短編2
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雪女

春、桜の蕾が開き始めた頃の話です。

僕は友人に誘われて港に行きました。

静岡県のマグロで有名な所ですが、気まぐれな友人が突然「海釣りしたい!」と言い出して、付き合わされました。

僕は釣りなどしたことはなく、ものの半時程で飽きてしまい港をぶらぶらさ迷っていました。

港の外れの方に行くと、一台の軽自動車が海に向かって荷台を開けているのが見えます。

「?」

おじさんが一人で楽しそうに風船を作り始めました。ガスボンベでお祭りの屋台で作るように幾つも幾つも膨らませます。

暇を持て余していた僕は興味本位でおじさんに話しかけました。

僕「今からこの風船飛ばすんですか?沢山ありますね~」

お「このままじゃなくて、重りを付けるんだ。氷のね。冷凍マグロをサイコロにしてあるから、君、暇なら付けるの手伝ってくれるかな?」

僕「いいですよ~ホントに暇だし」

軽自動車は冷凍車になっていて、なんか大きな籠の様なものの中にサイコロ状の冷凍マグロがいっぱい入ってました。

僕はサイコロを風船に付けながら何気に、楽しそうに作業しているおじさんに訪ねました。

僕「でもこれって何のために飛ばすんですか?なんかの餌?それともおまじないとか?(笑)」

お「おっ、凄い、どっちも当たり。実は俺の彼女が凄いワガママな奴でね、もう春なのに雪が見たいってゆうのよ。しかもここ静岡でね。静岡なんて真冬でも雪なんか降らんのにね~。で、ちょっと沖の方のカモメに餌バラまくと天気が荒れるって昔からのアレね!言い伝え」

僕「でもお連れの方、姿が見えませんが?」

お「実は3日程前に喧嘩しちゃってね~ あ、ウチ魚屋だからちょっと懲らしめてやろうと思って冷凍庫に閉じこめちゃったんだよ。で、今朝出してやろうと思って扉開けたらカッチカチ。じゃあこの際お前が雪になって飛んでっちゃえって事で、これマグロじゃなくてホントは彼女のサイコロ」

僕は丁度マグロの目玉を風船に付けようとしている所でした。

目玉が僕を悲しそうに見上げます。

お「もち冗談だよ!あ、言わなくても分かるか!!あはは~」

僕も一緒に笑いました。

結局何のために風船を飛ばすのかは判らずじまいでしたが、判った事がひとつあります。

最近のマグロはお洒落で、ピアスをつけているということ。

僕とおじさんはその後黙々と風船を飛ばしました。

翌日、

静岡気象観測史上初めて、満開の桜の木に雪が積もりました。

その景色は絶景でした。

怖い話投稿:ホラーテラー ジロウさん  

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