君は部屋の隅へ飛び退き両腕で頭を抱えて震えていた。
私は黙って譲君と保科君を見ていたが、保科君は怯えた顔で私を見返し
「手を放すなって…言われてたんだ。なんか‥放すなと戻れなくなって…脱け殻になるって…脱け殻ってなんだろ?なんで…こんなの聞いてないよ!」
女の子達は
「どうしよう…譲君どうなっちゃうの?人呼んだ方が良いの?」
「でも…集まってたのバレたら退学だよ?」
と心配していた。
私一人が普通に
「まぁ…脱け殻って言っても死んじゃう訳じゃないだろうし。朝までここで譲君が気がつくのを待とうよ。」
「んで、気がつかなかったら、朝方各自部屋に戻ろう。その後で譲君を呼びに行ったら、返事が無くて…部屋の鍵が空いてたから入ったら倒れてたって言おう」
その途端に譲君が起き上がり
「なんだ~ヤケに冷静だなぁ!もっと驚いてよ~」
と笑った
皆もホッとして口々に何か話していたが…
本当に怖い事はこの後始まった。
部屋の空気は一気に和んでいたが、高澤君は余程怖かったのか、少しも話をしない。
「何だよ~そんなに怖かった?ほら、こっち座れよ!」
保科君と譲君が高澤君を挟んでベッドの上に座り直した。
ベッドの3人から見て、右手の床に女の子達が座り私は女の子達の正面の椅子に座っていた。
ふと、3人の正面の大きな鏡を見ると、違和感がある。
なんだろう…
あれ…鏡に…
譲君と高澤君の間に
誰かがいる
顔だけが前に出て…
首の後ろがチリチリとした。
鏡じゃない方は?
確かめる事なんて出来ない!!
冷えた汗が吹き出すと同時に下を向いた。
見た…顔の表情まで
だけど!アレは…胸から下の体がなかった―
だって二人の間は、もう一人が並ぶスキマはない。
見ちゃダメだ…
誰も気付いていない。誰にも言わない方がいい…気のせいかも知れないし、もう夜中の2時近い。これ以上怖いのはゴメンだ。
皆が部屋を出るとき、高澤君が凄い小さい声で私に言った。
「知ってたよ…電気消えてから......たよ」
え?なに?知ってたって…最後の方が聞こえないんだけど!
逃げるように高澤君は部屋へ帰った。
私はその意味が分からず、胸が痛く成る程ドキドキした。
部屋に戻って、どうしよう…何をしてても怖い。トイレだって行かれない。譲君か保科君をこっちに呼ぶか…
思案していると譲君が来た。正直ドアを開けるのも怖く…寝たフリさえ考えた。
入って来た譲君は悲痛そうな声で
「メイジさん…部屋に入れて下さい!オレ…今」いいかけた瞬間
「ドン!ドン!」
譲君の部屋のドアを蹴るような音が…
譲君は部屋に飛び込み、私は急いで扉を閉めた。
「今、風呂場で顔洗ってて、鏡みたら…」
「半分空いたドアのとこ、後ろ…誰かが通って」
「オレ…振り向いて、あ、れ、もう一度鏡見ちゃ‥」
譲君の額に汗が吹き出し流れ落ちてた。
「いや、もういいよ!明日‥明るいトコで話そう。保科君の、いや…女の子の部屋に行こう。ウノ持って。」
その後、明け方までウノをして、私と譲君はホテルの食事処の回りのソファーでウトウトした。
二人で朝食後、それぞれ見たモノの特徴を話し合った。
オカッパのような髪型、男か女か分からない感じ。
でも…異様に張り付いた笑顔。
ほぼ一致したのだ。
その日教習が修了し、明日は譲君の実技試験の日だった為、私達はさっさと部屋に引き上げた。
譲君は余りに怖かったようで、保科君の部屋に行って寝かせてもらうと言っていた。
どっちにしても怖いなら、何も感じていない保科君の部屋にいた方が良い。
私も女の子の部屋に泊めてもらった。セミダブルベッド2個を並べて端に眠らせてもらった。
翌日
教習所のコースの見えるガラス張りのロビーに譲君が立っていた。外を見ていたようだ。
試験は午後からだったな…
なんとなく後ろ姿を見ていると、女の子達が来て
「あ、ねぇ、譲君だ!今日ははじめて見たね」
「あの後ろの人誰だろね?」
後ろの人?って…
「何かさ、近くない?ね~!何もすぐ後ろに立たなくたってね!置いてあるプランターと譲君の間?なんだろね?」
「変な人?あ、ねぇ、メイジは午後.....なの?で...」
女の子達は普通に何か言って笑ってる。
もう何言われてるのか良く分からない。
後ろの人?
後ろの人などいない。
私には…見えなかった―
翌日から譲君の姿は見掛けず、すれ違ったまま彼は誰にも何も言わずにいきなり帰ってしまった。
試験は合格、予定通りの日数で合宿を終えただけだった。
皆は、あんなに仲良くしてたのに何で?と不思議に思っていたようだが、2日遅れて私達も合宿のホテルを後にした。
地元に帰ってから、一度だけ譲君に電話してみたが、お母さんが出て
「合宿から帰って来て…様子がおかしいんです。何かあったんでしょうか?」
と言われた。
何も答えられず、それきり連絡が取れなかった。
高澤君は何を知ってたのかも、ついに聞く事が出来なかった。
今も時々鏡を見るのが怖い。
大変長い話を読んでくださってありがとうございました。
つまらなかった方には申し訳ありません…ただ、出来事をそのまま載せてしまって。
長文失礼しました。
怖い話投稿:ホラーテラー メイジさん
作者怖話