ある日、夫が働いている会社が倒産してしまった。私は途方にくれた。
家のローンもまだまだ残っているし、娘も最近私立の高校に入学したばかりだ。そんな時に夫の会社が倒産なんて、最悪だ。
なので私はパートの時間を増やし、そしてもうひとつパートを掛け持ちする事にした。
娘もバイトを始めてくれて、少しは生活費を出してくれた。
夫もバイトをしながら就職活動をしていたが、なかなか就職先は見つからなかった。
そんなこんなで一年が経った。そしてある日の夜。夫は私たちに信じられない事を言った。
「実は…友達の借金の保証人になってたんだ。それで…実は友達が自殺しちゃったらしくて…だから五千万の借金ができてしまった。」
無責任な友達だな。
しかも、こんな支払い能力がない夫を保証人に出来るなんて、きっと悪徳な金融会社だろう。
何故、私の夫はこんなにも馬鹿なのだろうか。お陰でこっちはいい迷惑だ。こんな人と出会ったのは私の人生の中で1番の汚点かもしれない。
まぁそんな事を言っていても仕方ない。
私は、パートの他に、夜の仕事も増やした。
娘もバイトを増やしてくれたらしく、前よりも生活費を多めに出してくれた。そして娘はスーパーでバイトしてるので、バイト先から野菜などの食べ物をよくもらってきてくれた。
娘は私が辛くなった時「元気出して!私も頑張るから!」と言って私を励ましてくれて、少しでも生活費になればと、まだまだ遊びたい年頃なのに我慢して毎日バイトをしてくれているのだ。
何て娘はいい子なのだろう。娘は、私にとっての一縷の光だ。夫は何故私と娘を不幸にしていくのだろう。
私はいらいらした。
だが娘の不幸はこれで終わらなかったのだ。
次の日、娘は泣きながら帰ってきた。
「どうしたの?なんかあったの?」
私は聞いてみた。しかし娘は泣いていて、喋ろうにも喋れなかったみたいだ。
しばらくして娘は落ち着いたらしく、何があったのか話してくれた。
「実はね…、今日学校に行ったら救急車がきてたの…何かなと思ったら……親友のKちゃんが首を吊って死んでたの。どうやら遺書もあったらしくて。Kちゃんいじめられてたんだって。私、気付いてあげられなかった!!!あんなに近くにいたのに!」
娘はまた泣き崩れた。
私は何もかもが許せなくなった。娘から、大切な友達まで奪うやつがいるなんて。
私は娘の自由を奪った夫を憎んだ。
そして、娘から大切な友達を奪った奴らを憎んだ。
私は、全てを憎んだ。
そして、私は気付いたのだ、今この人生をちゃんと歩んだところで良いことはあるのか?娘に良い人生はくるのか?所詮人間なんて不平等な生き物だ。この世界にいたっていいことはないのだ。
1番平等な世界に行きたい!その時、思いついた。
「ねえ、お母さんと一緒に天国に行こう。」
私は娘につぶやいた。
「それって死ぬってこと?」
娘は何故か優しい口調で私にきいてきた。
「そう、一回死んでから天国に行って暮らすの。そうすればまたやり直せるわ、私もあなたも頑張ったもの、絶対天国に行けるわ。」
私もいきなりの思いつきで言ってみたものの、本気だった。
「…うん、いいよ。」
娘は笑顔で承諾してくれた。
そして、私たちは今日の夜、首を吊って死んだ。
……天国にいける。
私は目が覚めた。どこだろう、何だか温かい。そして綺麗な空。私は確信した。天国だ。
しばらくすると、変な男の人がやって来てこう言った。
「天国へようこそ。あなたは現世で悪い事をしてないので審査の結果、天国に決まりました。」
審査で決めるのか、若干リアルで笑ってしまった。
「そういえば私の娘は?一緒に来てるはず何だけど。」
私は変な男に聞いた。そしたら笑顔でこう言った。
「あなたの娘さんは、審査の結果、地獄に決まりました!」
私は頭がおかしくなりそうだった。(今振り返ると現世でもおかしくなってるが。)
「どうして!!どうして私の娘が!!!?」
そうすると、変な男は説明し始めた。
「あなたの娘さんはとてもいい子でした、あなたの前だけでの話ですが。まず、あなたの夫の会社が倒産した時ですが、娘さんはそのストレスを発散したいと考えていたのでしょうね、彼女は高校でターゲットを決めていじめを行いました。それが地獄に落ちる原因の一つめ。」
私は驚きもせず何故か冷静になっていた。
「そして、あなたの夫が借金をした時です。あの時からですかね?やたらと娘さん生活費を出してくれたと思いませんか?それもそのはず、娘さんはあなたが夜の仕事をしてる間に、街に出て売春をしてお金を稼いでたのですから。お母さん思いですね!
ちなみに彼女がスーパーでバイトをしているって言うのは嘘です。あの野菜などの食べ物は万引きで盗ってきたものです。それが二つめと三つめ。そして最後ですね。」
もう予想もついてた。
「そう、いじめで人を死に追いやりました。ちなみに、最初にいじめてた子です。ずいぶん長くいじめてましたね。まだあなたの夫の会社が倒産した時は、無視や陰口程度のものでした。
しかしあなたの夫が借金をしてからは、急にいじめがエスカレートしました。トイレで水をかけるのは日常茶飯事、伸ばしてた髪をばっさり切ってみたりもしてたみたいですね、そして殴ったり蹴ったりすることも増えていきました。その子に暴行を加えてる時に娘さんがいつも言ってた言葉があります。」
(あんたの顔、お母さんに似てて欝陶しいんだ、この馬鹿女!!)
あー、夫と別れないことが馬鹿ってことかな?思えばそうだな、私は後悔した。
変な男の説明は続く。
「そして、いじめられてた子は堪えられなくなり自殺しました。まぁ、それを見てあなたの娘さん笑ってましたけどね!ただあなたの前では泣いてたみたいですけど…たいした演技力です。まあそれが最後です…」
私は娘の事は眼中になかった。もうどうでもいい、ただ私の育てかたが甘かったかな?私は笑ってしまった。そして聞いてみた。
「夫が死んだらどこに行くと思いますか?」
変な男は、
「きっと天国でしょうね!!」
と笑って言った。
どこに言っても不平等、平等な世界はどこにいってもないのか。
私は笑い崩れてしまった。
怖い話投稿:ホラーテラー とり辺さん
作者怖話